専務、その溺愛はハラスメントです ~アルファのエリート専務が溺愛してくるけど、僕はマゾだからいじめられたい~

カミヤルイ

文字の大きさ
上 下
50 / 92
オメガじゃないオメガ

しおりを挟む
 医師は再びうなずき、今度は図を書いて示した。

 オメガは、相性のいいアルファ(いわゆる運命の番と言える)か、強いホルモンを持つ優勢アルファと関わり性的興奮を感じると、通常よりも多いホルモンを発生させる。しかし普段ホルモン値が低いオメガの場合には、大量の出血をしたのと同等の負担がかかるため、身体がその負担を和らげようと働く。
 発情フェロモンがピークに達する前に脳が射精を促し、ホルモンの流出を終わらせようと自衛反応を起こすのだ、と。

「それと一番の問題点ですが、藤村さんの場合は抑制剤の影響で子宮が未発達な上、ハイアルファである叶さんがお相手ですよね。となると先ほど言ったように、普段は空っぽの藤村さんのホルモンを叶さんが一旦爆発的に上げてしまう。結果、脳が勘違いを起こし、もう充分にホルモンを出したから、子宮にも栄養が行き渡っただろうと……つまりは子宮の発育を止めてしまうんですね」
「え……じゃあ、僕は……ハイアルファとも、運命の番とも……出会っても、上手くいかないってこと、ですか?」

 生殖機能が未発達な時点ですでに悪い結果だった。だがそれを凌ぐ宣告に、頭を強く殴られたような衝撃が走る。

 相手が光也では駄目だと言われているのだ。
 千尋は光也の顔を見ることはできなかったが、光也も同様に息を詰めている様子が感じとれた。

「そういうことですね。藤村さんにはハイアルファ……叶さんとの性交渉は大きな負担になります」

 室内が沈黙に包まれる。診察室奥の処置準備室や、待合室の音がいやに響いて感じた。
 千尋の頭の中には最後の医師の言葉が何度も巡っている。

 ──ハイアルファとの性交渉は、大きな負担となります。

「……でも、死ぬわけじゃないんですよね?」
「千尋?」

 ぽつりと発した言葉に、座ったまま動かなかった光也が反応し、千尋の横顔を見る。
 光也の戸惑いの視線を感じながら、千尋は真っすぐに医師を見て口を開いた。

「大きな負担がかかるけれど死ぬわけじゃないし、子宮は未発達でも、受け入れるのは不可能じゃない……射精しなければ、負担にはなるけどフェロモンを保っていられる。先生、そうですよね?」
「……」

 しばし沈黙をとどめたのち、医師は答える。

「言い換えれば、そうなりますね。重なりますが、今の藤村さんとハイアルファ男性との性交渉はベータ性の男性同士の際の疼痛とは比になりませんし、吐精感もそうです。生命に関らないとは言いましたが、苦痛は大変強く、似た症例の方は全て断念されています。それでも、望まれますか? 叶さんと、番うことを」

 医師は反対するでもなく、賛成するでもなく、ただ、静かに意思を聞いてくる。

「千尋、駄目だ……千尋に負担はかけられない。俺は番えなくても、千尋がそばにいるならそれで……」

 先に答えたのは光也だ。顔色が悪い。

「みっくん」

 千尋は医師から光也へと視線を移し、緊張を感じる大きな手を力を込めて握った。診察室に入る前とは逆だ。

「みっくん。僕は諦めたくないんだ。今までずっとじぃちゃんや課長に言われるままにやってきた。でも、僕はもう自分の意思で生きていける。みっくんが僕を救ってくれたから……だからお願い。これからも僕を助けて、支えてください。そして、僕の、番になってください」
「千尋……」

 光也の苦渋の表情が緩んでいく。目の縁が少し濡れているように見えた。
 光也は瞼を伏せ、千尋の両手を包んだ上に額を乗せると、こすりつけるようにして何度もうなずいた。  

「……それでは、私から提案があります」

 千尋と光也の意志が固まった様子を確認した医師が言い、二人は手を取り合ったまま医師に顔を向けた。
しおりを挟む
感想 134

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

処理中です...