事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ

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僕の運命のつがいは僕を愛さない

僕の運命のつがいは僕を愛さない①  スピンオフもスピンオフを許容できる方のみ推奨

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 名家「嘉川家」にただひとり、オメガとして生まれた僕、嘉川葵に自由や選択権はなかった。

 はたから見れば「箱入り」の生活は、僕にとっては「檻」そのもの。

 着る服から習い事や進路まで、全てを親が決め、完璧を求める。
 それは僕を将来、政治家か大企業のアルファに嫁がせるためだ。

 僕は嘉川家の息子ではなく、有力アルファと縁を持ち、優秀な遺伝子アルファを孕むための道具なのだ。

「お前はそれでしか家の役に立てないだろう」

 父はそう言った。
 そして僕が逃げ出したり、父が望まないアルファと過ちをおかさないよう、小学校に通う頃から護衛と言う名の監視役をつけ、二十四時間僕の行動を見張らせている。
 
 監視役の彼、松井賢人は代々僕の家で護衛の仕事に就いている一門の人間だ。
 だけど二歳しか違わない。監視役になったときから、幼稚園から大学までエスカレター式に上がる私立校に中途編入させられてまで、僕の傍らにいる。

 僕はずっと思っていた。松井さんがいっそ、嫌な人間なら良かったのに……と。

 松井さんは寡黙で控えめで、寄り添うような姿勢で僕のそばにいる。
 僕が親に厳しいことを言われれば涙を拭いてくれ、家という檻の中で不自由さを感じていれば、自分が同伴するからと父に言って、ときどきだけれど世間一般の普通の遊びを体験させてくれもした。

 だから僕は、いつしか松井さんを幼馴染だと錯覚するようになっていた。
 監視されているのではなく、僕を友人だと思ってくれているのだと。
 
 だけど違った。

 中学三年生のときだった。僕に好きな人ができた。
 応援してくれると思って、松井さんに相談した。すると彼は、親にはバラさなかったけれど少しも協力してくれず、それどころか僕が好きな人に近づく機会を奪ったうえ、最終的には、僕のことを好きだと言ってくれた相手を脅して恋を潰した。

 結局松井さんは、単なる僕の監視役だったのだ。

 僕はショックを受け、そのときから松井さんと口をきかなくなった。
 松井さんは仕事なので、僕から目を離すことはなかったけれど。

 そして、大学を卒業する頃だ。
 とうとう僕に縁談が持ち上がった。

 相手はひと回り以上年上の、結婚が二度目となる有名な政治家だった。
 アルファの子供がいるがふたりとも女性だから、男性のアルファの跡継ぎが必要なのだと。はっきりと口にした。

 また、舐めるように僕を見ると、「啼かせがいがありそうだ」と冷笑した。


 ――嫌だ。僕は一度も誰とも恋を交わさないまま、愛情のかけらもない相手に嫁ぐのか。

 わかっていたはずなのに、突きつけられた現実に絶望した。
 だけどこの運命から逃がれることはできない……「運命」……?

 「運命」というのなら、オメガ性には運命のアルファ性がいるという。
 もし本当にいるのなら、僕にとって危機的状況にある今、現れて攫ってはくれないだろうか。

 そう思った僕は、全てを諦める前に、初めて足掻くことにした。
 結婚の前にひとつだけやりたかったことをやりたいと…労働を味わってみたいと嘘をついて親に必死で頭を下げ、親の事業の系列会社で事務をすることに成功した。

 もちろん松井さんには相談しなかった。

 松井さんは僕の縁談に賛成していて、結婚しても護衛としてついてくるとまで言っているのだ。
 本当は運命の相手を探すためだと知ったら、邪魔をしてくるだろう。

「僕は働きに行くんです。だから出すぎた護衛はしないでください。父の言いつけどおり送迎は甘んじて受けますが、それ以外の時間は近くにいないでくださいね」

 会社には会社の警備員もいる。
 僕はそれを理由に、松井さんの監視の目を緩めることにした。

 そして、初出社するなり出会った。
 僕の「運命のつがい」に────


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