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僕の運命のつがいは僕を愛さない
僕の運命のつがいは僕を愛さない① スピンオフもスピンオフを許容できる方のみ推奨
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名家「嘉川家」にただひとり、オメガとして生まれた僕、嘉川葵に自由や選択権はなかった。
はたから見れば「箱入り」の生活は、僕にとっては「檻」そのもの。
着る服から習い事や進路まで、全てを親が決め、完璧を求める。
それは僕を将来、政治家か大企業のアルファに嫁がせるためだ。
僕は嘉川家の息子ではなく、有力アルファと縁を持ち、優秀な遺伝子を孕むための道具なのだ。
「お前はそれでしか家の役に立てないだろう」
父はそう言った。
そして僕が逃げ出したり、父が望まないアルファと過ちをおかさないよう、小学校に通う頃から護衛と言う名の監視役をつけ、二十四時間僕の行動を見張らせている。
監視役の彼、松井賢人は代々僕の家で護衛の仕事に就いている一門の人間だ。
だけど二歳しか違わない。監視役になったときから、幼稚園から大学までエスカレター式に上がる私立校に中途編入させられてまで、僕の傍らにいる。
僕はずっと思っていた。松井さんがいっそ、嫌な人間なら良かったのに……と。
松井さんは寡黙で控えめで、寄り添うような姿勢で僕のそばにいる。
僕が親に厳しいことを言われれば涙を拭いてくれ、家という檻の中で不自由さを感じていれば、自分が同伴するからと父に言って、ときどきだけれど世間一般の普通の遊びを体験させてくれもした。
だから僕は、いつしか松井さんを幼馴染だと錯覚するようになっていた。
監視されているのではなく、僕を友人だと思ってくれているのだと。
だけど違った。
中学三年生のときだった。僕に好きな人ができた。
応援してくれると思って、松井さんに相談した。すると彼は、親にはバラさなかったけれど少しも協力してくれず、それどころか僕が好きな人に近づく機会を奪ったうえ、最終的には、僕のことを好きだと言ってくれた相手を脅して恋を潰した。
結局松井さんは、単なる僕の監視役だったのだ。
僕はショックを受け、そのときから松井さんと口をきかなくなった。
松井さんは仕事なので、僕から目を離すことはなかったけれど。
そして、大学を卒業する頃だ。
とうとう僕に縁談が持ち上がった。
相手はひと回り以上年上の、結婚が二度目となる有名な政治家だった。
アルファの子供がいるがふたりとも女性だから、男性のアルファの跡継ぎが必要なのだと。はっきりと口にした。
また、舐めるように僕を見ると、「啼かせがいがありそうだ」と冷笑した。
――嫌だ。僕は一度も誰とも恋を交わさないまま、愛情のかけらもない相手に嫁ぐのか。
わかっていたはずなのに、突きつけられた現実に絶望した。
だけどこの運命から逃がれることはできない……「運命」……?
「運命」というのなら、オメガ性には運命のアルファ性がいるという。
もし本当にいるのなら、僕にとって危機的状況にある今、現れて攫ってはくれないだろうか。
そう思った僕は、全てを諦める前に、初めて足掻くことにした。
結婚の前にひとつだけやりたかったことをやりたいと…労働を味わってみたいと嘘をついて親に必死で頭を下げ、親の事業の系列会社で事務をすることに成功した。
もちろん松井さんには相談しなかった。
松井さんは僕の縁談に賛成していて、結婚しても護衛としてついてくるとまで言っているのだ。
本当は運命の相手を探すためだと知ったら、邪魔をしてくるだろう。
「僕は働きに行くんです。だから出すぎた護衛はしないでください。父の言いつけどおり送迎は甘んじて受けますが、それ以外の時間は近くにいないでくださいね」
会社には会社の警備員もいる。
僕はそれを理由に、松井さんの監視の目を緩めることにした。
そして、初出社するなり出会った。
僕の「運命のつがい」に────
はたから見れば「箱入り」の生活は、僕にとっては「檻」そのもの。
着る服から習い事や進路まで、全てを親が決め、完璧を求める。
それは僕を将来、政治家か大企業のアルファに嫁がせるためだ。
僕は嘉川家の息子ではなく、有力アルファと縁を持ち、優秀な遺伝子を孕むための道具なのだ。
「お前はそれでしか家の役に立てないだろう」
父はそう言った。
そして僕が逃げ出したり、父が望まないアルファと過ちをおかさないよう、小学校に通う頃から護衛と言う名の監視役をつけ、二十四時間僕の行動を見張らせている。
監視役の彼、松井賢人は代々僕の家で護衛の仕事に就いている一門の人間だ。
だけど二歳しか違わない。監視役になったときから、幼稚園から大学までエスカレター式に上がる私立校に中途編入させられてまで、僕の傍らにいる。
僕はずっと思っていた。松井さんがいっそ、嫌な人間なら良かったのに……と。
松井さんは寡黙で控えめで、寄り添うような姿勢で僕のそばにいる。
僕が親に厳しいことを言われれば涙を拭いてくれ、家という檻の中で不自由さを感じていれば、自分が同伴するからと父に言って、ときどきだけれど世間一般の普通の遊びを体験させてくれもした。
だから僕は、いつしか松井さんを幼馴染だと錯覚するようになっていた。
監視されているのではなく、僕を友人だと思ってくれているのだと。
だけど違った。
中学三年生のときだった。僕に好きな人ができた。
応援してくれると思って、松井さんに相談した。すると彼は、親にはバラさなかったけれど少しも協力してくれず、それどころか僕が好きな人に近づく機会を奪ったうえ、最終的には、僕のことを好きだと言ってくれた相手を脅して恋を潰した。
結局松井さんは、単なる僕の監視役だったのだ。
僕はショックを受け、そのときから松井さんと口をきかなくなった。
松井さんは仕事なので、僕から目を離すことはなかったけれど。
そして、大学を卒業する頃だ。
とうとう僕に縁談が持ち上がった。
相手はひと回り以上年上の、結婚が二度目となる有名な政治家だった。
アルファの子供がいるがふたりとも女性だから、男性のアルファの跡継ぎが必要なのだと。はっきりと口にした。
また、舐めるように僕を見ると、「啼かせがいがありそうだ」と冷笑した。
――嫌だ。僕は一度も誰とも恋を交わさないまま、愛情のかけらもない相手に嫁ぐのか。
わかっていたはずなのに、突きつけられた現実に絶望した。
だけどこの運命から逃がれることはできない……「運命」……?
「運命」というのなら、オメガ性には運命のアルファ性がいるという。
もし本当にいるのなら、僕にとって危機的状況にある今、現れて攫ってはくれないだろうか。
そう思った僕は、全てを諦める前に、初めて足掻くことにした。
結婚の前にひとつだけやりたかったことをやりたいと…労働を味わってみたいと嘘をついて親に必死で頭を下げ、親の事業の系列会社で事務をすることに成功した。
もちろん松井さんには相談しなかった。
松井さんは僕の縁談に賛成していて、結婚しても護衛としてついてくるとまで言っているのだ。
本当は運命の相手を探すためだと知ったら、邪魔をしてくるだろう。
「僕は働きに行くんです。だから出すぎた護衛はしないでください。父の言いつけどおり送迎は甘んじて受けますが、それ以外の時間は近くにいないでくださいね」
会社には会社の警備員もいる。
僕はそれを理由に、松井さんの監視の目を緩めることにした。
そして、初出社するなり出会った。
僕の「運命のつがい」に────
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