60 / 71
事故つがいの夫が僕を離さない!
軌跡 Side理人①
しおりを挟む
長かった夏が終わり、秋めいてきた十月。街を歩く人々の服装も長袖になっている。
俺と天音は新しいシーツを買うためと、俺のある目的のために外出をしていた。
「あ、理人見て。僕たちの中学の子だ」
「本当だ。そういえば十月って、合唱コンクールの時期だね。日程が変更になっていなきゃだけど」
駅の近くまでくると、通っていた中学の制服を着た生徒数人とすれ違った。
今日は土曜なので、昼時に帰宅しているのだろう。
「そうだね! 懐かしいな……」
微笑んでそう言うと、天音の癖ではあるが、歩きながらも俺の腕にコテンと頭をくっつけて体を寄せてくる。
さらに、指を絡めて繋いだ手をきゅっと握ってきて、もう可愛いのなんのって。このままもう、家に連れ帰って致したい気分になってしまう。
でも我慢だ。天音はネットショッピングより現物を見て買いたがるから、今日シーツを買っておかないと、後日ひとりで買い物に出かける可能性が大きい。この危なっかしい俺のつがいをひとりで出歩かせるのは、極力避けたい。
俺たちは二十三歳になったが、今でも純粋無垢な天音は騙されやすい。
ナンパをしてくる輩の声かけにバカ正直に答えて相手をしてしまうし、パート先に天音目当てて通う客の長話に付き合いそうになるらしい。
バイト先の客に関しては真鍋さんがいるからうまくあしらってはくれるが、俺はいつも気が気でない。
純粋無垢なだけではなく、外見が大人になってきた天音は色気が増しているのだ……まぁ、ね? 俺がたっぷりと愛情を注いでいるからだ、という自負もあるけれど。
「ねぇ、理人。僕、合唱コンクールがあって良かったな」
天音を愛しく見つめていると、薄桃に染まった頬を俺に向けて、ふにゃっと微笑んだ。
――とにかく可愛い。言うこともいちいち可愛い。なんだろうこの生き物は。自然界の至宝だな。
「俺もだよ。天音と出会ったきっかけだもんね。でも、もっと早く天音の存在に気づいていたら良かったな。そしたら、中学での思い出もたくさんできたのに」
登下校デートとか、教室でカーテンに隠れてキスとか。家で勉強に誘ったらいい雰囲気になって、制服のシャツの裾から手を入れるとか……。
そうやって楽しい妄想をしていると、にわかに天音の表情が翳った。
「天音?」
「……でも……理人は中学のとき、彼女が……いた、よね」
あー、なるほど。
それでそんな悲しい顔をしてくれるんだ。やっぱり天音は可愛いね。
でも俺は、彼女のことなんてすっかり忘れていた。
なぜなら彼女は、本当は「彼女」なんかじゃなかったのだから。
俺と天音は新しいシーツを買うためと、俺のある目的のために外出をしていた。
「あ、理人見て。僕たちの中学の子だ」
「本当だ。そういえば十月って、合唱コンクールの時期だね。日程が変更になっていなきゃだけど」
駅の近くまでくると、通っていた中学の制服を着た生徒数人とすれ違った。
今日は土曜なので、昼時に帰宅しているのだろう。
「そうだね! 懐かしいな……」
微笑んでそう言うと、天音の癖ではあるが、歩きながらも俺の腕にコテンと頭をくっつけて体を寄せてくる。
さらに、指を絡めて繋いだ手をきゅっと握ってきて、もう可愛いのなんのって。このままもう、家に連れ帰って致したい気分になってしまう。
でも我慢だ。天音はネットショッピングより現物を見て買いたがるから、今日シーツを買っておかないと、後日ひとりで買い物に出かける可能性が大きい。この危なっかしい俺のつがいをひとりで出歩かせるのは、極力避けたい。
俺たちは二十三歳になったが、今でも純粋無垢な天音は騙されやすい。
ナンパをしてくる輩の声かけにバカ正直に答えて相手をしてしまうし、パート先に天音目当てて通う客の長話に付き合いそうになるらしい。
バイト先の客に関しては真鍋さんがいるからうまくあしらってはくれるが、俺はいつも気が気でない。
純粋無垢なだけではなく、外見が大人になってきた天音は色気が増しているのだ……まぁ、ね? 俺がたっぷりと愛情を注いでいるからだ、という自負もあるけれど。
「ねぇ、理人。僕、合唱コンクールがあって良かったな」
天音を愛しく見つめていると、薄桃に染まった頬を俺に向けて、ふにゃっと微笑んだ。
――とにかく可愛い。言うこともいちいち可愛い。なんだろうこの生き物は。自然界の至宝だな。
「俺もだよ。天音と出会ったきっかけだもんね。でも、もっと早く天音の存在に気づいていたら良かったな。そしたら、中学での思い出もたくさんできたのに」
登下校デートとか、教室でカーテンに隠れてキスとか。家で勉強に誘ったらいい雰囲気になって、制服のシャツの裾から手を入れるとか……。
そうやって楽しい妄想をしていると、にわかに天音の表情が翳った。
「天音?」
「……でも……理人は中学のとき、彼女が……いた、よね」
あー、なるほど。
それでそんな悲しい顔をしてくれるんだ。やっぱり天音は可愛いね。
でも俺は、彼女のことなんてすっかり忘れていた。
なぜなら彼女は、本当は「彼女」なんかじゃなかったのだから。
731
お気に入りに追加
3,778
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる