事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ

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運命と出逢った俺は、運命とつがえない

夜を超える② Sideすばる

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「岳人さん?」
「な、なんで下穿いてないんだ!」
「えっ? パンツ穿いてないの、わかっちゃいますか?」
「ええっ、パンツ? パンツも穿いてないのか? 穿きなさい、今すぐ穿きなさい!」
「ええ~~~嫌です。気持ち悪いもん!」
「わがまま言わない!」
「わがままじゃな……あっ」

 再び洗面所に追いやられてしまった。

「穿くまで出るな!」

 ええ~?
 気づかなかったのならいいじゃん。変な岳人さん。

「ハーフパンツは大きすぎたから、これは穿かないけどいいですか?」
「……百歩譲る。その代わりすぐに布団に入って寝なさい」

 扉越しに話す岳人さん。いつもと少し話し方が違う。いつもは柔らかく話すのに指示的で先生みたいだし、すぐに寝なさいなんて、せっかく岳人さんのお家に泊まれるのにもったいないよ。

「パンツ、穿きました。出てもいいですか?」
「ん」

 扉を開ける。その先では岳人さんが腕をしっかりと組んで立っていた。まるで僕を寄せ付けないみたいに。

 でも……岳人さん、さっきより香りが強い? どうしたんだろう。

「ん……」

 ビターチョコレートみたいな香り。
 どうしよう。この香りを嗅ぐと身体、熱くなっちゃう……初めて会った日に病院に行ったときみたいに……。

「が、くと、さん……」
「すばる君!」

 急に目の前がぐるぐると回って、足の力が抜けた。岳人さんが腕を伸ばしてくれた気がするけれど憶えていない。
 瞼を閉じてしまったし、次に開けたときには、もう朝だったから。


***


 お味噌汁の匂いと、炒った卵の匂い。それから、お肉をお砂糖で炒った匂いもする。
 
 岳人さんの香りも好きだけど、この香りもすごく優しくて、すき。いい匂い。

 僕は匂いに釣られて、岳人さんのものらしいベッドを降り、そっと扉を開けた。すると、テーブルやソファのある部屋に繋がっていた。

「……岳人さん?」

 岳人さんはキッチンで料理をしている。

「お、起きたか? 朝飯、もうできるからおいで。俺、こっちを向いてるからすぐに椅子に座りな」

 背を向けたまま料理を続ける岳人さん。

「はい」

 どうやら岳人さんは僕がハーフパンツを穿いていないことをまだ気にしているようだ。
 多分だけど、同じクラスの子が話していた「彼シャツ」になっているからかもしれないと、いま気づいた。

 僕は岳人さんと出会った翌日、嬉しさのあまりクラスのオメガの子たちに報告したんだ。そうしたら、みんなが教えてくれた。
 漫画やドラマなんかで、男の人が付き合っている相手を「可愛い」と思ってくれるいくつかの振る舞いを。

 でも、腕に手を巻き付けてニコッとしてみても、抱きついてスリスリしてみても、岳人さんは石像みたいに表情を固めるか、僕の前から逃げるように去ってしまう。

 運命のつがいって、相手とずっとくっついて離れたくないって思うと聞いたのに……僕はそうなのに、岳人さんは全然違った。

 僕のやり方じゃ、小さい子が甘えるみたいにしか見えなかったのかもしれない。
 今だって、貧弱な身体つきの僕が「彼シャツ」になっていても見苦しいだけなのかもしれない。

 こんなままじゃ嫌だ……。

 岳人さんのお休みはあと三日だけれど、「お母さんが退院までは俺の家にいていいよ」と言ってくれている。

 お母さんのことは心配なものの、虫垂炎の手術は難しくないから安心していいと聞かされているし、毎日面会にも行くことにしているので、岳人さんと過ごせるこの期間を大事にしよう。

 一緒にいられる時間に、少し背伸びにはなるけれど子供っぽくない僕を見てもらって、好きになってもらいたい。

 ……恋人に、してもらいたい。

 僕は本当のヒートが来ていないから無理だけれど、もしヒートが来たらつがいにだってしてほしい。

 性別判定後の講義でつがいになる方法はもう学んだ。
 お尻の中にアルファのあそこが入るなんて驚いたけれど、岳人さんのなら絶対に大丈夫。

 岳人さんは大人の男の人で、すごく優しいもの。
 ふんわりといつものように笑いながら、きっと痛くないようにしてくれるはず……他のオメガより少し早いけれど、岳人さんは運命の人だもの。いつつがいになってもいいよね?

 お母さんみたいに、知らないアルファと事故つがいになる怖さもなくなるんだもの。

 ──ヒートが早くくればいい。
 僕は、少しでも早く岳人さんのつがいになりたい……!

「できたぞー。はい、どうぞ」

 思い詰めてうつむいていると、テーブルに食事が乗ったトレイが置かれた。

「わぁ……そぼろ丼!」

 綺麗な黄色の炒り卵にお醤油色の挽き肉。スライスされたいんげんの緑が可愛い。
 それと、お豆腐とわかめのお味噌汁。

「嫌いなもの聞かなかったけど、大丈夫か?」
「はい! 岳人さん凄いです。洋食屋さんなのに和食もできるなんて!」

 あっ、大人っぽくしようと思ったばかりなのに、食べ物ではしゃぐなんて子どもっぽかった。

 そう思ってちら、と岳人さんを見ると、ふんわりと笑ってくれている。

 この笑顔、好き。初めて会ったときから、陽だまりの暖かさを感じさせるようなこの笑顔に、僕の寂しい気持ちやオメガの判定を受けた悲しさをくるっと包みこまれて、癒やされている。

 オメガに生まれて良かったって、僕は岳人さんに出会うためにオメガに生まれたんだって……。そう思えるんだ。

「……おいしい!」
「そっか、良かった」

 また、ふんわりと笑ってくれる。
 岳人さんと向かい合いながら、僕は心もお腹も満たした。

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