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運命と出逢った俺は、運命とつがえない
夜を超える③ Sideすばる
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「ご馳走様でした。お片付けは僕がやります!」
「いいよ。お客さんなんだから」
「大丈夫です。僕ね、お母さんから家事を習ってるって言ったでしょ。任せてください!」
大人みたいにできるところ、見てもらわなくちゃ。
僕はふたり分のお皿を重ね、ぴょこんと椅子から降りた。
「じゃあふたりで……ぅっ」
岳人さんはそう言って、キッチンシンクに向かった僕を追おうとして、動きを止める。
どうしたのかな、しかもどうして唸ったんだろう。
不思議に思って振り返って見てみると、岳人さんは両目を手で覆ってうつむいていた。
「……あっ! この格好? ごめんなさい。家に服を取りに行ったら、ちゃんと服を着るから今だけ許してください」
「いや、許すとかじゃなくて……わかった。ここは任せる。俺は風呂とかその辺を掃除してくる」
どことなくフラフラとして力なく言う岳人さん。
疲れているのかもしれない。お祭りに朝から出かけていたのにお母さんと僕のことで眠るのも遅くなったから……。
「はい! 任せてください」
ここは僕がしっかり頑張らなくちゃ。ちょっとでも岳人さんの役に立つんだ。
それで見直してもらえたら嬉しいもの。
「よし、先にこのゴミを捨てて……えっと、ゴミ箱はこれか」
足で踏んで蓋が開くタイプのゴミ箱を見つけたので、蓋を開ける。
すると、ゴミの一番上に、あるものが捨ててあるのが目に入った。
「……? 薬の、シート?」
よく見なくてもわかるそれは、飲み終わった薬のシートだった。
二枚、二十錠分あって、全部飲みきってある。
なんの薬? 岳人さん、どこか体調が悪いのかな。もしかして、それでさっきしんどそうだった? でも、昨日まではそんな様子はなかったと思うのに。
「岳人さ……」
訊ねようとしたけれど、岳人さんはとっくにお風呂場に行ってしまっていたので、片付けが終わって落ち着いてから改めて訊ねることにする。
だけど、片付けと掃除が終わると浴衣を着ておくようにと真鍋さんに言われた。
家に荷物を取り帰るのに、それしか外に出られる服がなかったからだ。
それで着ようとしていたら全然上手くできなくて……だって、着るのは初めてだったし、昨日もお母さんに着付けてもらっていたから……。
結局、岳人さんに迷惑をかけてしまった僕は、訊ねるタイミングを逃してしまったのだった。
それにしても岳人さんて、アルファだからかな。本当に器用。目をぎゅ~と閉じて、僕に浴衣を着付けできるんだもの。
最初は「自分でなんとかしなさい!」って、また先生みたいに言っていたけれど、どうやっても胸がはだけたり裾が割れて脚が出てしまうのを見て、岳人さんは頭を掻きむしりながら「あぁ~、くそっ」とか言いながらやってくれて……。
それから僕の家に着くまで無言だった。
子供っぽくならないようにって決めたのに、上手くいかない。
浴衣を着せてくれなんて、ほんとに、僕って子どもだ。岳人さん、運命の相手が子どもだなんて、確かに嫌になるよね……。
午後からはお母さんが入院している病院へ面会に行った。
お母さんの虫垂は順調に炎症が取れているから、手術は予定通り明後日になったと聞いて安心する。
「お母さん、良かったな」
「はい。顔色も戻っていたからホッとしました」
そういえば岳人さんも。
この半日ほど疲れたというか寝不足みたいな表情をしていたけれど、顔色が良くなっている。
午前中はあまり話しかけてももらえなかったものの、今はいつも通り優しく声をかけてくれて、そのことにもホッとする。
「岳人さん。夜ご飯、もう作りますか?」
今日の夕飯はカレーライスだ。
リクエストしたのは僕。作れるようになったから見てほしいとお願いしたんだ。
「疲れてないか? 少し昼寝……夕寝になるけどしたら?」
「僕なら大丈夫です。お昼寝なんて普段からしませんから」
本当は少し疲れているし、お昼寝もする方だ。だけど子どもっぽいって思われたくない。
岳人さんの助けができる子なんだと思ってもらいたい。
「じゃあ、一緒にやるか」
「はい!」
そうして、お母さんから教えもらった通りのカレーを作り始めた。
市販のルゥを使わないのは岳人さんも同じだったみたいで、お料理についての話をしてくれながら、ずっと隣にいてくれる。
出来上がれば向かい合ってカレーを食べて、「おいしいな。上手だ」って言ってくれた。
「すばる君はすごいな。学校の成績もいいんだって? どんなことにも頑張り屋さんなんだって、今日、いろいろと侑子さんから聞いたよ」
僕が病院の一階のコンビニにお茶を買いに行っている間に、お母さんが僕のことを話していたようだ。
お母さん、僕のことたくさん褒めてくれたんだ……。
「えへへ」
「でも、頑張りすぎずに、俺のことを頼ってもいいんだからな」
「岳人さん……はい!」
嬉しい、嬉しい、嬉しい……!
岳人さんが僕をまっすぐ見て微笑んでくれる。
少しは恋人候補に見てくれるようになるといいな……。
食後は片付けとお風呂を済ませてから、ふたりでソファに並んでサブスクで映画を見た。
だけとこの映画というのが、昔から放送しているアニメのシリーズで……。
確かにこれは学校でも人気があるし、僕も好きだけれど、なんとなく「これじゃない」感を感じていた。
「──お、もう九時だな。歯磨きしてそろそろ部屋に行きな。宿題もあるだろ? やることやったら、十時半くらいにはベッドに入るんだぞ」
ほら。やっぱり、子ども扱い。
「歯磨きも宿題もします。でも……もっと岳人さんと一緒にいたい。岳人さん、昨日と同じでソファで眠るんでしょ? 身体に悪いから、一緒にベッドで」
「駄目だ」
一緒に寝ましょうと、そう言い切る前に先に拒否されてしまった。
途端に胸がもやもやと気持ち悪くなる。
「どうしてですか。岳人さん、僕を子ども扱いしてるのに……どうせ子ども扱いするなら、一緒に寝てください」
岳人さんにしがみつく。岳人さんはびくっと身体を揺らすと背を伸ばして、僕と身体が密着しないようにした。
これって、拒否されているんだ……。
「僕に触れたくないくらい、嫌ですか?」
涙が出そう。だけと泣いちゃ駄目だ。
もしかしたら、昨日手を繋いでくれたのも僕に泣かれると煩わしかったからかもしれない。
だからきっと、繋いでいる間もずっと難しい顔をして、黙りこくっていたんだ。
「っごめんなさい。もうしないから、嫌いにならないでください。僕、もっと頑張るから。もっと大人っぽくなって、岳人さんに釣り合うようなオメガになるから、嫌いにならないで……!」
「すばる」
「あっ」
必死に訴えていると、岳人さんも泣きそうな顔をして、僕をぎゅっと抱きしめた。
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