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運命と出逢った俺は、運命とつがえない

再会③

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 はぁはぁと息を切らしながら道を走り、家に帰らずに、趣味でやっているボクシングのジムに入った。

 頭からすべての思考を追い出し、狂ったようにサンドバッグを打ち込む。

「真鍋さん、テンポ早すぎですよ」

 巡回のトレーナーさんに言われるもやめられなかった。
 身体にこもった熱を追い出すにはこうするしかない。

「はぁ……」

 スパークリングを連続三本終えて、水分を取る。
 なんとか不埒な熱と欲望を排出することができた。

 本当にやばかった。もう少しであのスベスベの頬を包み、唇を重ねてしまうところだった。
 良くぞ踏みとどまった、俺。

 ただ、またすばる君を泣かせてしまった……。

 スマホを見ると、すばる君からのたくさんのメッセージに、侑子さんの「何度もメッセージしてごめんなさい。スマホはしばらく使わせないようにさせますね」のメッセージが続いていた。

 ベリッとすばる君を引き剥がし、病院のとき以上に余裕なく出て来てしまったからなぁ。

「はぁ……」

 二度目のため息。
 逃げるなんて大人気ないとは思っている。だがあそこで流されるるわけにはいかなかった。

 侑子さんに約束したからじゃない。俺がすばる君を大事にしたいからこそ、今じゃない。

 本能に流されるのもごめんだ。俺たちはまだなにも始まっていない。

 ちゃんと思いを育てて確かめあって、付き合って……いや待て。二十四歳と十二歳が付き合うのはセーフなのか?

「わからん……」

 とはいえ、運命のつがいであることは侑子さんも認めてくれ、そばにいてやってほしいとの言葉ももらっている。

 ジムでかいた汗を流し、家に戻ってから呼吸を整え、スマホを手に取った。
 侑子さんの番号をタップする。

「はい、真鍋さんですね」
「すみません、メッセージに返信できなくて。……すばる君と話せますか?」
「すぐ隣にいますよ。ベソベソしています」

 少し困ったように笑って言う侑子さん。通話相手はすぐにすばる君に変わった。

「岳人さん……! どうして急に帰っちゃったんですか? 僕が抱っこで甘えて子どもっぽかったから? 子どもっぽいの、直すから嫌いにならないで」

 何度も送信されたメッセージと同じ言葉。ずっと泣いていたんだろう。声がくぐもっている。

「驚かせてごめんな。でも、すばる君が子どもっぽいとかじゃないし、嫌いになることはないよ」

 むしろ、子どもだと思っていた君があまりに妖艶だったんだ。余裕のない俺に気付かないでくれ。

「さっきは急な用事を思い出してさ。本当にごめん」
「本当に本当? じゃあ僕のこと、好きですか?」

 うっ……。それを侑子さんがいる前で聞くのか。
 いや、運命のつがいだとわかっているとはいえ、今日のを「抱っこ」と表現した様子から考えれば、やはりすばる君の「好き」は家族や友人への「好き」と同じ感覚なんじゃないか?

 そうだ。すばる君はまだ十二歳のオメガ男子。愛や恋の好きがわかっているわけじゃない(と思う)。

「ああ……好き、だよ」
「本当? もう一度言ってください!」
「えっ」 
「お願いです。そしたら元気になりますから」

 まじか……。
 こんな言葉を二度も言うのはかなり照れるんだが。

「………………すばる君、好きだよ」

 ずいぶんと溜めてしまったが、伝えた。

 すばる君は返答をせず、俺以上に言葉を溜めている。

「……嬉しい! 岳人さん、大好き! 大好き、大好き!」

 二分ほどの沈黙のあとに発された言葉は、鼓膜を振るわせ胸の隅々にまで共鳴する。
 なんかよくわからん音楽がホロロン、と奏でられた気がした。

「うん、ありが」
「じゃあ、次はいつ会えますか?」
「へっ」

 早い展開に驚いていると、侑子さんの「もう、すばるったら」という声が聞こえてきた。

 次……次? そりゃあ、もう会わないなんて思ってもいないが、もう次のことか。
 ともかく、密室にふたりきりは断固阻止だ。いくつ抑制剤を飲んでも足りる気がしない。

「そうだな……土日に休みが取れるのは月に一度しかないんだ。来月になるけど、どこかへ出かけようか」

 うん、外食業万歳。日が置ける。それに外ならスキンシップもそうはないだろうし、大丈夫だろう。

「はい! 岳人さんと出かけたいです。行きたいところ、考えてメッセージしてもいいですか?」
「ああ、待ってるよ」

 喜んでくれた。
 ホッとして口角が上がる。すばる君はスマホを持ちながらはしゃいで、侑子さんに報告している。

 その後もすばる君は話し続けたそうだったが、侑子さんに止められ、通話を終えた。
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