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運命と出逢った俺は、運命とつがえない
再会③
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***
はぁはぁと息を切らしながら道を走り、家に帰らずに、趣味でやっているボクシングのジムに入った。
頭からすべての思考を追い出し、狂ったようにサンドバッグを打ち込む。
「真鍋さん、テンポ早すぎですよ」
巡回のトレーナーさんに言われるもやめられなかった。
身体にこもった熱を追い出すにはこうするしかない。
「はぁ……」
スパークリングを連続三本終えて、水分を取る。
なんとか不埒な熱と欲望を排出することができた。
本当にやばかった。もう少しであのスベスベの頬を包み、唇を重ねてしまうところだった。
良くぞ踏みとどまった、俺。
ただ、またすばる君を泣かせてしまった……。
スマホを見ると、すばる君からのたくさんのメッセージに、侑子さんの「何度もメッセージしてごめんなさい。スマホはしばらく使わせないようにさせますね」のメッセージが続いていた。
ベリッとすばる君を引き剥がし、病院のとき以上に余裕なく出て来てしまったからなぁ。
「はぁ……」
二度目のため息。
逃げるなんて大人気ないとは思っている。だがあそこで流されるるわけにはいかなかった。
侑子さんに約束したからじゃない。俺がすばる君を大事にしたいからこそ、今じゃない。
本能に流されるのもごめんだ。俺たちはまだなにも始まっていない。
ちゃんと思いを育てて確かめあって、付き合って……いや待て。二十四歳と十二歳が付き合うのはセーフなのか?
「わからん……」
とはいえ、運命のつがいであることは侑子さんも認めてくれ、そばにいてやってほしいとの言葉ももらっている。
ジムでかいた汗を流し、家に戻ってから呼吸を整え、スマホを手に取った。
侑子さんの番号をタップする。
「はい、真鍋さんですね」
「すみません、メッセージに返信できなくて。……すばる君と話せますか?」
「すぐ隣にいますよ。ベソベソしています」
少し困ったように笑って言う侑子さん。通話相手はすぐにすばる君に変わった。
「岳人さん……! どうして急に帰っちゃったんですか? 僕が抱っこで甘えて子どもっぽかったから? 子どもっぽいの、直すから嫌いにならないで」
何度も送信されたメッセージと同じ言葉。ずっと泣いていたんだろう。声がくぐもっている。
「驚かせてごめんな。でも、すばる君が子どもっぽいとかじゃないし、嫌いになることはないよ」
むしろ、子どもだと思っていた君があまりに妖艶だったんだ。余裕のない俺に気付かないでくれ。
「さっきは急な用事を思い出してさ。本当にごめん」
「本当に本当? じゃあ僕のこと、好きですか?」
うっ……。それを侑子さんがいる前で聞くのか。
いや、運命のつがいだとわかっているとはいえ、今日のを「抱っこ」と表現した様子から考えれば、やはりすばる君の「好き」は家族や友人への「好き」と同じ感覚なんじゃないか?
そうだ。すばる君はまだ十二歳のオメガ男子。愛や恋の好きがわかっているわけじゃない(と思う)。
「ああ……好き、だよ」
「本当? もう一度言ってください!」
「えっ」
「お願いです。そしたら元気になりますから」
まじか……。
こんな言葉を二度も言うのはかなり照れるんだが。
「………………すばる君、好きだよ」
ずいぶんと溜めてしまったが、伝えた。
すばる君は返答をせず、俺以上に言葉を溜めている。
「……嬉しい! 岳人さん、大好き! 大好き、大好き!」
二分ほどの沈黙のあとに発された言葉は、鼓膜を振るわせ胸の隅々にまで共鳴する。
なんかよくわからん音楽がホロロン、と奏でられた気がした。
「うん、ありが」
「じゃあ、次はいつ会えますか?」
「へっ」
早い展開に驚いていると、侑子さんの「もう、すばるったら」という声が聞こえてきた。
次……次? そりゃあ、もう会わないなんて思ってもいないが、もう次のことか。
ともかく、密室にふたりきりは断固阻止だ。いくつ抑制剤を飲んでも足りる気がしない。
「そうだな……土日に休みが取れるのは月に一度しかないんだ。来月になるけど、どこかへ出かけようか」
うん、外食業万歳。日が置ける。それに外ならスキンシップもそうはないだろうし、大丈夫だろう。
「はい! 岳人さんと出かけたいです。行きたいところ、考えてメッセージしてもいいですか?」
「ああ、待ってるよ」
喜んでくれた。
ホッとして口角が上がる。すばる君はスマホを持ちながらはしゃいで、侑子さんに報告している。
その後もすばる君は話し続けたそうだったが、侑子さんに止められ、通話を終えた。
はぁはぁと息を切らしながら道を走り、家に帰らずに、趣味でやっているボクシングのジムに入った。
頭からすべての思考を追い出し、狂ったようにサンドバッグを打ち込む。
「真鍋さん、テンポ早すぎですよ」
巡回のトレーナーさんに言われるもやめられなかった。
身体にこもった熱を追い出すにはこうするしかない。
「はぁ……」
スパークリングを連続三本終えて、水分を取る。
なんとか不埒な熱と欲望を排出することができた。
本当にやばかった。もう少しであのスベスベの頬を包み、唇を重ねてしまうところだった。
良くぞ踏みとどまった、俺。
ただ、またすばる君を泣かせてしまった……。
スマホを見ると、すばる君からのたくさんのメッセージに、侑子さんの「何度もメッセージしてごめんなさい。スマホはしばらく使わせないようにさせますね」のメッセージが続いていた。
ベリッとすばる君を引き剥がし、病院のとき以上に余裕なく出て来てしまったからなぁ。
「はぁ……」
二度目のため息。
逃げるなんて大人気ないとは思っている。だがあそこで流されるるわけにはいかなかった。
侑子さんに約束したからじゃない。俺がすばる君を大事にしたいからこそ、今じゃない。
本能に流されるのもごめんだ。俺たちはまだなにも始まっていない。
ちゃんと思いを育てて確かめあって、付き合って……いや待て。二十四歳と十二歳が付き合うのはセーフなのか?
「わからん……」
とはいえ、運命のつがいであることは侑子さんも認めてくれ、そばにいてやってほしいとの言葉ももらっている。
ジムでかいた汗を流し、家に戻ってから呼吸を整え、スマホを手に取った。
侑子さんの番号をタップする。
「はい、真鍋さんですね」
「すみません、メッセージに返信できなくて。……すばる君と話せますか?」
「すぐ隣にいますよ。ベソベソしています」
少し困ったように笑って言う侑子さん。通話相手はすぐにすばる君に変わった。
「岳人さん……! どうして急に帰っちゃったんですか? 僕が抱っこで甘えて子どもっぽかったから? 子どもっぽいの、直すから嫌いにならないで」
何度も送信されたメッセージと同じ言葉。ずっと泣いていたんだろう。声がくぐもっている。
「驚かせてごめんな。でも、すばる君が子どもっぽいとかじゃないし、嫌いになることはないよ」
むしろ、子どもだと思っていた君があまりに妖艶だったんだ。余裕のない俺に気付かないでくれ。
「さっきは急な用事を思い出してさ。本当にごめん」
「本当に本当? じゃあ僕のこと、好きですか?」
うっ……。それを侑子さんがいる前で聞くのか。
いや、運命のつがいだとわかっているとはいえ、今日のを「抱っこ」と表現した様子から考えれば、やはりすばる君の「好き」は家族や友人への「好き」と同じ感覚なんじゃないか?
そうだ。すばる君はまだ十二歳のオメガ男子。愛や恋の好きがわかっているわけじゃない(と思う)。
「ああ……好き、だよ」
「本当? もう一度言ってください!」
「えっ」
「お願いです。そしたら元気になりますから」
まじか……。
こんな言葉を二度も言うのはかなり照れるんだが。
「………………すばる君、好きだよ」
ずいぶんと溜めてしまったが、伝えた。
すばる君は返答をせず、俺以上に言葉を溜めている。
「……嬉しい! 岳人さん、大好き! 大好き、大好き!」
二分ほどの沈黙のあとに発された言葉は、鼓膜を振るわせ胸の隅々にまで共鳴する。
なんかよくわからん音楽がホロロン、と奏でられた気がした。
「うん、ありが」
「じゃあ、次はいつ会えますか?」
「へっ」
早い展開に驚いていると、侑子さんの「もう、すばるったら」という声が聞こえてきた。
次……次? そりゃあ、もう会わないなんて思ってもいないが、もう次のことか。
ともかく、密室にふたりきりは断固阻止だ。いくつ抑制剤を飲んでも足りる気がしない。
「そうだな……土日に休みが取れるのは月に一度しかないんだ。来月になるけど、どこかへ出かけようか」
うん、外食業万歳。日が置ける。それに外ならスキンシップもそうはないだろうし、大丈夫だろう。
「はい! 岳人さんと出かけたいです。行きたいところ、考えてメッセージしてもいいですか?」
「ああ、待ってるよ」
喜んでくれた。
ホッとして口角が上がる。すばる君はスマホを持ちながらはしゃいで、侑子さんに報告している。
その後もすばる君は話し続けたそうだったが、侑子さんに止められ、通話を終えた。
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