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運命と出逢った俺は、運命とつがえない
運命の番に出会った①
しおりを挟む運命のつがいなんて、ずっと迷信だと思っていた。
だから過去、「夫に運命のつがいが現れたんです」と高梨君が泣き崩れたときにも俄には信じられず、しかもその夫が、相手に出会ってすぐに抱き合ってキスをしていたなんて聞いて、怒り心頭だった。
なにが運命だよ。つがいの夫がいるのにふざけんな。人の道から外れてんだろ。
────そう、思ったのに。
「へぇ、運命に出会ったんだ。で、相手は中学一年生? なにそれおいしいじゃない」
「なにがおいしいんだよ」
目の前で、片側の口角を上げてイケメンスマイルを見せる高梨理人をじろりと睨む。
俺がなぜこの「メンタルゴリラ」で道に外れかけた高梨理人と夕飯を食っているのかと言うと、俺のこれまでの生き方を覆すような出会いに戸惑いまくっているからだ。
メンタルゴ……いや、高梨君を執着心の鎖で縛るような危ない奴だが、この春から新人弁護士として忙しい毎日を送る中、俺の話を聞くために時間を作ってくれたんだ。今日からゴリラを理人と呼ぶことにしよう……理人に話したとおり、俺は四か月前の二月に、ほぼ十二歳も年下の運命のつがいと出会った。
「おいしいよ。もっと早く話を聞かせてくれたら良かったのに。で、どうやって出会ったの?」
「それは……」
俺が運命のつがい、「橘すばる君」と出会ったのは、バレンタインデーの五日後のことだった。
「お前が作ったバレンタインチョコを見て、彼が興味を示して……」
「じゃあ俺がふたりを繋いだってことだね」
うわ。得意げな顔しやがって。だが否定はできない。
─────あのとき。
すばる君に理人からのチョコをあげたことで、すばる君は俺が座っていた席の対面に母親の侑子さんと座った。
その直後だ。
ミルクチョコレートのような甘い香りがその対面の席からぶわっと匂い立った。
すぐに鼻と口を塞いだが、香りが皮膚から染み込みでもしたかのように、俺の体内を熱くした。
まずいと思った。これはオメガのフェロモンだ。
どっちだ、どっちのフェロモンだ。
侑子さんは驚いた顔をしているが発情期症状は見受けられない。じゃあすばる君か!?
「あ……」
すばる君と視線が絡んだ。途端にすばる君は持っていたチョコを落とし、頬を紅潮させて身体をわななかせた。
早くここから去らなくては。たとえ子どもでもオメガはオメガ。アルファの俺がオメガのフェロモンを浴びたら大変なことになる。
それに、すばる君は早く抑制剤を使わなくては。ここにどれだけのアルファがいるかわからない。
「俺は行きます。彼には抑制剤を……え?」
鼻と口を塞いだまま、急いで席から立ち上がってそう言ったとき、周囲の客の様子が目に入り違和感に気づいた。
アルファとおぼしき人間はいるが、俺以外誰もフェロモンの影響を受けている様子がない。すばる君は明らかにヒートを起こしているのに、なぜだ?
「すばる、どうしたの? 急に風邪かしら?」
侑子さんもなにを言っているんだ。母親で、同じオメガなんだからこれが風邪じゃないことくらいわかるだろう?
「っく……」
苦しそうに呼吸するすばる君をなんとかしてやらないと、と必死で香りの誘惑に抗いながらすばる君に近づき、身体に手を回す。
その瞬間、身体に電気が走った。だが痛くはない。
なんだ、この感覚は。
触れたところから力がみなぎり、胸のあたりに熱い波が押し寄せてくる。
これは、感動したときに似ている。身体中が歓喜に包まれているかのような……。
「……がくと、さんっ……」
「すばる君……!」
すばる君の身体が傾き、座ったまま俺の胸に倒れてきた。
反射的に抱きとめると、肌が粟立ち、全身に震えが来た。
すばる君をきつく抱きしめたい衝動に駆られる。
「がくとさぁ……ん」
すばる君は甘い声を出してぎゅっとしがみついてくる。
ぞわぞわぞわっ。
俺の身体の熱感と震えが、ますます強くなった────
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