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俺が恋するオメガには事故つがいの夫がいる
羊は熊の皮をかぶらない(side真鍋)①
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あー忙しい忙しい忙しい。
クリスマスフェアのときもお客さんが途切れなかったが、バレンタインフェアも毎年席が埋まる……カップルばかりで。
「バレンタインスペシャル、オーダー追加です」
バイトの子に言われて「了解」と返事をした。バレンタインデーの当日の今日も平日だというのに、オーダーが途切れない。
せめてオーダーを通してくれるのが高梨君なら癒しになるのに、今夜は彼は休みだ。
――高梨君、ど真ん中なんだよなぁ。
まるっとした小頭に、サラサラした無垢な黒髪。主張しすぎない大きさの瞳に小さな鼻と唇。変声期はありました? って聞きたくなるハスキーな声も可愛くて、初めてこの店にきたときは目が釘付けになった。
その愛らしい容姿から、俺はすぐに彼がオメガだとわかり、きっと香りも彼の姿を表す奥ゆかしい香りなのだろうと鼻を啜ったそのときだった。
――ん、つがい持ちか。
俺はアルファの中でもその性質が強いらしく、発情期ではないオメガの香りや他のアルファの香りを感じることができる。それで、彼から香ってきたのは執着力の強いアルファのオス臭だ。
もともとアルファはつがいへの執着心が強いが、ここまであからさまなのは初めてだった。
高梨君本人のフェロモンを消し、上から粘着質の膜で包み込む……いや、隠すような強いアルファフェロモン。
どんなつがいなんだろう。
高梨君に手を出すな、とどこからか聞こえてきそうなフェロモンに、ゴリラみたいなアルファを思い浮かべた。
すると。
「初めまして。高梨です」
高梨君の後ろに続いて店に入ってきて、高梨君本人よりも先に挨拶をした男がいた。
それがメンタルゴリラアルファの高梨理人だ。
ゴリラは、外見は血統書付きのボルゾイのように、超が付くほどのイケメンだった。スラリとした手足にスマートな身のこなし。高梨君にぴたりと寄り添う姿は、高梨君を守る王子か騎士のよう。
ゴリラはにこやかな笑顔で高梨君を託し、店長やスタッフに好印象だったが、反してゴリラに遠慮するようにオドオドしている子ウサギのような高梨君が、俺は気になっていた。
すると俺が高梨君に釘付けなのがわかったのだろう。すぐに威圧的な空気を感じ視線を移すと、ゴリラに思い切り睨まれていた。
――俺のつがいに手を出すなよ。
それは明らかな威嚇だった。
とはいえ、社会人のゴリラは高梨君のバイトに毎度着いてくるわけではない。
もちろん俺は、人の夫でつがいに手を出すなんて論理に外れることはしない。
けれど高梨君はちょっとドジっ子で、少し不器用。先輩スタッフとしてはつい助けたくなるじゃないか。
「この皿はこうやって持つといいよ」
「料理の名前、短くした一覧を書いといたよ」
そうやって気にかけるようにしていた。
すると、これがまた可愛い反応を見せるのだ。
うっすらと頬を赤らめて、小首をかしげながらはにかんだ笑顔を浮かべる。
まるでマシュマロのような柔らかい笑顔。
そして小さな声で「ありがとうございます。うれしいです」と言ってくる。
素直万歳。照れ笑い万歳。
なにもかもど真ん中。
さらに彼を気にかけるようになってしまった俺は、なにかと高梨君に声をかけ、自分のことも笑い話混じりに話したりした。
そうするとそのうち高梨くんも気を許してくれるようになり「友達がいないから、真鍋さんが友達みたいになってくれて嬉しいです」とふにゃあと笑うようになった。
「友達みたいじゃなくて、友達だろ。なんでも言えよな」
そう伝えると、バイトの日はくるなり俺の顔を見て笑顔を見せ、自分のことや、ダンナであるつがいについて相談をしてくれるようになった。
クリスマスフェアのときもお客さんが途切れなかったが、バレンタインフェアも毎年席が埋まる……カップルばかりで。
「バレンタインスペシャル、オーダー追加です」
バイトの子に言われて「了解」と返事をした。バレンタインデーの当日の今日も平日だというのに、オーダーが途切れない。
せめてオーダーを通してくれるのが高梨君なら癒しになるのに、今夜は彼は休みだ。
――高梨君、ど真ん中なんだよなぁ。
まるっとした小頭に、サラサラした無垢な黒髪。主張しすぎない大きさの瞳に小さな鼻と唇。変声期はありました? って聞きたくなるハスキーな声も可愛くて、初めてこの店にきたときは目が釘付けになった。
その愛らしい容姿から、俺はすぐに彼がオメガだとわかり、きっと香りも彼の姿を表す奥ゆかしい香りなのだろうと鼻を啜ったそのときだった。
――ん、つがい持ちか。
俺はアルファの中でもその性質が強いらしく、発情期ではないオメガの香りや他のアルファの香りを感じることができる。それで、彼から香ってきたのは執着力の強いアルファのオス臭だ。
もともとアルファはつがいへの執着心が強いが、ここまであからさまなのは初めてだった。
高梨君本人のフェロモンを消し、上から粘着質の膜で包み込む……いや、隠すような強いアルファフェロモン。
どんなつがいなんだろう。
高梨君に手を出すな、とどこからか聞こえてきそうなフェロモンに、ゴリラみたいなアルファを思い浮かべた。
すると。
「初めまして。高梨です」
高梨君の後ろに続いて店に入ってきて、高梨君本人よりも先に挨拶をした男がいた。
それがメンタルゴリラアルファの高梨理人だ。
ゴリラは、外見は血統書付きのボルゾイのように、超が付くほどのイケメンだった。スラリとした手足にスマートな身のこなし。高梨君にぴたりと寄り添う姿は、高梨君を守る王子か騎士のよう。
ゴリラはにこやかな笑顔で高梨君を託し、店長やスタッフに好印象だったが、反してゴリラに遠慮するようにオドオドしている子ウサギのような高梨君が、俺は気になっていた。
すると俺が高梨君に釘付けなのがわかったのだろう。すぐに威圧的な空気を感じ視線を移すと、ゴリラに思い切り睨まれていた。
――俺のつがいに手を出すなよ。
それは明らかな威嚇だった。
とはいえ、社会人のゴリラは高梨君のバイトに毎度着いてくるわけではない。
もちろん俺は、人の夫でつがいに手を出すなんて論理に外れることはしない。
けれど高梨君はちょっとドジっ子で、少し不器用。先輩スタッフとしてはつい助けたくなるじゃないか。
「この皿はこうやって持つといいよ」
「料理の名前、短くした一覧を書いといたよ」
そうやって気にかけるようにしていた。
すると、これがまた可愛い反応を見せるのだ。
うっすらと頬を赤らめて、小首をかしげながらはにかんだ笑顔を浮かべる。
まるでマシュマロのような柔らかい笑顔。
そして小さな声で「ありがとうございます。うれしいです」と言ってくる。
素直万歳。照れ笑い万歳。
なにもかもど真ん中。
さらに彼を気にかけるようになってしまった俺は、なにかと高梨君に声をかけ、自分のことも笑い話混じりに話したりした。
そうするとそのうち高梨くんも気を許してくれるようになり「友達がいないから、真鍋さんが友達みたいになってくれて嬉しいです」とふにゃあと笑うようになった。
「友達みたいじゃなくて、友達だろ。なんでも言えよな」
そう伝えると、バイトの日はくるなり俺の顔を見て笑顔を見せ、自分のことや、ダンナであるつがいについて相談をしてくれるようになった。
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