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事故つがいの夫は僕を愛さない
発情期じゃないのに
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理人が帰ってきたのは、二十三時を過ぎた頃だった。
珍しく乱雑に鍵とドアが開き、大きな足音を立ててリビングに入ってきたから、うたた寝をしていた僕は驚いて体を起こした。
「おかえり、理ひ……」
声をかけるのに口を開いた途端、嫌な匂いが鼻を突き、眉をしかめてしまった。
「理人……?」
理人のそばまで行き、コートを受け取ろうとして、それが理人に絡みついた匂いであることがわかった。
この匂い、すごく気持ちが悪い。
形容しにくいけれど、胃にツキン、と刺さるような鋭い匂いで、理人に近寄るな、とでも言われているような気がした。
「……っ先にお風呂を済ませてくる。職場で急きょ飲み会があって、タバコや焼肉の煙にまみれたから臭うんだ。洗濯もしておくよ」
伸ばしかけた僕の手から逃げるように背を向けられる。理人はカバンだけを置いて、コートを着たまま浴室に行ってしまった。
「飲み会……じゃあ、ご飯は……」
キッチンカウンターには、僕が作ったハンバーグと付け合わせが並んでいる。でも焼肉を食べてきたのなら、きっともう食べないだろう。
連絡をくれたらよかったのにと思うけれど、仕事の付き合いだったのなら仕方がない。とても疲れた様子だったし、押しつけがましいことは言いたくない。
僕は冷蔵庫にすっかり冷めたおかずをしまいこみ、代わりに冷えた水のボトルを出して理人を待った。
カタ、と音がして、理人の影がリビングと廊下を繋ぐドアのスリットガラスに映る。
「お疲れ様。お水……」
ドアを開けて入ってきた理人にどきりとした。
性交で昂ったときでないと出ない種類のアルファフェロモンを漏れさせながら、頬を紅潮させ、茶色の瞳を濡らしている。
どうして急に?
「理……あっ!?」
様子を確かめようと、食卓の椅子から立ち上がったときだった。腕を強く引かれ、テーブルに身体を押し付けられた。
理人が背中から覆いかぶさってくる。重みで僕を押さえ付けながら、部屋着のズボンを荒々しく下ろされた。
「理人、どうしたの……痛っ!」
番の印が刻まれたうなじに歯を立てられ、振り向くことを許されない。ただこれは今日初めてのことじゃない。僕たちの行為はいつもこうだ。
十五歳で初めて繋がった日以降、理人は発情期のときだけ僕を抱く。そしてそのときは、愛の言葉やキスもなければ、絶対に僕の顔を見ないし、顔を見せてくれることもない。
いつも四つん這いにさせられ、後ろを振り向けないように固定される。義務だけでセックスをしている証拠だろう。
けれど発情期以外に、それも理人の方から僕を求めてくるのは初めてのことだった。
理人は乾いた指を僕の中に挿し入れる。数度広げる動きをしたかと思うとすぐに抜いて、余裕なく熱い切っ先を押しつけてきた。
「や、理人、まだほとんど濡れてなっ……!」
首を振って体を引いても、理人は容赦なく僕の蕾を引き裂いた。
「あっ……あぁっ……!」
同時にうなじを強く噛まれ、快感ではなく痛みで喘いだ。目の前がちかちかして、足の力が抜けていく。
どうして、理人。こんな乱暴なことをするなんて、外でなにかあったの?
「……ごめん、天音」
荒い息の合間に、うめくような声を理人が漏らした。とてもとても苦しそうだ。
「……いいよ」
理人にごめん、と言われると、胸が痛くなる。力を抜いて理人の揺さぶりに身を任せた。
うなじを噛まれながら、ときおり肉厚な舌で舐られる。理人の手が僕の太ももの間に下りて、敏感な先をこすられると、腰骨が甘く痺れた。
理人はずっと荒々しく突いてくるけれど、僕の身体は愛しい番の熱に蕩け始める。
発情期ほどではなくても、ぐちゅぐちゅという淫らな水音が耳に響いてきた。
「ふ、ぁっ……理人、理人っ」
繋がっている部分のぎりぎりまで熱塊を引かれる。理人を捕まえて安心していた粘膜の襞をゆっくりと伸ばされると、薄くなった部分にはっきりと理人の熱さと形が感じられて、僕は犬が甘えるような声を漏らした。
「んん、ふぅん……ぁあっ」
次の瞬間、がんっ、と勢いをつけて突かれる。腰骨を砕かれてしまいそうな衝撃に、オメガの淫路の最奥にある、子どもを作るための器官が振動した。
……奥、気持ちいい……。
僕は腰を震わせ、高い声を上げる。
理人は興奮した獣のようにグルルとのどを鳴らしながら、僕の背に汗の雫を落とす。
じゅるじゅるとうなじを吸う音と、お腹の中を掻き回す音。余裕のない理人の抽挿は、あの日を思い出させた。
「あぁ、理人、欲しい、欲しい……」
気持ちよさに頭の芯が蕩けていく中でも、僕は「愛してる」と言わずに「欲しい」と言う。この五年の歳月で、すっかり染みついてしまっているんだ。
けれど理人は、今日は「わかってる」ではなく「ごめん」と返してくる。
ねぇ、もう謝らないで。僕たちはつがいなんだ。発情期じゃなくても、余裕のない性行為でも、理人から与えられるものならなんだって受け入れたい。
ううん。
発情期以外でもこうやってしたい。理人といつだって繋がっていたい。
理人の心も身体も、全部ちょうだい……!
「理人、欲しいっ……!」
「っつ、ごめん、天音……!」
理人の熱がお腹の中をぎちぎちに埋める。理人がぐっと息を呑む音が聞こえて、僕の孔内に熱さが広がった。
珍しく乱雑に鍵とドアが開き、大きな足音を立ててリビングに入ってきたから、うたた寝をしていた僕は驚いて体を起こした。
「おかえり、理ひ……」
声をかけるのに口を開いた途端、嫌な匂いが鼻を突き、眉をしかめてしまった。
「理人……?」
理人のそばまで行き、コートを受け取ろうとして、それが理人に絡みついた匂いであることがわかった。
この匂い、すごく気持ちが悪い。
形容しにくいけれど、胃にツキン、と刺さるような鋭い匂いで、理人に近寄るな、とでも言われているような気がした。
「……っ先にお風呂を済ませてくる。職場で急きょ飲み会があって、タバコや焼肉の煙にまみれたから臭うんだ。洗濯もしておくよ」
伸ばしかけた僕の手から逃げるように背を向けられる。理人はカバンだけを置いて、コートを着たまま浴室に行ってしまった。
「飲み会……じゃあ、ご飯は……」
キッチンカウンターには、僕が作ったハンバーグと付け合わせが並んでいる。でも焼肉を食べてきたのなら、きっともう食べないだろう。
連絡をくれたらよかったのにと思うけれど、仕事の付き合いだったのなら仕方がない。とても疲れた様子だったし、押しつけがましいことは言いたくない。
僕は冷蔵庫にすっかり冷めたおかずをしまいこみ、代わりに冷えた水のボトルを出して理人を待った。
カタ、と音がして、理人の影がリビングと廊下を繋ぐドアのスリットガラスに映る。
「お疲れ様。お水……」
ドアを開けて入ってきた理人にどきりとした。
性交で昂ったときでないと出ない種類のアルファフェロモンを漏れさせながら、頬を紅潮させ、茶色の瞳を濡らしている。
どうして急に?
「理……あっ!?」
様子を確かめようと、食卓の椅子から立ち上がったときだった。腕を強く引かれ、テーブルに身体を押し付けられた。
理人が背中から覆いかぶさってくる。重みで僕を押さえ付けながら、部屋着のズボンを荒々しく下ろされた。
「理人、どうしたの……痛っ!」
番の印が刻まれたうなじに歯を立てられ、振り向くことを許されない。ただこれは今日初めてのことじゃない。僕たちの行為はいつもこうだ。
十五歳で初めて繋がった日以降、理人は発情期のときだけ僕を抱く。そしてそのときは、愛の言葉やキスもなければ、絶対に僕の顔を見ないし、顔を見せてくれることもない。
いつも四つん這いにさせられ、後ろを振り向けないように固定される。義務だけでセックスをしている証拠だろう。
けれど発情期以外に、それも理人の方から僕を求めてくるのは初めてのことだった。
理人は乾いた指を僕の中に挿し入れる。数度広げる動きをしたかと思うとすぐに抜いて、余裕なく熱い切っ先を押しつけてきた。
「や、理人、まだほとんど濡れてなっ……!」
首を振って体を引いても、理人は容赦なく僕の蕾を引き裂いた。
「あっ……あぁっ……!」
同時にうなじを強く噛まれ、快感ではなく痛みで喘いだ。目の前がちかちかして、足の力が抜けていく。
どうして、理人。こんな乱暴なことをするなんて、外でなにかあったの?
「……ごめん、天音」
荒い息の合間に、うめくような声を理人が漏らした。とてもとても苦しそうだ。
「……いいよ」
理人にごめん、と言われると、胸が痛くなる。力を抜いて理人の揺さぶりに身を任せた。
うなじを噛まれながら、ときおり肉厚な舌で舐られる。理人の手が僕の太ももの間に下りて、敏感な先をこすられると、腰骨が甘く痺れた。
理人はずっと荒々しく突いてくるけれど、僕の身体は愛しい番の熱に蕩け始める。
発情期ほどではなくても、ぐちゅぐちゅという淫らな水音が耳に響いてきた。
「ふ、ぁっ……理人、理人っ」
繋がっている部分のぎりぎりまで熱塊を引かれる。理人を捕まえて安心していた粘膜の襞をゆっくりと伸ばされると、薄くなった部分にはっきりと理人の熱さと形が感じられて、僕は犬が甘えるような声を漏らした。
「んん、ふぅん……ぁあっ」
次の瞬間、がんっ、と勢いをつけて突かれる。腰骨を砕かれてしまいそうな衝撃に、オメガの淫路の最奥にある、子どもを作るための器官が振動した。
……奥、気持ちいい……。
僕は腰を震わせ、高い声を上げる。
理人は興奮した獣のようにグルルとのどを鳴らしながら、僕の背に汗の雫を落とす。
じゅるじゅるとうなじを吸う音と、お腹の中を掻き回す音。余裕のない理人の抽挿は、あの日を思い出させた。
「あぁ、理人、欲しい、欲しい……」
気持ちよさに頭の芯が蕩けていく中でも、僕は「愛してる」と言わずに「欲しい」と言う。この五年の歳月で、すっかり染みついてしまっているんだ。
けれど理人は、今日は「わかってる」ではなく「ごめん」と返してくる。
ねぇ、もう謝らないで。僕たちはつがいなんだ。発情期じゃなくても、余裕のない性行為でも、理人から与えられるものならなんだって受け入れたい。
ううん。
発情期以外でもこうやってしたい。理人といつだって繋がっていたい。
理人の心も身体も、全部ちょうだい……!
「理人、欲しいっ……!」
「っつ、ごめん、天音……!」
理人の熱がお腹の中をぎちぎちに埋める。理人がぐっと息を呑む音が聞こえて、僕の孔内に熱さが広がった。
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