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事故つがいの夫は僕を愛さない

初めてのヒートはとても怖かった。

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 初めてのヒートはとても怖かった。

 体がかあっと熱くなって、肌の表面がびりびりと痺れた。
 うなじには熱いものがつきんつきんと突き刺さる感覚がして、口の中は唾液が溢れていっぱいなのに酷く喉が乾いて、水筒を出そうとカバンのファスナーを開けたときだった。

 両わきの下から、後ろにいる大きな体の男の人の手が入ってきて、羽交い締めにされた。

 驚いて体をよじると、隣にいたスーツ姿の男の人が目を血走らせて僕の体を引き寄せ、肩をかかえこんだ。

 二人は「こんなに匂いを振りまいて」といまいましそうに言うのに、僕の体をまさぐり、うなじやのどに吸いついてくる。

「やめて、助けて……」

 恐怖のため、そう言えていたのかはわからない。それでも懸命に声を絞り出した。

 そうしたら。

「宮野君!」

 名前を呼ばれて、僕を羽交い締めにしていた男の人との間に割って入り、もうひとりの男の人の胸を押しのけてくれた人がいた。理人だった。

 理人の行動で周囲も気づき、僕は事なきを得て次の駅で降りることができた。

 けれどそのとき、高熱に浮かされたように頭がクラクラして、「なにか」が欲しくて欲しくてたまらなくて……それなのにそれがなんなのかわからない。

 僕は自分を持て余し、駅員に助けを求めようとした理人にすがってしまった。

 多分「行かないで」と言って「欲しい」と何回も言ったと思う。今の僕がそうだから。

 理人は性急に僕の肩をかついで駅のトイレに入った。理人の体もとても熱くて、息を切らしていたのを今でも忘れない。

 個室に二人で入ると、理人は余裕なく僕と自分のベルトを外し、トイレの上蓋に僕をうつぶせにさせた。

 それから間髪入れずに、すでにぐずぐずに濡れている僕の中に入ってきて、トイレの蓋ががんがんと揺れるくらい強く突いてくるのに、僕はちっとも痛くなくて。

 思考が全部溶けてしまいそうな快感の中、「高梨君」と切れ間なく叫び続けて腰を揺すっていたら、理人は僕に覆いかぶさり、べろ、べろ、とうなじを舐めた。

 最高に気持ちがよかった。性行為をしている自覚はないのに、うなじを舐められながらお腹の中を掻き回されると、どうしようもなく気持ちがよくて、僕は「欲しい」とまた言った。

 何度も、何度も、なにが欲しいかわかってもいないのに、「欲しい」と言い続けていたんだ。

 理人は「わかってる。わかってるから」と答えてくれて、そのあと僕のお腹の中でいっそう大きくなり、熱いしぶきを放ったと同時に、僕のうなじを噛んだ────

 それで、気がついたら病院のベッドの上。

 病室の外で僕の両親が泣きわめき、理人と理人のご両親が謝っているのが聞こえてきて、目が覚めた。

 あとから知ったことだけれど、駅のトイレには警察官も駆け付け、大変な騒ぎになっていたらしい。

 僕はそんなことを知らなかったから、
「どうして謝る必要があるの? 高梨君は助けてくれたのに」
 そう言いたくて、ベッドから体を起こした。そのとき、うなじがズキッと痛んで反射的に手を持っていくと、そこが大きなガーゼで覆われていることに気付いた。

 そして、思い出したんだ。

 理人が僕のうなじに消えない咬み痕をつけたこと。

 ──僕たちが、事故つがいになったということを。
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