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ᒪove Stories 〈第二幕〉 ほぼ❁✿✾ ✾✿❁︎
DeepLove 1
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都内のスタジオの一室。
俳優と制作陣がテーブルを囲んでいる。
「悠理、緊張してる?」
声をかけて来たのは斜め前に座る柳田楓真だ。柳田楓真の横には同じアイドルグループに属する花房瞬も座っている。
(うーん、顔面ごーじゃす)
目の前の人気アイドル二人に眼福を感じつつ、悠理は首を振って「大丈夫」と唇だけを動かした。
緊張とは少し違う。
勿論、フラワーアップに移って初めての、いや、俳優を目指して初めての連続ドラマ出演に強い責任感と使命感はある。
だが、胸がドキドキしているのは緊張感と言うより興奮からだ。
(連続ドラマ……めちゃくちゃ嬉しい!)
移籍してから約二ヶ月。宣材撮影や挨拶周りをしながらも演技指導やボイストレーニングを受けてきた。
まだ無名の新人にここまで手をかけてもらえるのは裏で楓真が動いていたこともあるが、なんと言ってもフラワーアップエージェンシー社長の湯島華子が悠理を気に入ったことにある。
湯島華子は女手一つでフラワーアップエージェンシーを作り上げた敏腕社長で、将来性のある美少年・美青年の発掘には定評があった。
また、業界内外で「フラワー帝国」と揶揄されるほどに、様々なドラマや番組の出演権を握っており、所属タレントがメディアに出ない日はない。
そんな彼女は悠理を見てすぐに「上玉だわ」と呟き「今は中性男子の需要が高いのよ。あなた十九歳よね。……旬のうちに売り出してみせる」と目を光らせた。
この時、年齢を偽らなくて良かったことに、悠理がホッとしたのは言うまでもない。
かくして計画は即日実行され「鏑木悠理三カ月内デビュー計画」は順調に進んだのである。
そして今日は社長と楓真の圧力……いや、悠理の実力も正当に評価されて決定した、来クールドラマの初顔合わせの日だった。
「さて、揃いましたね。じゃあ挨拶から。まずは私、プロデューサーの……」
定石通りに各スタッフと俳優の紹介と挨拶、そしてドラマの概要が伝えられる。
ゴールデン枠で放映されるこのドラマは、柳田楓真と花房瞬のsakusi-do人気ツートップがダブル主演を務める学園ものだが、そのテーマと言うのが……
「ボーイズの初恋です!」
女性プロデューサーの声に熱が入る。
「今やBLは空前の大ブームです。とはいえ、今までは深夜枠での放映ばかりでした。つまり今回のゴールデン枠進出は局運がかかっているんです。その主演を演じて頂くお二人には多大な期待を寄せています。勿論脇を固める皆様にも。どうか宜しくお願いします!」
「大丈夫でーす。ボク、ふぅまクン大好きだし。仲良しだし。ね、ふぅまクン」
花房瞬はクリクリした目にぷっくりとした唇を持つ、王道のアイドル顔をしている。それを楓真の頬に寄せ、甘えた声でじゃれついた。
(へー、仲良しなのか。楓真、やっぱり好かれてるんだな)
悠理は目の前のキラキラしたアイドル二人を微笑まし気に見た。しかし、目が合った楓真は憮然とした表情で悠理を見返している。
その理由──ちょっとくらい焼きもちをやけよ、と楓真は思っている──など知る由もない悠理は自分の台本をパラパラとめくった。
役が主人公の幼馴染の同級生、ということは聞いているが、それだけだった。
「鏑木さん」
プロデューサーに呼ばれる。
「はい」
「今回は助演ですが、あなたの役はとても重要な役です。クローズドゲイで、楓真さん演じるタツキにずっと恋をしている設定で、叶わない同性間の恋に悩んできたのにタツキが同じクラスのフミヤを好きになったことにショックを受けます。それでも、タツキの思いが通じるまでのあいだ、タツキを支える尊い役なんです。嫉妬や苦しさ、恋しさの表現が求められますし……ラブシーンもありますので心して下さいね」
熱っぽく一気に話すプロデューサーの言葉が、すぐには入ってこなかった。
辛うじて理解できたのは最後の一文だけ。
「ら、らぶしーん!? 誰と?」
現代でまで人前で男とラブシーンを!? ……悠理は目の前の二人を見比べた。
「楓真さんです。楓真さんはどんな役でもこなされるので心配していませんが、熱演を期待しています」
プロデューサーの視線が悠理と楓真の交互に渡る。
瞬の「ボクはぁ?」と言う声が間延びして聞こえた。
顔合わせが終わり、それぞれが部屋から出る。
室内に残ったのは楓真と悠理だ。
楓真と悠理はsakusi-doのマネージャーが到着するまでここで待つよう指示されているが、瞬はバラエティ番組のゲスト出演があり、つい五分前に部屋を出たところだった。
「男同士のラブシーンとか……どこまでゴールデンで放送するのかな……楓真?」
悠理が話しかけると楓真はうつむいていた。
「悠理……俺、できるかな」
「えっ?」
「男とラブシーンなんて、現代では初めてで……自信ないな」
楓の頃から自信に満ち溢れて、どんな役でもこなして来た楓真が肩を落として不安げな顔をしている。
初めて見る様子に驚いた悠理はそばに駆け寄り手を取った。
「大丈夫だよ、楓真なら絶対できるよ。俺も協力するから!」
「協力……ってこういうこと?」
楓真の手が伸び、悠理の後頭部を引き寄せた。
え、と思った時には唇が重なっている。
「ん、んんっ」
悠理は楓真の胸を押して顔をそらした。
「な、なにやってんだよ! き、き、キスなんて!」
「……協力してくれるって……。俺、こんな練習頼めるの悠理しかいないんだ。それに撮影でも悠理とするんだ。だからその時にミスしないように練習しておきたい。……駄目?」
楓真の大きな瞳が濡れて揺れる。その切な気な表情と、役者としての熱意を悠理は拒否できない。
「……わ、わかった。俺も俳優のはしくれだ。いいドラマを作る為なら協力する!」
それた悠理の顔が再び楓真に向いた。頬を真っ赤にしているが、真剣そのものだ。
(……ふっ、チョロいな)
楓真は悠理の片頬を包み、唇の表面を親指で撫でながら眉間にキスをした。
悠理は反動で目を閉じる。
楓真は片側の口角を上げてから、まずは鼻筋に唇を置き、滑らせて唇に重ねた。
悠理の唇は強く結ばれているが、舌に力を入れてそれをこじ開ける。
「ん、んんっ……!」
悠理が逃げようとするのを、腕に力を入れて抱き寄せて阻止した。はずみで唇もより深く重なり、楓真の舌が悠理の口内を侵していく。
歯列をなぞり、舌を絡ませ、上顎を舐める。ちゅく、ちゅく、と言う水音が、二人の口の中から生まれた。
「ん~んん~!」
どんどん、と悠理がついに楓真の胸を叩くものだから、楓真はそこで諦めて悠理から唇を離した。
だがその時の悠理の顔と言ったら。
顔を真っ赤にしたまま目を潤ませ、楓真に吸われていた舌を出したままにしている。
(か、かわっ……)
大人気アイドルである柳田楓真が鼻から出血寸前になり、落ち着くために、片手で顔の下半分を覆って自我を抑えた。
「も、もう、終わり。充分できるじゃん。楓真」
は、は、と短い息を吐きながら呼吸を整える悠理。
それがまた可愛らしくて、楓真は彼を抱きしめて、もっともっと蹂躙したい衝動に駆られる。だが、そこはグッと我慢だ。
「ありがと、悠理。自信がついたよ。本番も頑張ろうな」
楓真が王子様スマイルで微笑むと、まだ涙目の悠理だったが、ニコッと微笑んで返事の代わりにした。
(まじでチョロいな……)
楓真の顔が微笑みから策士の顔になっていたのを悠理は気づかなかった。
俳優と制作陣がテーブルを囲んでいる。
「悠理、緊張してる?」
声をかけて来たのは斜め前に座る柳田楓真だ。柳田楓真の横には同じアイドルグループに属する花房瞬も座っている。
(うーん、顔面ごーじゃす)
目の前の人気アイドル二人に眼福を感じつつ、悠理は首を振って「大丈夫」と唇だけを動かした。
緊張とは少し違う。
勿論、フラワーアップに移って初めての、いや、俳優を目指して初めての連続ドラマ出演に強い責任感と使命感はある。
だが、胸がドキドキしているのは緊張感と言うより興奮からだ。
(連続ドラマ……めちゃくちゃ嬉しい!)
移籍してから約二ヶ月。宣材撮影や挨拶周りをしながらも演技指導やボイストレーニングを受けてきた。
まだ無名の新人にここまで手をかけてもらえるのは裏で楓真が動いていたこともあるが、なんと言ってもフラワーアップエージェンシー社長の湯島華子が悠理を気に入ったことにある。
湯島華子は女手一つでフラワーアップエージェンシーを作り上げた敏腕社長で、将来性のある美少年・美青年の発掘には定評があった。
また、業界内外で「フラワー帝国」と揶揄されるほどに、様々なドラマや番組の出演権を握っており、所属タレントがメディアに出ない日はない。
そんな彼女は悠理を見てすぐに「上玉だわ」と呟き「今は中性男子の需要が高いのよ。あなた十九歳よね。……旬のうちに売り出してみせる」と目を光らせた。
この時、年齢を偽らなくて良かったことに、悠理がホッとしたのは言うまでもない。
かくして計画は即日実行され「鏑木悠理三カ月内デビュー計画」は順調に進んだのである。
そして今日は社長と楓真の圧力……いや、悠理の実力も正当に評価されて決定した、来クールドラマの初顔合わせの日だった。
「さて、揃いましたね。じゃあ挨拶から。まずは私、プロデューサーの……」
定石通りに各スタッフと俳優の紹介と挨拶、そしてドラマの概要が伝えられる。
ゴールデン枠で放映されるこのドラマは、柳田楓真と花房瞬のsakusi-do人気ツートップがダブル主演を務める学園ものだが、そのテーマと言うのが……
「ボーイズの初恋です!」
女性プロデューサーの声に熱が入る。
「今やBLは空前の大ブームです。とはいえ、今までは深夜枠での放映ばかりでした。つまり今回のゴールデン枠進出は局運がかかっているんです。その主演を演じて頂くお二人には多大な期待を寄せています。勿論脇を固める皆様にも。どうか宜しくお願いします!」
「大丈夫でーす。ボク、ふぅまクン大好きだし。仲良しだし。ね、ふぅまクン」
花房瞬はクリクリした目にぷっくりとした唇を持つ、王道のアイドル顔をしている。それを楓真の頬に寄せ、甘えた声でじゃれついた。
(へー、仲良しなのか。楓真、やっぱり好かれてるんだな)
悠理は目の前のキラキラしたアイドル二人を微笑まし気に見た。しかし、目が合った楓真は憮然とした表情で悠理を見返している。
その理由──ちょっとくらい焼きもちをやけよ、と楓真は思っている──など知る由もない悠理は自分の台本をパラパラとめくった。
役が主人公の幼馴染の同級生、ということは聞いているが、それだけだった。
「鏑木さん」
プロデューサーに呼ばれる。
「はい」
「今回は助演ですが、あなたの役はとても重要な役です。クローズドゲイで、楓真さん演じるタツキにずっと恋をしている設定で、叶わない同性間の恋に悩んできたのにタツキが同じクラスのフミヤを好きになったことにショックを受けます。それでも、タツキの思いが通じるまでのあいだ、タツキを支える尊い役なんです。嫉妬や苦しさ、恋しさの表現が求められますし……ラブシーンもありますので心して下さいね」
熱っぽく一気に話すプロデューサーの言葉が、すぐには入ってこなかった。
辛うじて理解できたのは最後の一文だけ。
「ら、らぶしーん!? 誰と?」
現代でまで人前で男とラブシーンを!? ……悠理は目の前の二人を見比べた。
「楓真さんです。楓真さんはどんな役でもこなされるので心配していませんが、熱演を期待しています」
プロデューサーの視線が悠理と楓真の交互に渡る。
瞬の「ボクはぁ?」と言う声が間延びして聞こえた。
顔合わせが終わり、それぞれが部屋から出る。
室内に残ったのは楓真と悠理だ。
楓真と悠理はsakusi-doのマネージャーが到着するまでここで待つよう指示されているが、瞬はバラエティ番組のゲスト出演があり、つい五分前に部屋を出たところだった。
「男同士のラブシーンとか……どこまでゴールデンで放送するのかな……楓真?」
悠理が話しかけると楓真はうつむいていた。
「悠理……俺、できるかな」
「えっ?」
「男とラブシーンなんて、現代では初めてで……自信ないな」
楓の頃から自信に満ち溢れて、どんな役でもこなして来た楓真が肩を落として不安げな顔をしている。
初めて見る様子に驚いた悠理はそばに駆け寄り手を取った。
「大丈夫だよ、楓真なら絶対できるよ。俺も協力するから!」
「協力……ってこういうこと?」
楓真の手が伸び、悠理の後頭部を引き寄せた。
え、と思った時には唇が重なっている。
「ん、んんっ」
悠理は楓真の胸を押して顔をそらした。
「な、なにやってんだよ! き、き、キスなんて!」
「……協力してくれるって……。俺、こんな練習頼めるの悠理しかいないんだ。それに撮影でも悠理とするんだ。だからその時にミスしないように練習しておきたい。……駄目?」
楓真の大きな瞳が濡れて揺れる。その切な気な表情と、役者としての熱意を悠理は拒否できない。
「……わ、わかった。俺も俳優のはしくれだ。いいドラマを作る為なら協力する!」
それた悠理の顔が再び楓真に向いた。頬を真っ赤にしているが、真剣そのものだ。
(……ふっ、チョロいな)
楓真は悠理の片頬を包み、唇の表面を親指で撫でながら眉間にキスをした。
悠理は反動で目を閉じる。
楓真は片側の口角を上げてから、まずは鼻筋に唇を置き、滑らせて唇に重ねた。
悠理の唇は強く結ばれているが、舌に力を入れてそれをこじ開ける。
「ん、んんっ……!」
悠理が逃げようとするのを、腕に力を入れて抱き寄せて阻止した。はずみで唇もより深く重なり、楓真の舌が悠理の口内を侵していく。
歯列をなぞり、舌を絡ませ、上顎を舐める。ちゅく、ちゅく、と言う水音が、二人の口の中から生まれた。
「ん~んん~!」
どんどん、と悠理がついに楓真の胸を叩くものだから、楓真はそこで諦めて悠理から唇を離した。
だがその時の悠理の顔と言ったら。
顔を真っ赤にしたまま目を潤ませ、楓真に吸われていた舌を出したままにしている。
(か、かわっ……)
大人気アイドルである柳田楓真が鼻から出血寸前になり、落ち着くために、片手で顔の下半分を覆って自我を抑えた。
「も、もう、終わり。充分できるじゃん。楓真」
は、は、と短い息を吐きながら呼吸を整える悠理。
それがまた可愛らしくて、楓真は彼を抱きしめて、もっともっと蹂躙したい衝動に駆られる。だが、そこはグッと我慢だ。
「ありがと、悠理。自信がついたよ。本番も頑張ろうな」
楓真が王子様スマイルで微笑むと、まだ涙目の悠理だったが、ニコッと微笑んで返事の代わりにした。
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