枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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暁ばかり憂きものは

通過儀礼 参 ❁✿✾ ✾✿❁︎

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 お仕置だ、と言った藤江様は、新たにロープ状の肥後ずいきを取り出し、時代劇で見る罪人のように手を後ろに合わせた形で俺を縛った。
 そればかりでなく、脚を開いて太腿とふくらはぎの裏を合わせるように足首で結び、俺の自由を奪っていく。

 さっきまで無理やり引き起こされていた快感により思考がまとまらないのは勿論、頭の隅では「朝まで耐えるんだ」と言った牡丹の言葉がリフレインしていて、抵抗の言葉をも抑えさせていた。

 そうだ、これは仕事だ、仕事……朝まで……耐える…耐えなきゃ……。

  「んん……っ……!!」
 藤江様は、屈辱とも言える姿の俺を仰向けにしたまま、再び後ろに器具を挿し込んだ。さっきのよりも太くて突起が多いことがすぐにわかるくらい、俺の中は敏感になっている。 

「う、うぅ……」
 奥深くでぐちゃぐちゃとかき混ぜたかと思うとゆるりと抜かれ、また勢いをつけて挿される。そのかん、胸へのいたぶりも続いていた。
 緩むことなく与えられる痛みと悦楽。俺は完全に自我を手放していた。
 
  
  「そうかそうか、気持ちが良いか。自ら欲しがって……よだれを垂らし腰まで動かして。これでは仕置にならぬが百合のい姿は興奮するのう」

  「はぁ……ぁ……ぅ」
 頭の中がドロドロの豆腐になったみたい……自分がどんな痴態を晒しているのかなんてわかるはずもない。

  「ではそろそろ褒美に移ろう」
  
  「……ふぅんっ……っ!」
 熱を持った塊が菊座に張り付き、やがて腹の中に潜る。
 人の熱を受け入れるのは二回目でも、充分に広げられた俺の菊座は少しの抵抗もなく、むしろ待ち構えていたかのように藤江様を取り込んだ。

 皮膚がぶつかる音が速いスピードで響き、しりを叩かれながら抽挿されているのかと思い違えそうになる。

  「ァあ……はあっ……ッあんんっっ!」

 離れであるこの和室は、怖いくらいに周りの音がない。
 藤江様と俺の体から発せられる肉塊の生々しい音、俺が出しているであろう理性の欠片もない喘ぎ。ただそれだけだ。


 パンパンパンパン
 グチッ、グチッ、グチャ
 ────音のスピードと速さが一段と早くなる。

 薄れていく意識の中、霞む目に映るのは、腹に付きそうなくらいそそり立ち、赤く充血した俺の昂ぶり。

 熱い……苦しい……出してしまいたい……!
  「んンんっ……!」

 思ったと同時に、腹の内部にぬめりを持った熱さが広がった。

  「う、う……」
 とっくに意思を手放していた俺の手足の先は、死ぬ前の虫みたいにピクピクと震えている。

  「ようし、百合、いい子だった」

 藤江様の満足した声が漏れるのと、根元を縛っていた肥後ずいきがしゅるり、と解かれたのは同時だった。

  「…………ッ!!」
 声にならない開放感。
 血液が心臓に集中し、さらに全身を駆け巡っていくような疾走感。体のいたるところでドクドクと脈打って​────俺の白濁が勢いをつけてほとばしった。


 
 …………終わった……?
 射精したことで、少しだけ周りの景色が見えた。藤江様が腰を引き、中から抜かれたのもわかる。

 でも、終わりじゃなかった。
 縛られたままの俺の顔を、今度は自分の胡座の上に乗せた藤江様は言う。
  「さあ、綺麗にできるな?」

 ……え……?

 藤江様が手で持って示したのは、茂みの下にある俺と藤江様の淫水を絡めた跡の残物。

 嘘……そんなの……。

 無理だよ、と声に出したかった。もうなにもかも捨ててここから逃げ出したかった。でも、できない。

 だって体が動かないんだ。悪魔お客様が俺の顎を撫でるんだ。悪魔お客様が囁くんだ。
  「菖蒲も、牡丹も悦んでやったぞ。ああ、楓はその中でも本当に上手だった……百合はどうかな」と。

 俺の体は、不随意に震えた。
  その震えを落ち着けたかったのか現実から目を逸らしたかったのか……わからない。

 目を閉じ口を開ける。藤江様が笑った気がしたけど、もうなにも感じたくはなかった。


 「片付け」は藤江様の満足を得たらしく、俺の喉の奥をえぐるように、張りつめた肉塊から二度目の熱が放たれて、ようやく縛りを解かれた。
 口の中が苦味と酸味と塩気が混じったような、味とも言えない味でいっぱいだった。

 けどもう、そんなのどうでもいい。疲れたよ……ここに来てからどれ位の時が経ったの……? 眠い……。

 緊縛が解けた安堵感も手伝い、瞼が閉じかける。クッションだけはいいこの褥で、早く朝を迎えたい。

  「百合、客より早く寝てはいけないし、客より遅く起きてはいけないのは知っているね」
  悪魔お客様は囁く。俺の頬を撫でながら。

  「はい……」
 力の入らない体をなんとか起こすと、白湯だけは与えられた。子供のように横抱きに抱えられ、ゆっくり、ゆっくりと言われながら口に運ばれる湯は、今までで一番渇きを癒した。


 それから。

 朝までたくさんの器具で体を弄ばれ、何度も何度も姿勢を変えて、藤江様の熱を受けた。

 朝が待ち遠しかったのはいつぶりだろう。眠気と、求めてもいないに与えられる快楽……痛みは少しもなかった。今ここにあるのは快楽だけ。
 牡丹に「愛のない行為はただの乱暴だ」と言ったのは誰だっけ……そんなものに溺れているのはこの俺自身。

 けど、もうどうでもいいや。人形みたいに快楽に揺さぶられていれば、お客は喜ぶんだから。

「百合、愛いのう。ゆ……ぅっ……り……」
 何度めかの熱を放つ藤江様の声は甘ったるい。

 でも、嫌だ。悠理、って聞こえる言い方で呼ばないで。それはあの人と俺だけの秘密なんだ。

 ────保科様……。

 暗がりの頭の奥に微かな光が差して、少しずつ霧が晴れていく。閉じていた瞼の裏に浮かぶのは、あの優しい顔と声。
「魅せてくれるのだろう? 芸の世界で輝く姿を」

 そうだ。だから駄目。気持ちを手放しちゃ駄目。誇り高く「仕事」を全うするんだ。俺は体を売っているんじゃない。芸を売る、華屋の陰間だ。

 手を握る。脳裏に気位高い牡丹の褥や、笑顔あふれる菖蒲さんの座敷、凛然として舞台で舞う楓の姿が流れ込む。
 俺が目指す先は、あそこだ。

 ────早く、早く、夜よ明けろ!
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