枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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暁ばかり憂きものは

通過儀礼 弍 ❁✿✾ ✾✿❁︎

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​ ────気が遠くなりそうだ。
 朝はまだ来ないのか、と何度思ったか。


  ***


 舞台が終わり、小花の俺なんかが飲食処の個室に呼ばれて不思議に思うと、中には横太りで白髪混じりの客が座っていた。

 江戸に来ておよそ四ヶ月。流石に俺でもわかる。上等の着流しに羽振りの良さそうな口調。お付きの手代奉公人まで引き連れて……江戸の大店の旦那だ。現代で言えば有名大企業の社長か会長ってところ。
 そう言えば「藤江屋」って、現代でも和菓子の老舗が銀座にあるけど、まさかそこの御先祖とか!?

  「百合、活躍は良く見聞きしている。水揚げも滞りなく執り行われたようで目出度いことだ。さ、近くに」
 爬虫類を思わせる顔面の分厚い唇が裂けそうなほどに笑い、じっとりと湿度のある手が俺に触れた。

 ぎゃっ、最初から近い!
  「藤江様、百合は恥ずかしゅうございます」
 言いつつ少し体をずらしても、その分しっかりと寄ってくるからたちが悪い。

  「つれないことを申すな。今日は私がたっぷりでてやるというのに、それでは楽しめないであろう」
  
 分厚い唇が耳たぶをかすり、耳の中へ直接囁かれて、体がぞわぞわと震えた。それでも精一杯の愛想笑いをした俺を、茶を運んできたなずなは気の毒そうに見る。

  「藤江様のお手つきでない者はいない」って聞いたけど、なずなも経験者なのか?
 俺がテレパシーで声を送ったことに気づいたのか気づいてないのか、なずなは目を伏せて個室を出て行った。

 それから寸分たがわず、運ばれた茶を一啜りしただけの藤江様は「では行くぞ」と、俺の手を引いた。

  「あの、着替えも……権さんもまだなんですけど」

  「おや、当たり前過ぎて聞かれされていないか?。私が買った時は私の屋敷の離れで過ごすのだ。金剛はついて来ないから、着替えや荷物は全て金剛が持ち帰る。明朝には私から、奉仕に見合った新しい衣類一式を使わすから案じるでない」

 ええ? 権さん来ないの? しかもこの舞台衣装のまま行くの? 今日は姫装束だから普通に道を歩くのは重いし恥ずかし過ぎるんだけど……と思っていたら、見世の外には駕籠かごが待っていた。

 おあつらえ向き、ってこんな時に使うのかな。ホントのお姫様みたいじゃん!

 これから起こることを知らない俺は、初めての駕籠に子供みたいに浮かれていた。


 運ばれた先は、保科様の屋敷よりさらに広大な豪華な屋敷。 
 その屋敷の奥の奥。 回廊とは繋がっていない、独立して建てられている離れは六畳程の広さがあった。周りにはたくさんの樹木が植えられ、庭には玉砂利。端には小さな池まであって風流だ。

 でも、綺麗な所だな、と思ったのは最初だけ。あとは景色一つ楽しむ余裕はなかった。
 藤江様はお付きの手代を下げると、俺の帯を荒々しく回し解き、乱暴に褥に放り投げた。

 隆晃様に送られたものよりずっとクッション性が高い三つ褥は、体を痛めはしなかったけど、綿の中に体が沈んで底無し沼に嵌ったような感覚に陥いる。


 藤江様は粘着質に笑うとすぐに俺の下帯したぎも解いた。柔らかいままのものを、力を込めて掴まれる。
 
 ──痛っ………!
  
 顔が歪みそうに痛くても、抵抗することは許されない。せめてできるのは、遠回しに早急さをいさめることくらい。

  「藤江様、時間は朝までありますゆえ……な、なにをなさいますか!?」
 思わず声が上ずる。
 藤江様が干瓢かんぴょうに似た濡れた紐を出し、俺のへのこの根元にきつく巻き付けて縛ったのだ。

  「これはな、肥後ずいきと言って本来は挿す側が女を悦ばせる為に巻くのだが、こうして締めておけば百合がすぐに達さずに済むと言うわけだ。私ほどの技量だと経験の浅い陰間はすぐに達してしまうからのぅ」
  
 言い終わりに強引に唇を取られる。顎をつかみ、初めから大きく開けさせて、否応なしに突っ込まれるぬめりのある肥えた舌。太い指はもう俺の胸の先をよじっていた。

 なにが技量だ。なにがすぐにイかないようにだ。ちっとも良くない。痛いだけだよ。こんな性技で浮名を流してるだなんて、聞いて呆れる。

 ギリギリと先を捩られたり、周りをつねられる痛さで歪んでしまう顔を、なけなしの陰間のプライドで必死で隠した。華屋では取り引きは少ないものの、陰間や遊女の苦痛に歪む顔が好きなお客も中にはいる。俺は初めてだけど、屈したくない。 

  「!」

 突然に、針が貫通したような痛み。
 いつの間にか口に含まれていた胸の尖りを強く噛まれ、声にならない叫びで喉が鳴った。けれどそのあと、舌と上唇で柔く挟まれ、痛みから解放されると力みが抜けていく。
 そして、分厚い舌の先で乳頭だけをネトリと舐められれば、そこにジンとした熱さが灯り、痛みが快感に変わる。
  「ンあっ……んん……なん……で……」

 藤江様は答えることなく、反対の胸も同じように弄んだ。
  「……いっ……! ……ああっ、は……ァんん……」
 交互に来る痛みと快感。それだけで俺の脳は着実に思考を失っていく。それでも、藤江様は手を緩めなかった。

 俺をうつ伏せ、腰を引き上げる。
  「どおれ、菊座の具合はどうだ……ほぅ、見事な薄紅色。産毛一つないではないか。しかし、開きが弱いな。まだ硬い蕾のようではないか?」
 躊躇ためらいなく双丘を開いたと思えば講釈をたれ、指でくるり、と撫でた。

  「そうか……百合、もう随分日が経つが、そなた増大寺さんとこの坊主にはまだ開いていないな? 股で誤魔化したか。なるほどなるほど。ならば私が本当の水揚げの相手だな」
 笑いを含んだ言い方にゾッとした。

 藤江様は既に溶かしてあった通和散を菊座に塗り込みつつ、ガチャガチャとなにかを探す音を立てた。

  「…………?」
 音に反応して顔を向ける。そこにあったのは、長い棒を団子の串型に整えたもの───つまりは菊座の開発器具だ。
 俺は使われなかったけど、なかなかほぐれない陰間はこういった器具を何日かに渡り挿入して、菊座を慣らすことがあると聞いた。
 でも、聞いていたそれよりは明らかにいびつな形をしている。

 藤江様はそれにもたっぷりと通和散を塗り込み、間髪入れず俺の中に突き刺した……突き刺した、と言う表現しか見当たらない。体全体を貫くような痛みが俺を襲った。

  「は……は……」
 痛みで頭がキーンとする。息、できない……!!

  「大丈夫だ、百合。私は商品を傷つけたりしないよ。加減は得意だからね。いい子だから一度深く息を吐いてから吸ってごらん。……そうだ、いい子だ。私の動きに合わせるんだよ?」
 耳を舐められながら、ねっとりと囁かれる。

 ぐちゅ、ぐちゅっ……早くも遅くもない規則的なスピードで、通和散が滑る音がする。

 息を動きに合わせる……?

  「っああああああっ!」
 考える余裕は与えられなかった。
 痛かったはずの器具は俺の感じる部分を的確に突いた。それだけでなく、内側の粘膜に絡みついて、ぐりぐりと旋回する。まるで腹の中を生き物がうごめくように。

  「んあっ、ぁあ……や……んんっ」

 再び胸への刺激も加えられ、全身を犯される。意志とは無関係に反応する体。頭の中はスパークしかけている。

 ……熱い。腹の中の熱さを早く出してしまいたい。

 俺の手は無意識に前を探した。薄れた視界の先に、自身の昂ぶりが見える。でも、苦しそうに血脈を浮かばせて悶えているのに、締められた根元のせいか、先走りがたらりと一筋流れているだけだ。

 ……出したい……。

  「まだだ。客より先に達してはならぬ。客より感じてはならぬ。百合、なってないのう。仕置が必要のようだな」

 ねっとりした含み笑いにはもう嫌悪さえも感じない。
 俺はただ、体だけが感覚を感じる生き物に成り下がりそうだから……。
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