30 / 149
出逢いと因果
願い 壱 ❁✿✾ ✾✿❁︎
しおりを挟む
夜も更け、廊下に置かれた行燈の火がゆらゆらと揺れている。ここに初めて来た時よりも一層寒くなって、廊下の板の冷たさが素足に刺さった。
保科様の寝所に続く最後の曲がり角で、番をする守人に頭を下げる。ここから三つ先の部屋まではもう守人はいない。
「絶対泣かない!」
両手でバンッ、と頬を叩いて気合いを入れた。
「保科様、百合です」
ああ、と言う声が聞こえて、正座のまま襖を開いた。
「こちらへ」
保科様に促され寝所に入る。
一週間ぶりの保科様の部屋は保科様の香の香りがして、郷愁的な気持ちになる。
保科様と膝を合わせるとすぐ、俺の前に打刀と脇差が置かれた。
素人目にもわかる、立派な打刀の鍔には金と銀で細工された百合が施されている。
「これは……」
「陰間が街を歩く時と褥に入るそばには必ずこれを持つのが習いだ。陰間は絡まれやすいし、褥では客の皮を被った盗賊などの輩が居ないとも限らない。金剛も部屋の外にはついているが、最後に自分を守るのは自分だ。良いな。必ずそばに」
「はい……!」
俺は二つをギュッと胸に抱いた。保科様からの刀はきっと俺を守ってくれる。
「保科様がいつもおそばにいて下さる。そう思って大切にします」
「悠理」
保科様の凛々しい顔が優しく解けて、手が俺の頬に伸びる。
「明日、居なくなるのだな」
「……保科様、そんなこと、言わないで下さい。おめでたいことだとおっしゃったでしょう?」
切ない顔で名前を呼ばれたら、抑えている気持ちがザワザワと波立つ。
「そうだな。いや、私もこの一月が楽しく、どうやら名残惜しいようだ」
「……っ。はは……あの、お話はこれだけですか? なら、俺もう行きますね」
……失敗。自分のこと「俺」って言っちゃった。「百合」として話さないと。なんて、気を紛らわせながら、刀を抱えて慌ただしく立ち上がる。
さっさと部屋に戻るんだ。
「…………」
……戻ろうとしたけど、足が進まなかった。襖の前で、足も肩も震えてしまう。
ここを出たらもう、保科様の胸に抱かれることも包まれることもない。それどころか、次に本当の名を呼んでくれるのもいつになるのかわからない。
────なら、最後にもう一度だけ。
「保科さ……」
保科様はもう、後ろにいた。
振り返りかけていた俺の背中を、保科様がふんわりと包む。それから、腕の力がぎゅっ、と強くなった。
「悠理……」
切ない声で名前を呼ばれる。これを聞いたらもう、自分を抑えられなかった。
俺は保科様の方へ向き直り、その背中をかき抱く。せっかく頂いた刀はガチャンと音をたてて腕から離れたけど、保科様も気に留めなかった。お互い他のどんなことよりも、目の前の存在を強く求めることに必死で、言わずとも唇を寄せる。
「ん、んんっ……」
そのまま俺達は互いの浴衣の紐を解き、荒々しく脱がせ合いながら布団へともつれ込んだ。
保科様が寝所で全てを脱ぎ去るのは初めてで、程よい筋肉がついた美しい裸体が俺の肌にぴたりと重なる。
なんて心地がいいんだろう。
「ん、保科様、保科様」
足りないとばかりに大きく口を開け、保科様の唾液を受け取る。
やがて、いつものように保科様の唇は顎・鎖骨を辿り、既にもの欲しそうに尖っている胸の蕾に届いた。
指先で尖りを挟まれ、先を愛撫される。
「ん、ん、あン、あぁンン……」
執拗とも言えるくらいに吸われ、転がされ、俺は声を抑えられない。
手で口を塞いでも、閉じ込め切れずに恥ずかしい声が響く。
「悠理、抑えなくていい」
「だめっ、こんなに大きく声を出したら番の人に聞かれちゃう…………ぁアっ」
かりっとかじられて、また声が出てしまう。
「まだ周りを気遣う余裕があるのか。ならば」
ようやく胸から離れたと思えば、唇はそのまま下へ滑り、保科様の手は俺の硬くなった部分を握った。頭が脚のあいだに降りる。
「や、あぁっ! ん、んんッ、ほしな……さま……!」
食事中でさえ音を立てない保科様が、じゅぶ、ぐちゅり、と卑猥な音を立てながら俺のものを口に含んでいる…… こんなの、もう。
「ん、ンン、出ちゃう。もう出ちゃうから、離して……! あっ……!」
体が大きく波打ち、腰骨が高く上がって、保科様の中へと吐き出される俺の熱。保科様の一部となり、ずっと傍にいたいと願った俺の欲の塊。
保科様はそれを、ごくり、と呑み込んだ。
「やはり青いな」
クスッと笑い、顔を上げると、盆に用意されていた白湯を飲んだ。
「も……やだ……こんなの……しないで下さい。保科様が汚れちゃう」
快感なのか恥ずかしいのか、自分でもわからない感情がごちゃ混ぜ。涙なんか滲んでしまう。
「汚れないよ。それより、これで口吸いはしても良いか?」
生真面目に聞いてくれる保科様が愛しくて、その首を引き寄せ、ちゅ、とキスをした。
「たくさんします。でもそれはあとで。今は……」
俺も顔を下げて、保科様の大きく張りつめたものに口を運ぶ。
「……っ、悠理、よしなさい」
「どうして? 俺も保科様に気持ち悦くなって欲しい。ン……っ」
肉張った先端から、くびれを伸ばすように口の中に迎え入れた。
保科様のは大きくて、全ては口に入り切らないけれど、中間までを飲み込み、顎や頬の粘膜にすり付ける。やり方はよくわからない。でも、俺が感じるところを保科様にも。
「ああ……悠理……我を忘れそうだ……」
は、は、と息を吐きながら切なく言われると、もっともっとしたくなる。
保科様の根本をしっかり握って離さない。裏の縫い目も、浮き出た血管も、すべてが愛おしい。愛しくて愛しくて、したたった蜜は初めての味だけど、俺には凄く甘くて、ご褒美みたい。
俺は夢中になって保科様を頬張った。
保科様の寝所に続く最後の曲がり角で、番をする守人に頭を下げる。ここから三つ先の部屋まではもう守人はいない。
「絶対泣かない!」
両手でバンッ、と頬を叩いて気合いを入れた。
「保科様、百合です」
ああ、と言う声が聞こえて、正座のまま襖を開いた。
「こちらへ」
保科様に促され寝所に入る。
一週間ぶりの保科様の部屋は保科様の香の香りがして、郷愁的な気持ちになる。
保科様と膝を合わせるとすぐ、俺の前に打刀と脇差が置かれた。
素人目にもわかる、立派な打刀の鍔には金と銀で細工された百合が施されている。
「これは……」
「陰間が街を歩く時と褥に入るそばには必ずこれを持つのが習いだ。陰間は絡まれやすいし、褥では客の皮を被った盗賊などの輩が居ないとも限らない。金剛も部屋の外にはついているが、最後に自分を守るのは自分だ。良いな。必ずそばに」
「はい……!」
俺は二つをギュッと胸に抱いた。保科様からの刀はきっと俺を守ってくれる。
「保科様がいつもおそばにいて下さる。そう思って大切にします」
「悠理」
保科様の凛々しい顔が優しく解けて、手が俺の頬に伸びる。
「明日、居なくなるのだな」
「……保科様、そんなこと、言わないで下さい。おめでたいことだとおっしゃったでしょう?」
切ない顔で名前を呼ばれたら、抑えている気持ちがザワザワと波立つ。
「そうだな。いや、私もこの一月が楽しく、どうやら名残惜しいようだ」
「……っ。はは……あの、お話はこれだけですか? なら、俺もう行きますね」
……失敗。自分のこと「俺」って言っちゃった。「百合」として話さないと。なんて、気を紛らわせながら、刀を抱えて慌ただしく立ち上がる。
さっさと部屋に戻るんだ。
「…………」
……戻ろうとしたけど、足が進まなかった。襖の前で、足も肩も震えてしまう。
ここを出たらもう、保科様の胸に抱かれることも包まれることもない。それどころか、次に本当の名を呼んでくれるのもいつになるのかわからない。
────なら、最後にもう一度だけ。
「保科さ……」
保科様はもう、後ろにいた。
振り返りかけていた俺の背中を、保科様がふんわりと包む。それから、腕の力がぎゅっ、と強くなった。
「悠理……」
切ない声で名前を呼ばれる。これを聞いたらもう、自分を抑えられなかった。
俺は保科様の方へ向き直り、その背中をかき抱く。せっかく頂いた刀はガチャンと音をたてて腕から離れたけど、保科様も気に留めなかった。お互い他のどんなことよりも、目の前の存在を強く求めることに必死で、言わずとも唇を寄せる。
「ん、んんっ……」
そのまま俺達は互いの浴衣の紐を解き、荒々しく脱がせ合いながら布団へともつれ込んだ。
保科様が寝所で全てを脱ぎ去るのは初めてで、程よい筋肉がついた美しい裸体が俺の肌にぴたりと重なる。
なんて心地がいいんだろう。
「ん、保科様、保科様」
足りないとばかりに大きく口を開け、保科様の唾液を受け取る。
やがて、いつものように保科様の唇は顎・鎖骨を辿り、既にもの欲しそうに尖っている胸の蕾に届いた。
指先で尖りを挟まれ、先を愛撫される。
「ん、ん、あン、あぁンン……」
執拗とも言えるくらいに吸われ、転がされ、俺は声を抑えられない。
手で口を塞いでも、閉じ込め切れずに恥ずかしい声が響く。
「悠理、抑えなくていい」
「だめっ、こんなに大きく声を出したら番の人に聞かれちゃう…………ぁアっ」
かりっとかじられて、また声が出てしまう。
「まだ周りを気遣う余裕があるのか。ならば」
ようやく胸から離れたと思えば、唇はそのまま下へ滑り、保科様の手は俺の硬くなった部分を握った。頭が脚のあいだに降りる。
「や、あぁっ! ん、んんッ、ほしな……さま……!」
食事中でさえ音を立てない保科様が、じゅぶ、ぐちゅり、と卑猥な音を立てながら俺のものを口に含んでいる…… こんなの、もう。
「ん、ンン、出ちゃう。もう出ちゃうから、離して……! あっ……!」
体が大きく波打ち、腰骨が高く上がって、保科様の中へと吐き出される俺の熱。保科様の一部となり、ずっと傍にいたいと願った俺の欲の塊。
保科様はそれを、ごくり、と呑み込んだ。
「やはり青いな」
クスッと笑い、顔を上げると、盆に用意されていた白湯を飲んだ。
「も……やだ……こんなの……しないで下さい。保科様が汚れちゃう」
快感なのか恥ずかしいのか、自分でもわからない感情がごちゃ混ぜ。涙なんか滲んでしまう。
「汚れないよ。それより、これで口吸いはしても良いか?」
生真面目に聞いてくれる保科様が愛しくて、その首を引き寄せ、ちゅ、とキスをした。
「たくさんします。でもそれはあとで。今は……」
俺も顔を下げて、保科様の大きく張りつめたものに口を運ぶ。
「……っ、悠理、よしなさい」
「どうして? 俺も保科様に気持ち悦くなって欲しい。ン……っ」
肉張った先端から、くびれを伸ばすように口の中に迎え入れた。
保科様のは大きくて、全ては口に入り切らないけれど、中間までを飲み込み、顎や頬の粘膜にすり付ける。やり方はよくわからない。でも、俺が感じるところを保科様にも。
「ああ……悠理……我を忘れそうだ……」
は、は、と息を吐きながら切なく言われると、もっともっとしたくなる。
保科様の根本をしっかり握って離さない。裏の縫い目も、浮き出た血管も、すべてが愛おしい。愛しくて愛しくて、したたった蜜は初めての味だけど、俺には凄く甘くて、ご褒美みたい。
俺は夢中になって保科様を頬張った。
7
お気に入りに追加
677
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。


王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中
きよひ
BL
ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。
カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。
家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。
そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。
この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。
※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳)
※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。
※同性婚が認められている世界観です。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる