DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

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XLIV 未来予測の当惑《アポリア》-III

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 彼女――マリア・ウィルソンは、15年以上も前に“死んだ”筈だ。彼女の友人でもあったマーシャは、確かに“彼女は死んだ”と言っていた。
 毛先に向かって色濃くなった赤毛も、縦2つ並んだ左目の下のホクロも、彼女と同じだ。自身の記憶と重なり、全てが一致する。

「……あ、あんたの娘が、人を刺して逃げてるんだ。居場所を知らないか」

 掴んだ肩を強く揺すると、彼女が眉を顰め抵抗する様に数歩後退った。そこで初めて、小さな違和感に気付く。
 目の前の彼女は、年齢で言うと20代前半程だろうか。マリアが自身の元を訪れた時、彼女は既に20代後半だった筈だ。そしてそれから15年以上の時が経っている。もし彼女が生きていたとしても、これ程に若々しい容姿をしている訳がない。

「――人違いじゃないのか。私に娘等居ないよ」

 彼女が俺の手を振り払い、よれた修道着を手早く直した。
 此方を見つめる彼女の瞳は、マリアと同じローズピンク。しかし、それは右側の瞳だけだ。
 ステンドグラスの光で気付かなかったが、彼女の瞳は左右で色が違う。反対の左目は、ほぼ真逆といえるカシミアグリーンだった。

「……あまり、瞳をじっと見ないでくれ」

 俺から顔を逸らした彼女が、ばつが悪そうに顔を歪める。

「左右で眼の色が違うだなんて、普通じゃあ有り得ない事だろう。此処へ来る前に居た教会の孤児院では、悪魔の子だと忌み嫌われていてね。その所為か、あまり人に目を見られる事が得意じゃないんだ」

「あぁ……悪い……」

 罪悪感に苛まれながらも、目を隠す様に長めの前髪に触れる彼女から視線を外す。

 彼女の声も、口調も、マリアの物とはまるで違う。しかしその容姿は、生き写しの様にマリアによく似ていた。これが唯の他人の空似なのだとしたら、酷く気味が悪い。

「――シスター、マリア・ウィルソンって知ってるか」

「マリア……?」

 顔を上げた彼女が、怪訝な瞳を此方に投げる。肯定する様にその顔を見つめると、再び彼女が俺から顔を背けた。

「古い新聞で名前を何度か見掛けた事があるが、著名人か?」

「あぁ、元舞台女優だと言っていた」

「ふむ……。詳しくは知らないが、先程私をその人物の名で呼んでいたな。そんなに私に似ているのか」

「似ている、なんて物じゃない。未だに本人で無い事が疑わしいよ」

 マリアと血縁関係を持つ人物だという事も考えられたが、彼女の反応を見るにその可能性は低い。
 自身の記憶が、無意識に彼女とマリアを重ねようとしているだけなのだろうか。人間の記憶とは非常に曖昧で、自身の願望が強ければ強い程、その記憶は簡単に改変されてしまう。
 これ以上、詮索をする事に意味は無い。彼女を尻目に、諦めを込めた溜息を吐いた。

 だが彼女は、そんな自身の気も知らずその話を広げる様に会話を続ける。
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