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XXXVII 一緒-I
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天気が良く、普段より暖かな正午の街。娘が産まれて、3度目の冬を迎えた。
少し前に2歳になった娘は、大人しくなるどころか手が掛かる一方だ。ただ唯一変わった事と言えば、エルも俺も子育てには慣れ、昔程精神を病まなくなった事だろうか。毎日大変ではあるが、笑顔の絶えない生活は“幸せ”なんて言葉では言い表せない。
「――パパ、あっち!」
腕に抱いたレイが、急に一点を指差し足をバタつかせた。覚えたての言葉で必死に何かを訴える姿は表情が緩んでしまう程に愛らしいが、今はあまり呑気な事は言っていられない。
地面に降りたいと暴れるレイを何とか腕の中に抑え込み、目的地の方向へと足を進める。
レイは好奇心旺盛で、少しでも目を離すと直ぐに何処かへ走って行ってしまう。この前も散歩中に突然走り出し、捕まえるのに非常に苦労した。
初めて立って歩いた時は我が子の成長を嬉しく思ったものだが、今となっては1人で立ち上がり歩けてしまうのは少々厄介だった。座って大人しくしていてくれた方が都合が良いとも思えてしまう。
「――セドリック、大丈夫?」
ルイと手を繋ぎながら、自分達の少し前を歩いていたエルが不安気な顔で振り返った。それに釣られ、ルイも此方に顔を向ける。
「あまり、大丈夫では無いな」
レイの玩具に成り果てた俺の髪に、エルの顔に苦笑いが浮かぶ。
邪魔になると思い、仕事時同様髪を1つに纏めて来たのだが、どうやらそれが間違いだった様だ。髪を纏める黒のリボンに興味を示したレイが、力任せに髪を引っ張り今や見る影も無い程乱れてしまっている。
「着いたら、少しの間私がレイを見ているから……」
「……あぁ、頼む」
暴れる大荷物の所為で疲弊した足で、漸く辿り着いたのは本日の目的地である一軒の貸本屋。マーシャが幼少期の頃から通い詰めていた場所だった故に存在だけは知っていたが、訪れるのは今日が初めてだ。
抱いていたレイをエルに預け、乱れに乱れた髪を整えようとリボンを解いた。帰り道もきっとレイに崩されてしまうのだろうが、邪魔になるよりかはマシだろう。手櫛で丁寧に髪を整え、頭の低い位置で1つに纏める。
「……パパ」
少し高い、エルに似た幼い声。コートの裾を弱々しい力で引っ張られ、自身の足元に視線を落とした。
「どうした、ルイ。ママと一緒に本、選ばなくていいのか」
ルイと視線の高さを合わせる様に、その場に屈み込む。
今日此処へ来たのは、絵本が好きなルイの為だ。毎時間と言って良い程絵本を求めるルイに、より多くの知識を与えたくて自宅から少し離れた貸本屋に来た。本来なら欲しい本を買い与えてやるべきなのだろうが、絵本だろうが本は本で、高価な事には変わりない。少しでも多くの本に触れさせるには、買い与えるよりも貸本屋に来た方が手っ取り早いという結論に至った。
「絵本、好きなんだろ?」
「……うぅん」
ルイが小さな眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな唸り声を上げる。まだ上手く言葉を扱えず、自分の気持ちを言葉にする事が出来ないのだろう。
時折遠目に見えるエルに視線を移す所を見ると、本に一切の興味を示していない訳では無い様だ。しかし、本よりも先に何かを伝えたいらしい。俺の手を掴むルイの小さな手を、撫でる様に握る。
少し前に2歳になった娘は、大人しくなるどころか手が掛かる一方だ。ただ唯一変わった事と言えば、エルも俺も子育てには慣れ、昔程精神を病まなくなった事だろうか。毎日大変ではあるが、笑顔の絶えない生活は“幸せ”なんて言葉では言い表せない。
「――パパ、あっち!」
腕に抱いたレイが、急に一点を指差し足をバタつかせた。覚えたての言葉で必死に何かを訴える姿は表情が緩んでしまう程に愛らしいが、今はあまり呑気な事は言っていられない。
地面に降りたいと暴れるレイを何とか腕の中に抑え込み、目的地の方向へと足を進める。
レイは好奇心旺盛で、少しでも目を離すと直ぐに何処かへ走って行ってしまう。この前も散歩中に突然走り出し、捕まえるのに非常に苦労した。
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「――セドリック、大丈夫?」
ルイと手を繋ぎながら、自分達の少し前を歩いていたエルが不安気な顔で振り返った。それに釣られ、ルイも此方に顔を向ける。
「あまり、大丈夫では無いな」
レイの玩具に成り果てた俺の髪に、エルの顔に苦笑いが浮かぶ。
邪魔になると思い、仕事時同様髪を1つに纏めて来たのだが、どうやらそれが間違いだった様だ。髪を纏める黒のリボンに興味を示したレイが、力任せに髪を引っ張り今や見る影も無い程乱れてしまっている。
「着いたら、少しの間私がレイを見ているから……」
「……あぁ、頼む」
暴れる大荷物の所為で疲弊した足で、漸く辿り着いたのは本日の目的地である一軒の貸本屋。マーシャが幼少期の頃から通い詰めていた場所だった故に存在だけは知っていたが、訪れるのは今日が初めてだ。
抱いていたレイをエルに預け、乱れに乱れた髪を整えようとリボンを解いた。帰り道もきっとレイに崩されてしまうのだろうが、邪魔になるよりかはマシだろう。手櫛で丁寧に髪を整え、頭の低い位置で1つに纏める。
「……パパ」
少し高い、エルに似た幼い声。コートの裾を弱々しい力で引っ張られ、自身の足元に視線を落とした。
「どうした、ルイ。ママと一緒に本、選ばなくていいのか」
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今日此処へ来たのは、絵本が好きなルイの為だ。毎時間と言って良い程絵本を求めるルイに、より多くの知識を与えたくて自宅から少し離れた貸本屋に来た。本来なら欲しい本を買い与えてやるべきなのだろうが、絵本だろうが本は本で、高価な事には変わりない。少しでも多くの本に触れさせるには、買い与えるよりも貸本屋に来た方が手っ取り早いという結論に至った。
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時折遠目に見えるエルに視線を移す所を見ると、本に一切の興味を示していない訳では無い様だ。しかし、本よりも先に何かを伝えたいらしい。俺の手を掴むルイの小さな手を、撫でる様に握る。
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