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XXX 彼女の隠し事-II
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彼女は、自分と家族を作るつもり等無かったのだろうか。子供が出来た事を喜んでいたのは自分だけで、彼女はずっと、この事実に苦しんでいたのだろうか。
これじゃあ、両親と同じではないか。あれ程両親とは違うと自身に言い聞かせ、やっと忘れる事が出来たというのに。
父と同じ人生を辿る位ならば、今此処で全てを壊してしまった方が余程マシだ。自分の未来も、エルの未来も、全て壊してしまえば苦しむ事は無くなる。
――いや、違う。それでは意味が無い。
何度思考を巡らせても、結局同じ場所に戻ってきてしまう。これ以上考えていたら、答えに辿り着く前に自分自身が壊れてしまいそうだ。
いっそ、いつかのあの女性にもう一度会えやしないか。
どうしたら彼女との未来は明るくなるのか。中途半端な予言などする位なら、対価を支払っても構わないからどの道に進めば良いのか教えて欲しい。
ぽたり、とテーブルに雫が落ちる。
目が回りそうな程の自身の思考を止めたのは、俯く彼女の瞳から零れた涙だった。
“絶望”という言葉が良く似合う感情に押し潰され、酷く息が詰まる。
泣きたいのは、自分も同じだ。
泣く事で、この状況が少しでも変わるのなら自分だってとっくにそうしてる。
「――……」
彼女が、ゆらりと顔を上げた。その一瞬、視線が交わる。
今、自分はどんな顔をしていただろう。
酷く傷ついた様な顔をした彼女が、勢いよく立ち上がった。その拍子に木の椅子が倒れ、騒音が部屋に響き渡る。
「――ごめん、なさい」
ふらりと、彼女の足が玄関へ向いた。
此処で引き止めるのが正しいかなんて分からない。しかし此処で手を離したら、本当にエルを失ってしまう様な気がして、咄嗟に彼女の腕を掴んだ。
「――エル、待て。ちゃんと話を……」
腕を掴む手に、自然と力が籠る。
彼女をまだ繋ぎ止めておけるのなら、産まない選択をしたって構わない。一生後悔する事になったとしても、彼女が隣に居てくれるのならそれでいい。
自分が正しい行いをしてこなかった事は分かってる。もし仮にこれが裁きなのだとしたら、已むを得ない事かもしれない。
だが今は、1分1秒でも長く、彼女と夢を見ていたい。これが強欲なのだとしても、どんな手を使ってでもこの長い夢を終わらせてしまいたくはなかった。
足を止め、振り返った彼女が俺の瞳を真っ直ぐに見つめる。
その潤んだ瞳には、未だ迷いが滲んでいた。
「――少し」
彼女の口が僅かに動き、か細く震えた声が零れる。
腕を掴む手を滑らせ、彼女の手を握った。自分より、1周りも2周りも小さな手。
彼女の頬を濡らす涙を拭おうと、頬に手を伸ばす。
しかしその手は、彼女の頬に触れる事なく空を切った。
彼女はこの瞬間、俺に何を言おうとしたのだろう。
もっと別の問い方をしていれば、こんな事にはならなかったのだろうか。
糸を切られた人形の様に、彼女の身体がぐらりと傾いた。床に身体が叩き付けられる前に、彼女の身体を抱き留める。
「……エル」
何度名を呼んでも、彼女の瞳は開かない。
胸の中を埋め尽くす虚無感。
大切な物は、作れば作る程傷付く事が増える。そんな事、ずっと昔に気付いていた筈なのに。
妊娠は、男女の関係を大きく変える。欲しくなったら作って、要らなくなれば処分する、そんな事が簡単に出来るものじゃない。
彼女と出逢わなければ、彼女を愛さなければ、きっと自分はこんな気持ちになる事は無かった。
それを知っても尚、彼女と愛し合った過去さえも消してしまいたいと思えないのは、何故なのだろうか。
これじゃあ、両親と同じではないか。あれ程両親とは違うと自身に言い聞かせ、やっと忘れる事が出来たというのに。
父と同じ人生を辿る位ならば、今此処で全てを壊してしまった方が余程マシだ。自分の未来も、エルの未来も、全て壊してしまえば苦しむ事は無くなる。
――いや、違う。それでは意味が無い。
何度思考を巡らせても、結局同じ場所に戻ってきてしまう。これ以上考えていたら、答えに辿り着く前に自分自身が壊れてしまいそうだ。
いっそ、いつかのあの女性にもう一度会えやしないか。
どうしたら彼女との未来は明るくなるのか。中途半端な予言などする位なら、対価を支払っても構わないからどの道に進めば良いのか教えて欲しい。
ぽたり、とテーブルに雫が落ちる。
目が回りそうな程の自身の思考を止めたのは、俯く彼女の瞳から零れた涙だった。
“絶望”という言葉が良く似合う感情に押し潰され、酷く息が詰まる。
泣きたいのは、自分も同じだ。
泣く事で、この状況が少しでも変わるのなら自分だってとっくにそうしてる。
「――……」
彼女が、ゆらりと顔を上げた。その一瞬、視線が交わる。
今、自分はどんな顔をしていただろう。
酷く傷ついた様な顔をした彼女が、勢いよく立ち上がった。その拍子に木の椅子が倒れ、騒音が部屋に響き渡る。
「――ごめん、なさい」
ふらりと、彼女の足が玄関へ向いた。
此処で引き止めるのが正しいかなんて分からない。しかし此処で手を離したら、本当にエルを失ってしまう様な気がして、咄嗟に彼女の腕を掴んだ。
「――エル、待て。ちゃんと話を……」
腕を掴む手に、自然と力が籠る。
彼女をまだ繋ぎ止めておけるのなら、産まない選択をしたって構わない。一生後悔する事になったとしても、彼女が隣に居てくれるのならそれでいい。
自分が正しい行いをしてこなかった事は分かってる。もし仮にこれが裁きなのだとしたら、已むを得ない事かもしれない。
だが今は、1分1秒でも長く、彼女と夢を見ていたい。これが強欲なのだとしても、どんな手を使ってでもこの長い夢を終わらせてしまいたくはなかった。
足を止め、振り返った彼女が俺の瞳を真っ直ぐに見つめる。
その潤んだ瞳には、未だ迷いが滲んでいた。
「――少し」
彼女の口が僅かに動き、か細く震えた声が零れる。
腕を掴む手を滑らせ、彼女の手を握った。自分より、1周りも2周りも小さな手。
彼女の頬を濡らす涙を拭おうと、頬に手を伸ばす。
しかしその手は、彼女の頬に触れる事なく空を切った。
彼女はこの瞬間、俺に何を言おうとしたのだろう。
もっと別の問い方をしていれば、こんな事にはならなかったのだろうか。
糸を切られた人形の様に、彼女の身体がぐらりと傾いた。床に身体が叩き付けられる前に、彼女の身体を抱き留める。
「……エル」
何度名を呼んでも、彼女の瞳は開かない。
胸の中を埋め尽くす虚無感。
大切な物は、作れば作る程傷付く事が増える。そんな事、ずっと昔に気付いていた筈なのに。
妊娠は、男女の関係を大きく変える。欲しくなったら作って、要らなくなれば処分する、そんな事が簡単に出来るものじゃない。
彼女と出逢わなければ、彼女を愛さなければ、きっと自分はこんな気持ちになる事は無かった。
それを知っても尚、彼女と愛し合った過去さえも消してしまいたいと思えないのは、何故なのだろうか。
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