DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

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XXIX 挙動不審な幼馴染-I

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 例の事件が終結して一週間。
 アルフレッドとウォーレンの事は、夕刊紙に掲載されたものの大きな騒ぎになる事は無かった。貧民街での事件だからか、警察もあまり捜査する事無く、犯人は遺書を残して自殺したウォーレンという事で片づけられた様だった。

 マーシャ曰く、妹のステラも今はアリアの居る酒場で住み込みで働いているらしく、特に騒ぎ立てる様子も無いらしい。
 街ではいつの間にか暴行事件の話題を出す人も居なくなり、やっと平穏な日常が戻った。

 ――が、どうやら平穏だと言うにはまだ早いらしい。

 職場の玄関先。去っていく依頼者を見送り、扉が閉まったのと同時に急いでキッチンへと足を向ける。
 ガラス張りの扉を覗きキッチンに目を向けると、何処か覚束ない手付きで紅茶を淹れる幼馴染の背が見えた。

「マーシャ!」

 彼女の名を呼び、勢い良く扉を開く。

「な、なに、びっくりした」

 大きく肩を揺らしたマーシャが、瞳を泳がせながら此方に身体を向けた。
 動揺する彼女を怪訝に思いながらも、彼女に詰め寄る。

「病院、行ったんだろ。医者はなんだって?」

「……あぁ」

 消え入りそうな声で返答したマーシャが、不自然に俺から目を逸らした。

 ここ数日、あまり体調が優れず寝込んでいる事の多かったエルが、今朝突然倒れた。意識は直ぐに戻ったものの、体調は戻るどころか酷くなる一方。
 エル自身は大丈夫だと呪文の如く繰り返していたが、流石に倒れる程の体調不良を放っておく事は出来ない。
 今日だけはどうしても仕事の予定を変更する事が出来ず、たまたま予定が空いていたマーシャに付き添いを頼んだという訳だが、戻って来たマーシャはどうも様子が変だった。
 ポットの中には明らかに湯の量と合っていない茶葉が入れられていて、紅茶の色は、最早濃いを通り越して黒くなってしまっている。

「……体調は、大丈夫そう。落ち着いたみたい」

 砂糖もミルクも入れられていない黒い紅茶を、意味もなくスプーンでぐるぐると掻き混ぜ続ける彼女が曖昧に答える。

「いや、体調じゃなくて医者の診断結果を聞いてるんだ」

「……う、うぅん……まぁ、そうね……」

 顔を歪ませたマーシャの視線が此方に向けられた。何を言われるのかと、自然と身体に力が入り身構える。

「……私は、セディとエルちゃん、お似合いの夫婦だと思うんだけどなぁ……」

 彼女の、紅茶を混ぜる手がぴたりと止まる。それと同時に、俺の思考も止まった。
 溜息交じりの返答は、自身の耳を疑う程見当違いな言葉。

「はぁ……?」

 俺はマーシャに、エルとの相性占いなど頼んだだろうか。
 いや、そんな物を頼んだ覚えは無い。彼女に聞いているのはエルの診断結果だ。決して夫婦仲の良し悪しを聞いている訳では無い上に、そんな物聞かなくても仲は良好である。

「意味わかんねぇよ。悪ふざけが過ぎるぞ」

 いつもの様に揶揄っているのだとしたら、今回ばかりはタチが悪すぎる。
 子供の様に首を横に強く振ったマーシャの肩を掴み、苛立ちに任せ強く揺さぶった。
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