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XXVII 護るべき者と、壊すべき者-II
しおりを挟む「あんたなら、来ると思ってたよ」
目の前にあるのは、あの日橋のたもとで見たのと同じ、憎らしい顔。
「その提案ってやつ、聞く価値位はあんだろ?」
「ガーランド様にご納得頂ける案件かと」
内ポケットから取り出した4つ折りの紙を取り出し、彼に提示する。それに目を向けた彼が、にたりと不気味な笑みを浮かべた。
彼の手によって、目一杯扉が開かれる。
そのまま部屋の奥へと消えていった彼の背に、無事第一関門を超える事が出来たのだと安堵の溜息を吐いた。
促されるままに、彼の自宅へと足を踏み入れる。
「……これ、は」
目の前の光景に、思わず声が漏れた。
然程大きくない部屋の中に、詰め込む様に置かれた家具は全て高級品。
目が痛くなる程宝石が散りばめられた大きなシャンデリアに、窓枠に付けられたカーテンはダマスク柄のベルベット。
壁には高価であろう絵画が幾つも掛けられ、焚かれた暖炉の前にはチェスターフィールドのウイングバックソファが1つ置かれている。
鬱屈とした街とは似ても似つかない、貴族の屋敷をそのまま此処へ運んできた様な内装だ。
「――あんたらしい提案だね。何、正義感って奴?」
「……まぁ、そんな所です」
彼の手に持たれた紙。それの正体は、要約すると“無償で子供を1人譲る代わりに、これ以上罪の無い女性への暴行を辞めて欲しい”といった、交換条件が書かれた書類――所謂提案書だ。
当然だが、この提案書は偽物。彼の家に難なく入り込む為の言わば小道具の様な物だ。提案に乗るか乗らないかは決して重要では無く、家に入り込む事が出来た今やもうその提案書は不要な物だった。
あとは隙を突いて、ウォーレンの名前が刻まれたナイフを彼に刺すだけ。たったそれだけだ。
時間にするとたったの4日だが、やっと苛まれ続けた不安から解放されるのだと、やっと平穏な日々が戻るのだと、愁眉を開く思いだった。
早く、彼の嘲笑が絶望に変わる瞬間が見たい。彼が息絶える姿をこの目に焼き付けたい。
事の運びは滞りなく進んだ。恐れる事は何も無い。
感情に支配された思考が“早く殺せ”と止まる事無く唱え続ける。
「提案は、まぁいいよ。考えとく」
彼が投げ捨てる様に提案書をテーブルに抛り、暖炉前のソファに身を深く沈めた。
その無防備な姿に、思わずローブのポケットに入ったナイフに手が伸びる。
「そんな事より、俺あんたに聞きたい事あんだよ」
「……はあ」
話が長くなると、後の計画にも支障が出る。極力余計な会話をせずに終わらせたいところだが、下手に話を切り上げて怪しまれても困る。
面倒だと思いながらも、ポケットの中のナイフに指先で触れながら曖昧に相槌を打った。
「――なんで、エインズワース家の令嬢が平民の男と結婚してんの?」
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