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XXVI 彼女に向けた銃口-II

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「……悪ふざけも大概にしろ」

 目一杯弾を込めた銃は重い。
 だが、その重みを全て忘れてしまう程にこの状況は不可解だ。

「別にふざけてないよ。練習台、必要でしょ?」

「笑えない冗談だな」

「だから、冗談じゃないってば」

 無邪気な子供の様に、彼女が笑う。

「だって、エルちゃんと2人で遠い場所に逃げようって思ってんでしょ? なら、私ともここでお別れになっちゃうじゃない」

「!」

 1歩、2歩、と彼女が後ろに下がり、俺から距離を取った。

「なら、別に此処で私を殺してもいいんじゃないの?」

 思考が止まってしまって、今は何も考えられない。
 過ぎ行く時間にただ焦りを感じながら、銃を持つ手に力を籠める。

「エルちゃんが起きる前に、全部終わらせて帰らなきゃね。早くしないと、時間無いんじゃない? それとも、セディには無理かなぁ?」

 腕を上げ、いつもと変わらない顔で笑うマーシャに銃口を向けた。

 ただ、危害を加えようとする人間をエルから遠ざけたいだけだ。決して、人を殺したい訳では無い。
 なのに、この理解しがたい状況の中彼女に銃口を向けているのは何故なのか。

 狙いを定めるは、彼女の心臓。トリガーを引いたら、どうなるか位分かってる。

「セディはエルちゃんの王子様でしょ? ならちゃんと、守ってあげなきゃ」

 ハンマーを起こし、トリガーに指を掛ける。

「早くしないと、大事なお姫様が狼に食べられちゃうよ?」

 彼女の口車に乗せられてはいけない。頭の中でそう何度も繰り返しながら、目を伏せた。


「――あぁでも、もう食べられちゃってるかもね」


 屋敷中に鳴り響いた、耳を劈く銃声。振動が、手首に伝わる。
 銃を持った手を下し、瞳を開いた。

 ソファに散った赤い鮮血。色の薄い生地を使っている為、特にシミが目立って見える。早急に張り替えなければ、依頼者に誤解をされてしまう。
 この際、張り替えるよりも家具一式買い替えてしまった方が安上がりだろうか。余計な所で出費の増える事をしてしまったと、肩を落とす。
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