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XXIII 二日酔いの朝-I
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ひんやりとした空気が部屋を包み込み、冬を感じさせる匂いが充満する。そんな空気と裏腹に布団の中はとても温かく、体調も良く悩みも無い人生であれば幸せを感じる様な朝だ。
しかし残念な事に、自身はその幸福感を味わう事は出来ない。船酔いの様な眩暈と酷い頭痛に、顔を歪めベッドの上でゆっくりと寝返りを打つ。
ほんの一瞬、昨晩の出来事が全て夢だったのでは無いかと錯覚する。出来れば夢落ちであって欲しかったが、悲しい哉現実は変わらない。
深く息を吐き、ベッドから身体を起こした。
「――あら、おはようセドリック。起きていたのね」
自身より早く目を覚ましていたらしいエルが、キッチンから顔を出した。そして普段通りの柔らかな笑みを浮かべながら、ベッドへ歩み寄ってくる。
その笑顔を見ていると、彼女は今日も変わらず自身の傍に居るのだと実感でき安堵感で満たされた。
水をの入ったグラスを片手に持った彼女が、徐にベッドに腰掛けた。脈打つ様に痛む頭を押さえ、隣の彼女の肩に額を乗せる。
「……頭いてぇ」
「お酒の飲みすぎよ。あれだけ飲めば、体調を崩すのは当然」
呆れた様に溜息を吐いた彼女が、温かな手で俺の頬を撫でた。
「幾らお酒に強くても、摂りすぎは毒になるから程々にね」
「……そんな飲んでた?」
「覚えていないの?」
自身の記憶では、翌日に響く程飲んだ覚えは無い。
しかし、遠目に見えるテーブルの上には、スコッチの空き瓶と1人分のグラスが無造作に置かれていた。瓶の半分程は入っていた筈だが、それを全て飲み切ってしまったのならこの不調も納得できる。
「そこまで飲むつもりじゃなかったんだが……」
僅かに枯れた声に不快感を抱きながらも、再び彼女の肩に顔を埋め嘆く様に呟いた。
「お酒の事はもういいわ。そんな事より今日の水、少し変なの」
「水?」
彼女から差し出されたグラスに注がれた水は、見る限り普段通りの水道水だ。受け取ったグラスの水を光に透かして見ても、濁りや遺物等の異変は見当たらない。ニオイにも問題は無さそうだ。
彼女の視線を感じながら、躊躇いながらも水を口に含む。
「上手く言葉に出来ないのだけど……、貴方は何も感じない?」
舌に感じる、水の味。それは何の変哲もない、普段通りの味だ。
「……特に、何も」
味覚音痴という訳でも無いだろうが、細かい味の変化には気付きにくい方だ。普段、マーシャが紅茶の銘柄を変えたと言っていても味の違いが良く分からない。それと、同じような物なのだろうか。
エルは元の家柄の事もあり、味の変化には敏感なのだろう。
なんとなく飲むのが憚られる水をナイトテーブルに置き、重い腰を上げた。ハンガーに掛けられた、僅かに石鹸の香りがするシャツに袖を通す。
「エル? どうした」
ベッドに座ったまま、なにやら考え込む顔をしている彼女に声を掛けると、その肩がびくりと小さく震えた。
「今日は体調が優れなくって……、もしかしたらその所為かもしれないわね」
普段なら忙しなく家事に勤しむ彼女だが、今日はベッドに腰を掛けたまま。頬はやや赤く、その顔には心成しか疲労感が滲んでいる様にも見えた。
片手でシャツのボタンを留めながら、彼女の額、頬、そして首筋に掌を触れさせる。
「……少し、熱いな」
掌に広がる彼女の熱は、普段より少し高い。
ここ数日は特に冷え込んでいて、夜間にでも身体を冷やしてしまったのかもしれない。充分に暖かくしているつもりだったが、女性の身体は冷えやすいと聞く。
確か、チェストの奥に使っていないブランケットがもう一枚あった筈だ。それを、今晩にでも出してやるべきだろうか。
「風邪かもな。今日は1日、家で大人しく寝てろ」
ベッドの中に彼女を押し込み、額にキスを落とした。
体調も勿論心配ではあるが、どんな理由であれ彼女を1日家に閉じ込めておける口実が出来た事に安堵する。
しかし残念な事に、自身はその幸福感を味わう事は出来ない。船酔いの様な眩暈と酷い頭痛に、顔を歪めベッドの上でゆっくりと寝返りを打つ。
ほんの一瞬、昨晩の出来事が全て夢だったのでは無いかと錯覚する。出来れば夢落ちであって欲しかったが、悲しい哉現実は変わらない。
深く息を吐き、ベッドから身体を起こした。
「――あら、おはようセドリック。起きていたのね」
自身より早く目を覚ましていたらしいエルが、キッチンから顔を出した。そして普段通りの柔らかな笑みを浮かべながら、ベッドへ歩み寄ってくる。
その笑顔を見ていると、彼女は今日も変わらず自身の傍に居るのだと実感でき安堵感で満たされた。
水をの入ったグラスを片手に持った彼女が、徐にベッドに腰掛けた。脈打つ様に痛む頭を押さえ、隣の彼女の肩に額を乗せる。
「……頭いてぇ」
「お酒の飲みすぎよ。あれだけ飲めば、体調を崩すのは当然」
呆れた様に溜息を吐いた彼女が、温かな手で俺の頬を撫でた。
「幾らお酒に強くても、摂りすぎは毒になるから程々にね」
「……そんな飲んでた?」
「覚えていないの?」
自身の記憶では、翌日に響く程飲んだ覚えは無い。
しかし、遠目に見えるテーブルの上には、スコッチの空き瓶と1人分のグラスが無造作に置かれていた。瓶の半分程は入っていた筈だが、それを全て飲み切ってしまったのならこの不調も納得できる。
「そこまで飲むつもりじゃなかったんだが……」
僅かに枯れた声に不快感を抱きながらも、再び彼女の肩に顔を埋め嘆く様に呟いた。
「お酒の事はもういいわ。そんな事より今日の水、少し変なの」
「水?」
彼女から差し出されたグラスに注がれた水は、見る限り普段通りの水道水だ。受け取ったグラスの水を光に透かして見ても、濁りや遺物等の異変は見当たらない。ニオイにも問題は無さそうだ。
彼女の視線を感じながら、躊躇いながらも水を口に含む。
「上手く言葉に出来ないのだけど……、貴方は何も感じない?」
舌に感じる、水の味。それは何の変哲もない、普段通りの味だ。
「……特に、何も」
味覚音痴という訳でも無いだろうが、細かい味の変化には気付きにくい方だ。普段、マーシャが紅茶の銘柄を変えたと言っていても味の違いが良く分からない。それと、同じような物なのだろうか。
エルは元の家柄の事もあり、味の変化には敏感なのだろう。
なんとなく飲むのが憚られる水をナイトテーブルに置き、重い腰を上げた。ハンガーに掛けられた、僅かに石鹸の香りがするシャツに袖を通す。
「エル? どうした」
ベッドに座ったまま、なにやら考え込む顔をしている彼女に声を掛けると、その肩がびくりと小さく震えた。
「今日は体調が優れなくって……、もしかしたらその所為かもしれないわね」
普段なら忙しなく家事に勤しむ彼女だが、今日はベッドに腰を掛けたまま。頬はやや赤く、その顔には心成しか疲労感が滲んでいる様にも見えた。
片手でシャツのボタンを留めながら、彼女の額、頬、そして首筋に掌を触れさせる。
「……少し、熱いな」
掌に広がる彼女の熱は、普段より少し高い。
ここ数日は特に冷え込んでいて、夜間にでも身体を冷やしてしまったのかもしれない。充分に暖かくしているつもりだったが、女性の身体は冷えやすいと聞く。
確か、チェストの奥に使っていないブランケットがもう一枚あった筈だ。それを、今晩にでも出してやるべきだろうか。
「風邪かもな。今日は1日、家で大人しく寝てろ」
ベッドの中に彼女を押し込み、額にキスを落とした。
体調も勿論心配ではあるが、どんな理由であれ彼女を1日家に閉じ込めておける口実が出来た事に安堵する。
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