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VIII 令嬢の行方-II
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しかし、良い情報が引き出せたのでは無いだろうか。
昨日のパーティーで、エインズワース家の当主――エルの父親はパーティーに興じていた。普通、娘が行方不明となっている中パーティーに出席するだろうか。“特に機嫌が良かった”、という彼の言葉も気になる所だ。
それに、新聞を片っ端から取り寄せて目を通しているが、エインズワース家の名と令嬢の失踪、誘拐などといった記事は何処にも掲載されていなかった。
もしや、エルは自身の両親から捜索をされていないのだろうか。
だとしたら、新聞に載らない事も父親がパーティーに興じていた事も納得できる。
悶々と考えこむ自身を見て何か思う事でもあったのか、彼が再び笑みを漏らした。
「余程エインズワース家の御令嬢が気になるのですね。御令嬢の件で何か分かった事があったら、また此処にお伝えしに来ましょうか?」
気遣う様でいて、何処か棘のある言葉。顔を上げ彼の顔に視線を向けると、そこには嘲笑にも似た笑みがあった。
やはり、どれだけ気さくな男であろうと彼は貴族だ。その表情は、“お前みたいな男が貴族の令嬢と縁がある訳が無いだろう”とでも言いたげである。
「いえ、結構」
短い言葉で返答をし、ソファから腰を上げる。そして客室の扉を開けた。
「今回のお取引は非常にスムーズで此方も助かりました。また機会があれば」
開いた扉の隣に立ち、退室を促す。
貴族など、信用してはならない。況して相手は取引の依頼者だ。エインズワース家の事を上手く探れるかとも思ったが、依頼者相手に探るのは宜しくない。
「あぁ、また是非」
彼が此方の意図を察したのか、ソファから徐に腰を上げた。そして礼儀正しくも一礼をし、開いた扉を抜け客室を去っていく。
最後自身に向けた、挑発的な笑み。模範的な依頼者だと思った自身が馬鹿だった様だ。ホールに居る彼に気付かれぬ様舌打ちを漏らし、自身も客室を後にした。
「では、私は失礼します」
玄関扉の前、再び一礼した彼が屋敷を去っていった。
そして丁度入れ違いで戻ってきたのは、片手に茶の紙袋を下げたマーシャ。先程の依頼者と擦れ違ったのだろう。戻ってくるなり、「今の人何?」と自身に詰め寄る。
「何、って……、今回の取引の依頼者だが」
「なんかあの人、如何にも貴族って感じ。善人ぶってるけどすっごい腹黒そう」
「……そうなのか」
「確信を得てる訳では無いけど。伝わってくる音が気持ち悪くてあの人好きになれないわ」
大きな溜息を吐き、マーシャが身を投げる様にソファに腰掛けた。その拍子に、彼女の手に持たれていた紙袋の中からがちゃりと嫌な音が鳴る。
「それ、大丈夫なのか」
何処へ行っていたのか、ソファにだらしなく座るマーシャはやけに疲れた顔をしていた。そんな彼女になんと無しに声を掛けると、彼女が徐に顔を此方に向ける。
昨日のパーティーで、エインズワース家の当主――エルの父親はパーティーに興じていた。普通、娘が行方不明となっている中パーティーに出席するだろうか。“特に機嫌が良かった”、という彼の言葉も気になる所だ。
それに、新聞を片っ端から取り寄せて目を通しているが、エインズワース家の名と令嬢の失踪、誘拐などといった記事は何処にも掲載されていなかった。
もしや、エルは自身の両親から捜索をされていないのだろうか。
だとしたら、新聞に載らない事も父親がパーティーに興じていた事も納得できる。
悶々と考えこむ自身を見て何か思う事でもあったのか、彼が再び笑みを漏らした。
「余程エインズワース家の御令嬢が気になるのですね。御令嬢の件で何か分かった事があったら、また此処にお伝えしに来ましょうか?」
気遣う様でいて、何処か棘のある言葉。顔を上げ彼の顔に視線を向けると、そこには嘲笑にも似た笑みがあった。
やはり、どれだけ気さくな男であろうと彼は貴族だ。その表情は、“お前みたいな男が貴族の令嬢と縁がある訳が無いだろう”とでも言いたげである。
「いえ、結構」
短い言葉で返答をし、ソファから腰を上げる。そして客室の扉を開けた。
「今回のお取引は非常にスムーズで此方も助かりました。また機会があれば」
開いた扉の隣に立ち、退室を促す。
貴族など、信用してはならない。況して相手は取引の依頼者だ。エインズワース家の事を上手く探れるかとも思ったが、依頼者相手に探るのは宜しくない。
「あぁ、また是非」
彼が此方の意図を察したのか、ソファから徐に腰を上げた。そして礼儀正しくも一礼をし、開いた扉を抜け客室を去っていく。
最後自身に向けた、挑発的な笑み。模範的な依頼者だと思った自身が馬鹿だった様だ。ホールに居る彼に気付かれぬ様舌打ちを漏らし、自身も客室を後にした。
「では、私は失礼します」
玄関扉の前、再び一礼した彼が屋敷を去っていった。
そして丁度入れ違いで戻ってきたのは、片手に茶の紙袋を下げたマーシャ。先程の依頼者と擦れ違ったのだろう。戻ってくるなり、「今の人何?」と自身に詰め寄る。
「何、って……、今回の取引の依頼者だが」
「なんかあの人、如何にも貴族って感じ。善人ぶってるけどすっごい腹黒そう」
「……そうなのか」
「確信を得てる訳では無いけど。伝わってくる音が気持ち悪くてあの人好きになれないわ」
大きな溜息を吐き、マーシャが身を投げる様にソファに腰掛けた。その拍子に、彼女の手に持たれていた紙袋の中からがちゃりと嫌な音が鳴る。
「それ、大丈夫なのか」
何処へ行っていたのか、ソファにだらしなく座るマーシャはやけに疲れた顔をしていた。そんな彼女になんと無しに声を掛けると、彼女が徐に顔を此方に向ける。
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