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VII 食事-IV
しおりを挟む――それから約十数分。
彼女の料理の腕は確かだった様で、部屋中にはスープの良い香りが漂っている。
「屋敷で習った料理だから、味は悪くないと思うのだけど……」
出来立てのスープを皿によそいながら、彼女がぽつりと不安気に呟く。
「……匂いは、悪くないな」
「そう? それは良かった」
彼女に促されるまま席に着くと、自身の目の前にスープがよそわれた皿が置かれた。
見た目は、いつか依頼者の家に招かれた際に出されたスープと似ている。彼女が先程言った、“屋敷で習った料理”というのに嘘は無い様だ。
彼女が自身と向かい合う様に席に座り、ふと小さく息を吐いた。彼女が不安気な表情を、その顔に浮かべる。
「お口に合うかしら」
匂いも良く、見た目も良いスープだ。これで味が悪い、なんて事は考えられない。
皿の隣に置かれたスプーンを手に取り、スープをそっと掬い口に含んだ。
スープはトマトベースで、野菜は全てダイス状にカットされている。口に含みやすく、その大きさも丁度良い。そして味付けはシンプルなもので、それぞれの野菜の、素材の味がとても活きているスープだ。
「――美味い」
その一言では表現しきれない程、このスープは非常に出来が良い。
今迄、食事と言えば全て外食だった。昨晩のサンドイッチの様に手で食べられるものばかりで、全て外で歩きながら食べる、もしくは職場のホールで食べる程度でしか無かった。こんな風に、温かな料理を口にしたのはいつ振りだろうか。
スープを再び掬い、もう一度、口に含む。
「お口に合って良かったわ」
ほっとした様に彼女が笑い、柔らかく告げた。
そして自身に続く様に、彼女がスープを口に含む。
「正直、料理が出来るなんて信じてなかった。見栄、じゃないかとも思ってた」
「信じて貰えていない事位分かっていたわ」
ふふ、と彼女が笑う。
「こうして家で食事をするのも悪くないな。――また明日、必要な食材を紙に書いておいてくれ」
「!」
これ程料理が上手いのなら、料理を作らねば勿体ない。屋敷で教わった料理とやらも、忘れてしまえば意味が無いだろう。
決して、彼女の手料理を明日も食べたいと思った訳では無い。無い、筈だ。
そう自身に言い聞かせ、スープを口に含んだ。
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