DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

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V 幼馴染-V

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「もうあんたの好みとか良く分かんないから、この中から好きな服持って行って」

 マーシャが両手一杯に抱えたドレスを、埃塗れの床の上に放り投げた。その拍子に、大量の埃が部屋に舞う。
 
「別に、俺の好みって訳じゃない」

 シャツの袖で口元を覆い、床に投げられたドレスを一枚摘まみ上げた。
 昨晩エルが身に着けていたドレスと質感は違うものの、どれもオフホワイトやクリームなどを基調にした物だ。これなら彼女にも似合うだろう。

「ねぇ見て、このドレスセディみたい」

 マーシャが奥から引っ張り出してきた服を、掲げる様に広げて見せた。赤と黒と基調とした、セパレート風のドレスだ。確かに、自身の髪と瞳の色に似た色だと感想を抱く。
 色素が薄く、天使の様な彼女が、自身と同じ色のドレスを身に着ける。それはまるで自身の色に彼女が染まる様で、僅かに鼓動が早くなるのを感じた。
 暫し悩んだ結果、マーシャの手からそのドレスをひったくる。

「へぇ、それ持ってくんだ」

 揶揄う様に、マーシャがにやにやと笑う。

「白ばかりだとつまらないだろ。他意は無い」

 彼女の事だ。きっと自身の中にある“他意”に気付いているのだろう。しかし彼女はそれ以上何も言う事は無かった。



「――今回の件、他言はしないでね」

「分かってる。お前も、売った相手聞かれても答えるなよ」 
 
 代金を支払い、紙袋に詰められた服をマーシャから受け取った。
 彼女が担当する取引は原則、依頼者同士が顔を合わせその場で希望額や要望等の交渉をする。
 マーシャの様に依頼者から商品を預かる者も居るが、ブローカーはあくまで依頼者同士を引き合わせるための存在。本来、今回俺は依頼者と直接顔を合わせなくてはならないのだが、あまり闇雲に身分を晒せない事だけでなくエルの事もある為、マーシャに適当な理由をつけて誤魔化してもらう事にした。
 彼女の仕事部屋を後にし、階段へと向かう。
 そこでふと、背後から足音が聞こえ振り返った。

「なんで付いてくるんだ」

 まるで当たり前の様な顔をして、俺の後を付いてくるマーシャの額を勢い良く指で弾く。

「いった……! なにすんの! だって今から家に戻るんでしょ? 私もその子に会いたい」 

「お前は来なくていい。……というか、来るな」

「なんでよ。セディが入れ込んだ女なんて初めてだから、ちゃんと見ておかないと! 幼馴染として!」

「ただの腐れ縁だろ……。本当に付いてくるな」

「だからなんで! いいじゃんちょっとくらい!」

 歩く速度を上げると、背後のマーシャも歩く速度を上げる。何を言っても意地でも付いてくる様だ。
 マーシャは少々口が軽く、人の気も知らず何でも安易に口にする。俺の事も、マーシャの事も、この仕事の事も、全て軽率に話してしまいそうだ。
 しかし何を言っても付いてくるつもりなら、家に戻る前にマーシャには色々と口止めをしておく必要がある。
 階段を降り、再び足を止めた。

「――余計な事は言うな」

 ポケットから取り出したコインを、背後の彼女に投げ渡す。

「口止め料で1シリングね、少ない様な気もするけど」

「うるせぇ、だったらついてくんな」

「冗談だってば」

 気持ちが悪い程に、今のマーシャは上機嫌だ。
 そんな彼女を尻目に、職場と称した古い屋敷を出た。
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