DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

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IV 元舞台女優の依頼者-I

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 明るくなった空に、早朝を知らせる鳥の鳴き声。
 あの後、確かに眠る努力はした。よく耳にする、“眠る方法”なんて物も試してみた。しかし結局、努力虚しく一睡もする事が出来ず朝を迎えてしまった。
 寝不足故に働かぬ頭で、自分は一体何をしているのだと自問する。だがその答えは見つかる事無く、また繰り返す問いが脳内を回り始める。

 ゆっくりと身体を起こし、自身の隣で眠るエルに視線を向けた。まるで幼い子供の様な顔で眠る愛らしいその姿に、ほんの一瞬、脳内を回る思考が止まる。

 いつまでも、自身の事やこの先の事を考えていたって仕方が無い。とりまず今は、目先にあるものを一つ一つ片付けていくべきだ。
 彼女を起こさぬ様ゆっくりとベッドから降り、背を反らし痛む身体を伸ばす。

 床に散らばったドレスと下着。そして、ベッドに眠る裸の女。誰が見ても、十中八九誤解される光景だ。「貸せる服が無かった」なんて言い訳も、とても通用するとは思えない。
 そんな事にならない為にも、今は一刻も早く彼女の服をマーシャに用意させる必要があった。 
 壁時計が指すのは6時30分。寝る時間も遅く、起きる時間も遅いマーシャは未だ書斎のソファで眠っているだろうが、叩き起こしても非常識にあたる時間では無い筈だ。
 触れて良い物かと躊躇いながらも散らばったドレスと下着を拾い集め、足早に脱衣所へと向かった。

 ◇ ◇ ◇

 家から徒歩10分程の場所にある職場は、街から少し外れた場所にある。
 蔦が伸びた外壁に荒れ果てた庭。曇った窓ガラスの先のカーテンは全て閉め切られていて、一見廃墟の様だ。
 だがそれは、裏側の世界に生きる自分達を隠す“装飾”である。

 衣類や装飾品を請け負うマーシャはともあれ、法に触れる寸前の合法的な取引を主に担当している自分はあまり公に商売をする事は出来ない。
 その白とも黒とも言い難い取引というのは、一口に言ってしまえば人身売買だ。
 業務内容は、特別な事も無ければ難しい訳でも無い。至ってシンプルなものだ。様々な理由で子供を手放したい人物と、養子を迎え入れたい家庭両者から依頼を受け、その中で条件が一致した依頼者同士を引き合わせる。そして、取引内で支払われた額の3割を、自分が報酬として貰う。たったそれだけだ。

 だがこの国では人身売買は基本禁止されており、その中でも子供の誘拐や奴隷として売り渡す行為は犯罪として扱われる。取引に関与した貴族が“これは慈善活動だ”と主張しているが故に仕事として成り立っているだけで、本来なら警察から厳重注意を受けてもおかしくない業務だ。
 当然、警察や孤児院等の子供を保護する団体からは常に目を付けられていて、何か事件でも起ころうものなら真っ先に自分が疑われる現状である。

 そんな“普通じゃない”自分が、まだ若い女性を上手く匿う事が出来るのだろうか。昨晩からの拭いきれない不安に苛まれながら、ポケットからキーリングを取り出した。自宅の鍵よりも少し短い金属の鍵を、ペンキが剥がれかかった扉の鍵穴に差し込む。

 マーシャを叩き起こすのは良いものの、一体何処から話し始めれば良いのだろう。マーシャならきっと、難しい説明などしなくとも状況を理解してくれるだろうが、昨晩の出来事を言葉にするのは困難だ。
 それに、話し相手がマーシャだという事も不安要素の1つである。自身の想定が現実にならない様祈りながら、一度深く息を吐き職場の扉を強めに開いた。
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