DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

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III 回り続ける問い-V

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 現時刻は22時半。ベッドに入る事を急ぐ時間では無いが、何よりも睡眠を好んでいる自身にとっては十分眠気を感じる時間だ。
 身体の疲労を感じながらも手探りで燭台を見つけ出し、擦ったマッチの火を蝋に移す。部屋を灯すオレンジの光に、玄関近くの壁に凭れ掛かっていた彼女が目を細めた。

 普通なら、どれだけ気を引かれる相手だったとしても初対面の女性を家に置こうとなんてしないだろう。親しく信頼出来る相手でも、一度は抵抗感を抱くのものだ。
 況しては自分は女性嫌いであり、人との交流も得意としない。そんな自分が何故、後先も考えず彼女を連れて帰ってきてしまったのだろうか。ぽつぽつと浮かび上がる疑問に、頭を捻る。

 だがどれだけそれに疑問を抱いても、不思議と彼女を屋敷から連れ出した事に後悔は無かった。
 先の見えない不安感の中に、「彼女は決して悪い人間では無い故に、これからの事はどうにかなるだろう」なんて自分らしくない楽観的な思考が滲む。
  
 脱いだジャケットとウェストコートをチェストの上に放り投げ、硬いベッドに腰を下ろした。片手でネクタイを緩めながら、未だ玄関付近の壁に1人凭れ掛かっている彼女に視線を向ける。 

「――いつまでそこに居るつもりだ」

 彼女にそう声を掛けると、その小さな肩が驚いた様にびくりと揺れた。少々動揺しながらも、いそいそと覚束ない足取りで此方へ歩み寄ってくる。
 ――だが、何か気掛かりな事でもあるのかその足は直ぐに止まってしまった。

「……あの」

 神妙な面持ちをした彼女が、控えめな声を上げた。
 彼女の視線の先にあるのは自身で無く、自身が椅子替わりにしているシングルベッド。彼女が僅かに思い悩む素振りを見せ、怖ず怖ずとその口を開く。

「――私と貴方は、今晩何処で眠るの……?」

 思い掛けない彼女の問いに、ぴたりと思考が止まる。
 その質問の趣旨が理解出来ないのは、自身の頭が睡眠欲で埋め尽くされているからなのか、それともそれ自体が不可解なものなのか。

「此処にベッドがあるんだから、此処しか無いだろ」

 疑問に思いながらも、座っていたベッドを示す様に叩く。
 1人用として作られたシングルベッドに、2人で眠るには少々無理があるだろう。だが彼女も自身も細身な体型の為、多少窮屈でも眠る事は出来る筈だ。
 あれ程謙虚だった彼女が、ここに来て突然ベッドが狭いだなんて我儘を言うとは到底思えない。顔を赤くしたり青くしたりと忙しない彼女を眺めながら、深く思考を巡らせる。
 しかしどれだけ頭を捻っても瞼が重くなるばかりで、その答えの憶測すら立ちそうに無かった。
 着々と23時に近づいていく時計を尻目に、ごろりとベッドに横たわる。

「何が気に入らないのか知らねぇけど、不満なら明日にしてくれ」
 
 彼女に背を向ける様に寝返りを打ち、溜息交じりに呟いた。

「不満なんかじゃないわ……。そうではなくて……」

 背後の彼女が、困り果てた声音で嘆く。だがその声は次第に小さくなり、最後まで述べられる前に止まってしまった。
 どれだけ不満があろうと、このまま眠らない訳にはいかない。放っておけばいずれ彼女も諦めるだろうと、足元の布団を手繰り寄せ重い瞼を閉じた。

 睡眠に、寝床の広さや大きさは関係ない。眠っている間は意識が無く、ベッドが広いか狭いかなど判別出来ないのだから。
 それに、床やソファ等の寝心地の悪い場所ならまだしも、此処は寝具であるベッドの上だ。贅沢な暮らしをしていた彼女にとってはこのベッドも床やソファと同等かもしれないが、それでも寝具である事には変わりない。
 彼女も全てを捨てる選択をしたのなら、多少ベッドが窮屈でも致し方ないと受け入れるべきだろう。
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