DachuRa 4th story -冷刻という名の、稀有なる真実-

白城 由紀菜

文字の大きさ
上 下
50 / 52
XIV 趣味

III

しおりを挟む
「――撞球室ビリヤード・ルームは男性だけの空間。ご婦人方の就寝後、男性方が集い、球を突きながら煙草や雑談を楽しむのです」

 アイリーンの言葉に、ふと意識が引き戻される。
 確かに彼女の言う通り、本の中の世界でも撞球ビリヤードは男性の嗜みとされていた。余程の事が無い限り――それこそ興味を持った女性たちが深夜に寝室を抜け出し、撞球室ビリヤード・ルームに忍び込むなど――女性がそれに触れる事は無い。

「――ですが、ご婦人方の立ち入りを禁止している場では御座いません。勿論、ご婦人方が球を突くとなると話が変わってはきますが、此処に飾られている肖像画を鑑賞する、程度であればわざわざ許可を得なくとも可能でしょう」

 レイがぱっと顔を上げ、アイリーンを見遣る。その言葉に対して何かを返す事は無かったが、レイは暫くアイリーンの顔を見つめたのち、再び肖像画に視線を移した。
 レイの気持ちを、慮ってくれたのだろうか。そんな事を思うも、アイリーンは相変わらずの冷え冷えとした声で「次は書斎ライブラリーとなります」と言って、私たちに一瞥もくれず扉の方へ向かった。

 私が最も期待していた書斎ライブラリーは、音楽室の隣に存在した。
 書斎ライブラリーとは、書物を保管する為だけでなく、読書や書き物をする為にも使われる部屋だ。音楽室の隣に選ぶべき部屋ではない。
 随分と、不思議な間取りをしている。幾ら壁が分厚いとはいえ、完全なる防音では無いのは確かだ。読書をしている最中に楽器の音が聴こえてきたら煩わしいだろう。
 そんな疑問を思わず零すと、アイリーンが透かさずその理由を教えてくれた。
 曰く、元々2階の最奥部にある撞球室ビリヤード・ルーム書斎ライブラリーだったそうだ。だが殊の外書物が増えてしまい、現撞球室ビリヤード・ルームよりも広い音楽室の隣を書斎ライブラリーとしたのだとか。
 幾ら同じフロアだろうと、部屋を丸ごと入れ替えるのは骨が折れる作業であろう。人員の確保にも、相当苦労したに違いない。
 部屋を入れ替える為にわざわざ人を雇ったのか、それともこの屋敷の使用人が総出でおこなったのかは分からないが、考えるだけでなんだか胃が痛くなってくる。

「――書斎ライブラリーに置かれている書物は、持ち出しに至っては特別禁止されておりませんので、お部屋で読まれることも可能です」

 アイリーンが書斎ライブラリーの扉を大きく開き、私たちに中へ入る様にと促した。
 その瞬間見えた、壁一面に並ぶハードカバーの背表紙。書物は貸本屋を遥かに上回る量で、よく見てみれば部屋を一周ぐるりと囲む様に中二階メザニンが存在し、そこにも書架が隙間なく並べられていた。

「わ、すごい……」

 アイリーンの横をすり抜け、並ぶ書架に駆け寄る。部屋にはソファやテーブルも置かれており、非常に居心地の良さそうな空間となっていた。こんな場所が家にあるだなんて、悔しいがとても羨ましく思ってしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

私と先輩のキス日和

壽倉雅
恋愛
出版社で小説担当の編集者をしている山辺梢は、恋愛小説家・三田村理絵の担当を新たにすることになった。公に顔出しをしていないため理絵の顔を知らない梢は、マンション兼事務所となっている理絵のもとを訪れるが、理絵を見た途端に梢は唖然とする。理絵の正体は、10年前に梢のファーストキスの相手であった高校の先輩・村田笑理だったのだ。笑理との10年ぶりの再会により、二人の関係は濃密なものになっていく。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...