DachuRa 4th story -冷刻という名の、稀有なる真実-

白城 由紀菜

文字の大きさ
上 下
42 / 52
XII 窮屈なアフタヌーンティー

I

しおりを挟む
「――……」

 私たちに与えられた部屋の窓際。四層になったカーテンは全て開かれ、派手な装飾が施された部屋は陽の光に照らされて艶めいて見えるほどに明るい。
 薄く開かれた窓からは柔らかな風が流れ込み、金の絹糸きぬいとで編まれたタッセルで留められた重厚なカーテンがゆらゆらと揺れていた。
 私たちが着いているのは、朝には無かった筈の丸テーブル。屋敷案内をして貰っている間に、誰かが運び入れたのだろう。
 丸テーブルには、白糸刺繍ホワイトワークが施されたリネンのテーブルクロスが掛けられている。クロスの裾を一周ぐるりと囲む様に編まれた薔薇のクロッシェレースが印象的で可愛らしい。
 そしてその上には、シルバープレート製の三段ケーキスタンドが中心に置かれ――どの段にも三人分はあるのではないかと思う程に所狭しと軽食が乗せられている――周りにティーポットとミルクピッチャーなどのティーセットが散りばめる様に並べられていた。仕上げに私たちの目の前には、美しい赤茶色の紅茶が注がれた、これ以上ない程の意匠が凝らされたティーカップが置かれている。
 私たちに与えられたアフタヌーンティーは、一周回って興醒めしてしまうぐらいに豪華だ。何処から手を付ければ良いかが分からないセッティングを前にして、私とレイは顔を見合わせた。

「最悪」

 レイが溜息交じりに呟く。
 彼女のその言葉は、今この状況に最も適していると言えるだろう。心の底から思う。最悪だ。何事にも、程度というものがある。
 贅沢や豪華なものというのは、度を超すと窮屈に感じてしまうものだ。きわめて、生まれた時からこの生活を送っている人間からすれば逆にこの豪華さが安心に繋がるのだろうが。
 それに、部屋の扉の前にはアイリーンが門番の如く控えていた。アイリーンとはこの屋敷に連れて来られてから基本の行動を共にしている為、他の使用人よりかは慣れていると言えるのだが、それでもまだ信頼をしている訳では無い。
 故にアイリーンの前で不満を漏らせる筈が無く――連れて来られた当初は家に帰りたい云々と訴えていたが――果せる哉私たちの本音を聞かせる事は出来なかった。
 私たちの居る窓際から扉まではだいぶ距離が離れているが、会話を聞かれない保証はない。つまり私たちに与えられたこのティータイムは、束の間の休息にすらならないという事だ。
 溜息をつき、純銀製のシュガーポットに手を伸ばす。シュガーポットに反射した自身の顔は随分と間抜けに見えて、やや苛立ちながらも乱暴に蓋を開けた。そしてテーブルに置かれていたシュガートングを使い、一個、二個、三個と躊躇いなく紅茶に砂糖の塊を入れていく。

「…………そんな湯水の様に砂糖使うの、ルイと女王陛下だけだよ」

 ぽつりと呟く様に言った声に棘は無いが、嫌味にも捉えられるレイの言葉に「砂糖は最高級品だとでも言いたいの?」と問う。

「いや、そうじゃなくて。見ているだけで、胸焼けするっていうか」

「随分と今更ね。家でも同じだけ砂糖を使っていたじゃない」

「……」

 言葉が見つからなかったのか、将又呆れているのか、レイが口を噤む。
 砂糖が高級品だという事は私たちにも分かる事だが、何故だか家では砂糖に困る事が殆ど無かった。恐らく父が用意していたのだろうが、どうやって用意していたのかと考えるのは今すべき事では無い。
 口を尖らせているレイを他所にミルクピッチャーを引っ掴み、ティーカップの縁ギリギリまでミルクを注ぎ入れた。美しい赤茶色の紅茶が一瞬にして濁る。
 柄から柄尻にかけてが一輪の薔薇の様に装飾されているティースプーンでカップの中をぐるぐると掻き混ぜ、再び溜息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

処理中です...