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II 奪われる

V

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 ドンドン、とドアノッカーを叩く音が家中に響き渡る。その力は強く、ドアノッカーを叩くと言うよりも扉を殴りつけているかの様だった。その音を聞いて、漸くレイの顔に恐怖の色が浮かんだ。
 ――まさか、本当に現実になるなんて。
 恐怖を感じるよりも先に、そんな事が頭に浮かんだ。不思議なもので、嫌な予感ほど、よく当たるのである。

「……レイ、声を出さないで。なるべく気配を消して、お願い」

 彼女の耳にそっと囁き掛け、その小さな肩をさする。レイが小さく頷いたのを確認したのち、玄関扉の方へ目を遣った。
 扉の外から、話し声が聞こえる。全て、男の声だった。
 しかし此処からでは遠く、何を話しているかまでは聞き取る事が出来ない。
 暫くすると、再びドアノッカーが乱暴に叩かれた。
 2人か、3人か、あるいはそれ以上か。その気配からするにあまり多くは無いだろうが、仮に相手が1人だったとしても太刀打ち出来る訳では無い。最早何人居ても同じである。
 しかし、此処は住宅街の中心だ。人は疎らではあるが、良くも悪くも目立つ。そんな場所で、民家の家に押し入る、なんて事をするだろうか。派手に動けば、強盗だと疑われて周囲の人間が警察を呼ぶ可能性だって十分にあり得る。
 ――と、思ったのも束の間。突如、ガツンと金属が叩き付けられる様な音が響いた。それが何の音かが瞬時に理解出来ず、レイと共に扉を見つめたまま固まってしまう。
 やにわに、ガツンと二度目の音が響いた。それに伴って扉のドアノブが揺れた為、漸く、ハンマーか何かでドアノブを叩き壊されている音だと気付いた。

「……逃げなきゃ」

 隣のレイが、その声に緊張感を滲ませ呟く。
 彼女の言う通り、逃げる、もしくは何処かに隠れるべきだ。
 彼等の目的は何か。金目当ての強盗ならば、気付かれなければ身に危険は及ばない。しかし、子供――私やレイが目当てだったのなら? 徹底的に探して、見つけ出すだろう。隠れたところで、意味は無い。
 それに身を隠せる様な場所など、この家には絶望的なまでに存在しなかった。
 そんな事を考えているうちに三度目の音が響き、ドアノブが一気に緩むのが目に入った。このままでは危険だ。
 咄嗟に勉強用ノートの余白を破り、その切れ端とペンを片手に、レイの手を引いて二階に繋がる階段を駆け上った。それとほぼ同時に、ガタンと大きな音を立てて、扉が蹴破られる。
 男が家の中に入ってくる気配を感じながらもなんとか二階の自室に閉じ籠り、レイと身を寄せ合いながらベッドの前に座り込んだ。
 プランは何もない。気付かれるのも時間の問題だ。
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