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LVIII エピローグ-II
しおりを挟む鈍い音を立てて、馬車が止まる。
どうやら目的地へ到着した様だ。彼に手を引かれるまま、馬車を降りる。
目の前に聳え立つのは、美しく大きな、聖グロリアスガーディアン教会。森の奥で見たあの廃教会とは似ても似つかない、とても整った外見だ。
ステンドグラスが埋め込まれた美しい扉をゆっくりと開き、背後に彼の気配を感じながら礼拝堂に足を踏み入れる。
「――アンドールさん、おはようございます。来てくれて嬉しいわ」
祭壇の元に立っていたシスターが、私達に気付き顔を綻ばせた。彼女こそが、ライリーの友人であるシスターセシリアだ。
セドリックと共に祭壇の元へ歩み寄り、優しい笑顔を浮かべる彼女と顔を合わせた。
「改めて、私が此処のシスター、セシリア・アンブリッジです」
「――よろしく、お願いします」
優しく笑う彼女――セシリアに深々と頭を下げる。
「ライリーから、話は聞いていますよ。辛い思いをしたのに、此方の頼みを受けてくださってありがとうございます」
「――いえ、此方こそ……、ご迷惑をお掛けすると思いますが……」
「そんな硬い事仰らないで。大丈夫よ。実際、心に傷を抱えた子達は少なくないけれど、それでも皆根は良い子達なの。だからきっと、直ぐに馴染めますわ」
セシリアが優しく、私の肩に手を置いた。
シスターというだけあり、彼女はとても優しい人だ。話しているだけで心が洗われる様な気さえしてくる。
新しい環境に不安はあるが、彼女が居れば大丈夫。今はそう思う事が出来た。
挨拶を済ませ、改めて礼拝堂を見渡す。椅子も均等に並べられ、祭壇には埃一つ見当たらない。澄んだ空気が肺を満たして、呼吸を繰り返すだけで気持ちが晴れていく様な気がした。
自身が歩いてきた身廊をなぞる様に眺めて、再びセシリアに視線を戻す。すると彼が柔らかい微笑みを見せてくれた。そんな彼女にぎこちなくも笑顔を返すと、突如背後から礼拝堂の扉を開く音が聞こえた。
礼拝者だろうか。そんな事を思いながら、音に釣られる様に振り返る。
「――!」
開いた扉の前に立っていたのは、杖を突いた老人。皺の多い顔に、宝石の様な瞳が印象的な男性だ。
その顔には、覚えがあった。
「――バートンさん!おはようございます」
セシリアが顔を綻ばせ、その男性の元へ駆けていった。それに釣られ、まるで吸い寄せられる様にその男性に一歩、また一歩と近づいていく。
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