183 / 215
LI 雷鳴の轟く夜-III
しおりを挟む沸き上がる様に思い出されるのは、先程見たあの夢。隣の彼に甘える様に擦り寄り、その腕に自らの腕を絡める。
すると、彼が徐にブランケットを私の身体に巻き付けた。その行動の意図が分からず疑問を抱くが、何処かぎこちなく逸らされた顔に凡その察しが付く。
「――夢を、見ていたの。此処に来て、まだ間もない頃の、嵐の夜の夢」
「嵐の夜……」
「貴方は覚えていない?」
彼が巻き付けたブランケットを肩から落とし、彼に凭れ掛かった。
そして誘惑でもするかのように「初めてキスしようとした時の事」と囁く。
私が身に着けているネグリジェは非常に生地が薄く、よく見なくとも肌が透けているのが分かる。胸元もはだけていて、更には下着を身に着けていない為目のやり場に困ってしまったのだろう。
そんな彼が可愛らしく、愛おしく、あの夢を見た事も相まってか彼に触れたいなんて欲求が沸き上がる。
「あの時、なんて明かりが消えたんだ」
相変わらずその視線は定まらず、私の髪を撫でる手もぎこちない。
きっと彼は平常心を装っているつもりなのだろうが、私にはその動揺が見て取れた。そんな彼を見ていると、ついつい頬が緩んでしまう。
「――それが、よく思い出せないの。カーテンの裾が窓枠に挟まっていた事は覚えているのだけど……」
「大事な事は覚えてないんだな」
「それって、そんなに大事な事かしら」
ふふ、と笑みを零すと、彼も釣られて口元を緩めた。
ゆるりと絡めた腕を解き、腰を上げる。そしてそっと燭台の火に息を吹きかけ、灯りを消した。
暗闇に包まれた部屋は、“あの夜”と同じ。
普段なら、絶対にこんな事は出来ない。全ては、あの夢と嵐の所為だ。
そう心の中で言い訳を重ねながら、目が慣れぬ中彼に近づいた。
「――ねぇ」
手探りで彼を見つけ、当時の様にその膝の上に跨る。
「暗い所が苦手なの」
嵐の音に掻き消されぬ様彼の耳に口元を近づけ、甘く囁いた。
「1人は、嫌なの」
徐々に暗闇に目が慣れ、彼の整った顔が瞳に映る。その美しさは、何年経っても変わる事は無い。寧ろ、その美しさは日に日に増している様にすら思える。
「――1人に、しないで」
あの日と同じ言葉。同じ、距離。
まるで、あの夜に戻ったかのようだ。そんな錯覚に、理性が溶けていくのを感じる。
「――エル」
熱の籠った声で、彼が私の名を呼んだ。
私の項に滑る彼の手から、甘い熱が伝わる。引き寄せられるままに、こつりと額を合わせた。
「――俺が、傍に居るから」
彼が告げた言葉も、当時と同じ。
あの晩、苦しく感じる程彼に心酔しきっていた
その顔も、声も、瞳も、身体も、体内を流れる血液さえも、全てが狂おしく、愛おしかった。彼が、何よりも欲しかった。
それは、今も同じだ。手に入った今でもまだ足りない。こんなに近くに居るのに、長い間同じ時間を過ごしたのに、それでもまだ足りない。
恋や愛は精神病、だなんて良く言った物だ。
彼への狂おしいこの愛情が、病でないと言うならなんというのか。
「だからお前も――」
彼が続けて、言葉を漏らす。
本当なら、その言葉をしっかりと聞き終えたかった。しかし欲望が限界を達し、その言葉を飲み込むように彼の唇に自らの唇を押し当てる。
お互いの唇を食み、舌を絡め、貪る様に、口付けを何度も繰り返す。
あの日の様に、まるで私達の行為を妨害するかの様な迅雷も、稲妻も、今では情欲の助長にしかならない。寧ろ、娘2人への配慮が省ける為好都合だ。
私の身体に触れる彼の手つきは官能的であり、徐々に体温が上がっていく。
あの日の私が、今では愛した彼とこんな淫靡な時間を過ごしているなんて知ったらどう思うだろうか。そう考えるだけで、ぞくぞくと快感が迸り気分が高揚する。
「――ねぇ、セドリック」
離れた唇で強請るように名前を呼ぶと、彼の指先が徐に私の頬をなぞった。そして次の瞬間、彼に強く引き寄せられベッドに押し倒される。
「――あの子達には、気付かれないようにね」
そう笑って告げれば、口元を僅かに緩めた彼が「それはお前次第だな」と囁いた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。
絶対に離婚届に判なんて押さないからな」
既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。
まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。
紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転!
純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。
離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。
それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。
このままでは紘希の弱点になる。
わかっているけれど……。
瑞木純華
みずきすみか
28
イベントデザイン部係長
姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点
おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち
後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない
恋に関しては夢見がち
×
矢崎紘希
やざきひろき
28
営業部課長
一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長
サバサバした爽やかくん
実体は押しが強くて粘着質
秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。
真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。
地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。
ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。
イラスト提供 千里さま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる