DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

文字の大きさ
上 下
178 / 215

L 過去-III

しおりを挟む



 ◇ ◇ ◇


 両手で包み込めばすっぽり収まってしまう程の、小さなマグカップ。そこにがれているのは彼が用意してくれたホットミルク。
 両の掌にミルクの温かさを感じながら、自身の向かいに座った彼の顔を上目遣いに覗き見る。

 1階に降りてきて、彼は一度も言葉を発していない。
 両親の事を尋ねてから、彼はずっと何かを考えこむ様な顔をしていた。

 興味半分、後悔半分といった所だろうか。やはり、大切な人の両親には感興かんきょうを惹かれてしまうものだ。
 どうしても彼の両親への興味を拭えず、彼に謝罪をする事も質問の訂正をする事も出来なかった。ここで誤魔化してしまえば、もう二度と彼の両親の事を知る事は出来ないと思ったからだ。
 しかし彼に同じ問いをされたとしたら、私は上手く答えられそうに無かった。
 マグカップに口を付け、ちびちびとホットミルクを飲みながらどうした物かと考える。

「――母からよく、父に似ていると言われていた」

 長い沈黙。それを破ったのは、彼の方だった。

「お父様に?」

 思わずそう問うと、彼が小さく頷いた。

「もう随分と昔の事だからよく覚えていないがな。父に似て、綺麗な顔立ちをしていると母は良く言っていた。だが、俺は子供ながらに母に似ているんじゃないかと思ってた。母は長い黒髪に赤い瞳をしていたから、容姿だけで言うなら母に似ていたんじゃないかと」

「そう……」

「黒髪なのは父も同じだったが、父は青い瞳をしていた。父は表情が乏しく無口だったからか、その目がやけに冷たく見えて嫌いだった。でも、今になってはどっちに似ているかは分からない。瞳の下に、2つ並んだホクロがあるだろ。レイにもある物だが、父にも同じホクロがあった。鏡を見れば、父がそこに立っている様な気さえしてくる」

 彼はカップに注がれたミルクを飲みながら、淡々と告げる。その声からは、感情が一切伝わってこない。

「セドリックは、お母様に似ている方が良かった?」

 私の問いに、彼が一瞬ぴたりと動きを止めた。
 彼の瞳の奥に、言葉にし難い感情が滲む。それは愁然しゅうぜんにも、厭悪えんおにも思える“何か”だった。
 しかし彼は、それを誤魔化す様にぎこちなく頬を緩める。

「どうだろうな」

 彼の視線はカップに落ちたまま。瞳の奥の、その言い難い感情も消えていない。
 余計な事を、聞いてしまったかもしれない。彼が両親の話をしてくれただけでも充分だったのに、詮索するような事をしてしまった事に罪悪感を抱く。

「――そういえば、あの歌」

 またもや沈黙を裂く様に、彼が口を開いた。
 無理矢理話題を変えられた事を感じ取りながらも、顔を上げる。

「何か、思い入れのある歌なのか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

クリスマスに咲くバラ

篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。

処理中です...