172 / 215
XLVIII 心労-II
しおりを挟む「いや、私の事は良いんだよ。毎日こうして、ルイちゃんやレイちゃんの顔が見れて幸せだからね。ただ、私はエルちゃんの事が心配で……」
「――私は大丈夫。ライリーさんがこうして毎日来てくれているだけで充分助かっているわ」
私の腕からレイを抱き上げたライリーにお礼を言い、彼女が持ってきてくれた、食材の詰められた紙袋を抱えた。
そしてふらふらとした足取りで、キッチンへと向かう。背後から「転ぶんじゃないよ、気を付けな」と声が飛んできたが、その言葉の直後にふらついてしまい壁に肩を強打してしまった。両手が塞がっている為ズキズキと痛む肩を摩る事も出来ず、辿り着いたキッチンにしゃがみ込み、届けて貰った食材を冷暗所に一つずつ片していく。
レイはライリーに抱かれると、比較的大人しくなる。最も大人しくなる相手はセドリックなのだが、何故だか私があやすと逆効果だとでも言う様に激しく泣く事が多かった。
私は、駄目な母親なのでは無いか。レイに、母親として認めて貰えていないのではないか。自然と沸き上がるのはそんな不安。
食材の片づけが終わり、空になった紙袋を畳みながらふと溜息を吐いた。
自身の左手の薬指に嵌ったシルバーの指輪にそっと指を這わせ、この指輪が贈られた時の事を思い出す。
あの時は、私だけの為に作られたのだと実感する程、自身の指にぴったりだった。しかし今は、7ポンドも体重が落ちてしまったからか指から滑り降りてしまいそうな程に緩くなってしまっていた。
指の関節部分にひっかかり辛うじて落ちずに指に嵌っているが、これもいつ外れてしまうか分からない。
結婚記念日にセドリックがプレゼントしてくれた髪飾りの二の舞を踏まない様に、今から外してペンダントに通しておいた方が安全だろうか。しかし、泣いて暴れるレイが私のペンダントを掴んだことが過去に何度かあった為、中々その選択に至らない。
今はチェーンが切れてしまわぬ様、服の中にペンダントを隠しているが、チェーンが切れてしまえば指輪を失くしてしまう可能性だってある。
そう考えると、自身の指に嵌めておいた方が安全だとも思えた。
再び溜息を吐き、キッチンの台に手を付きながらゆっくり立ち上がる。
娘2人が眠る揺籠があるリビングからは、ライリーがレイをあやす声が聞こえていた。その声にレイは気を良くしたのか、泣き止むだけで無く小さな笑い声までをも上げている。
――やはり、私では駄目なのだ。
胸がズキリと痛むのを感じながら、ライリーが子供達を見て居てくれている間に夕飯の支度をしてしまおうと手早く台に食材を並べた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。
絶対に離婚届に判なんて押さないからな」
既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。
まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。
紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転!
純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。
離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。
それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。
このままでは紘希の弱点になる。
わかっているけれど……。
瑞木純華
みずきすみか
28
イベントデザイン部係長
姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点
おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち
後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない
恋に関しては夢見がち
×
矢崎紘希
やざきひろき
28
営業部課長
一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長
サバサバした爽やかくん
実体は押しが強くて粘着質
秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる