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XXV きっと幸せな夢-II

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「……こ、……これって……」


 高鳴る鼓動が、最高潮に達する。

 ステンドグラスの光に反射し、美しく輝く楕円型。それに繋がる細いチェーンは、宝石の様にキラキラと輝いている。
 私の心迄をも奪ったロケットペンダント。それは、毎日眺めていた時とは違う重さを孕み、私の掌の上に乗せられていた。
 
「――ライリーから、お前が欲しがってるって聞いた。それに、意味も……」

 彼が言葉を詰まらせ、私からふいと顔を逸らす。

 このペンダントに込められた意味。
 それは、ライリーの家で確かに聞いた。教会で作られている物で、縁結びの祈りが込められていると。
 そして、蓋裏に2人の名を刻印してプロポーズと共に贈れば、神の御加護が付き幸せになれると。

 震える指を、小さなロケットに掛ける。そして僅かに力を籠め、蓋を開いた。
 そこに彫刻されているのは、何度も目にした美しい聖母マリア像。
 そして、最後に見た時には何も描かれていなかった筈の蓋裏。そこには――

「……名、前……が……」

 彼と私の名が、美しい字体で刻印されていた。  
 勢い良く顔を上げ、彼の顔を見つめる。
 
「――初めてお前と、あのバルコニーで会った時。貴族の娘にしては随分と謙虚で、変わってる奴だと思った。俺が貴族の人間じゃない事は明らかなのに、煙草を黙認したり……他の奴には見せない顔で、笑ったり」

 淡々とした、まるで何かを読み上げているかのような彼の声。だがその声からは僅かに緊張感が伝わってくる。

「普通、幾ら相手が貴族だろうと『共に生きたい』と言われて簡単に従う人間なんか居ない。それに俺は人付き合いが苦手……というか、嫌いだ。そんな俺がお前の手を取ったのは、きっと一目見た時から、お前を愛していたからなんだと思う」

 彼の手が伸び、私の頬に触れた。
 頬にじわりと広がる彼の熱。耳を伝う彼の声は、その言葉は、この幻想的で美しい空間が見せた幻か。
 彼が私を、愛していただなんて。俄かには信じ難い言葉に、思考が混乱し始める。

「一目惚れだとか、運命だとか、そんな物俺は信じてない」

 彼がふと、表情を崩した。それは、自嘲にも似た笑み。

「“愛”なんて言葉も、ただの自己満足で……身勝手で……。そんな物は、何処にも存在しないと思ってた」

 苦し気な色が、その表情の奥に見える。私の頬を撫でる手も、僅かに震えていた。

「でもお前と出逢って、共に暮らす様になって……、お前に触れたい、笑顔をずっと見ていたい、お前の隣に居る理由が欲しいって、お前の存在を……閉じ込めたいって、思う様になった」

 私の瞳を深く見つめる、ローズレッド。ステンドグラスの光と交じり合い、それは深みのあるボルドーに色を変える。

「エル、お前だけを愛してる。お前が、俺の隣で笑顔で居てくれるなら、何だってしてやりたい。だから、俺だけのエルで居て欲しい」
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