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XXIV 想像もつかぬ未来-III
しおりを挟むぽつりと、彼女が告げた言葉。彼女は未だ、私と視線を合わせようとしない。
「……ど、どうして?」
セドリックに呼び出された事に浮かれた心が、徐々に冷めていく。
「……私自身、別に信じてる訳じゃないんだけどさ。あの教会、悪い噂が絶えないんだ。噂なんて、事実無根の物が殆どだけど、それでも、悪い噂ばかりたつ場所には行きたいと思わないだろう」
「噂……?」
「ああ。『あの教会には、この世の者では無い何かが住んでいる』とか『元々は子供を捨てる為に使われていた』とか『一度行ったら帰ってこれない』……だとか。エルちゃんの言う用事が何か分からないけど、重要な用事じゃない限りお勧め出来ないね」
自身の心音が、やけに大きく聞こえる。耳の奥で響くような、妙な動悸だ。
やけに胸に引っ掛かる、“元々は子供を捨てる為に使われていた”という言葉。
そういえば、とある夫婦が口減らしの為に森に子捨てをするという童話があった。あの物語は、どんな結末だっただろうか。
セドリックが、12時に私を教会に呼んだ理由。それを手放しで喜んでしまっていたが、何の為に私を呼び出したかをまるで考えていなかった。
話をするのに、態々そんな場所に呼び出すだなんておかしい。仮にただの待ち合わせだったとしても、森奥の教会など選ばないだろう。
彼は、その教会でしか出来ない“何か”をしようとしている。
もしや私は、あの童話の様にそのまま森に捨てられてしまうのだろうか。
屋敷を抜け出した時にあの森の一部を通ったが、空が見えない程木が生い茂り、草や岩、剥き出しになった樹木の根などで足場が悪く、空気も淀んでいてとても正常な精神を保っていられる場所では無かった。出来る事なら、長居はしたくない場所だ。
「エルちゃん、本当に行くのかい?」
「……」
ライリーの問い掛けに答えられず、その場で俯く。
彼の呼び出しに、応じない訳には行かない。だが、呼び出し通りに教会へ向かうのも怖い。
「顔が真っ青だよ?」
彼女が、徐に私の顔を覗き込んだ。
いっそ、彼女に頼み込んで同伴して貰おうかとも考える。
だが、彼女はその教会を忌み嫌っている様だ。それに、この店の事もある。安易に巻き込むべきでは無い。
「……大丈夫。直ぐに行って、直ぐに帰ってくるわ」
無理に笑顔を作り、彼女にひらりと手を振る。
そして1人森へ向かおうと、踵を返した。
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