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XXII 止められない嫉妬心-IV
しおりを挟む「――えっ」
ぐらりと、此方に傾く彼の身体。どうやら、自分が思う以上に強く掴んでしまったらしい。
「ちょっと、待って…!」
慌てて彼の身体を支えるが、行動に移した時にはもう既に遅かった。
完全に倒れてしまった彼の身体と、膝の上に感じる僅かな重み。行き場を失くした手は宙を彷徨い、この状況を考えれば考える程思考は絡まっていく。
今の状況は、何度か本の中で読んだことがあった。交際している男女が、片方の膝の上に頭を乗せて眠る、所謂“膝枕”という物だ。
彼が目を覚ました時、私はこの状況をどう説明すれば良いのだろう。
彼はきっと私を疑い、責める事はしないだろうが、それでも気まずい空気が流れる事は免れない。
いっそ、彼を起こしてみようかとも考える。彼は一度眠れば中々起きない方であり、このまま起きるのを待っていたら帰るタイミングを失ってしまうかもしれない。それに、今起こしてしまえば膝枕の言い訳もし易い気がした。
だが、誰だって愛した人には少しでも触れていたいものだろう。事の発端は事故であったとしても、合法的に膝枕が出来ているこの状況を逃したくは無い。
彼を起こそうとする手を止め、その寝顔をじっくりと眺める。
同じベッドで眠っているとはいえ、普段は必ずお互い背を向けて眠っていた。寝付けない夜は、時々こっそりと彼の寝顔を眺めている事はあるが、それでもこう明るい場所で、更には至近距離で、正面から堪能できることは少ない。
鞄から白いハンカチを取り出し、彼の額に滲む汗をそっと拭う。
今も、彼は悪夢の中に居る様だ。時々表情を歪ませては、苦し気な息を漏らす。
こうして悪夢に魘されているのなら、やはり起こしてあげるべきなのかもしれない。だが、中々見る事の出来ない苦痛に歪む表情に、つい見惚れてしまって中々起こす事が出来ずにいた。
どんな表情をしていても、彼の顔は美しい。幾ら世の中に階級制度があろうと、生きる事に苦労をしなかったのではないか、なんて無責任にも思ってしまう位には欠点の無い顔立ちだ。
苦痛に歪む表情を、美しいと思うだなんてどうかしている。そう自覚はしているものの、やはりそれが率直な感情であり、誤魔化す事は出来なかった。
彼の長い前髪を払い、その柔らかな髪をそっと撫でてみる。指の隙間をすり抜けていく黒髪は毛先に向かって色素が薄くなっており、光に当てると少し赤み掛かって見えた。
女性も羨む程の、美しく柔らかな髪だ。特別なケアをしている様には見えないのに、何故此処まで触り心地の良い髪質が維持できるのか不思議だ。
あまりの触り心地の良さに暫く撫でていると、歪んだ表情が僅かに和らいだ様に見えた。
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