65 / 215
XX ライリー-IV
しおりを挟む「シスターの御友人がいるなんて、素敵ね」
「あぁ、元々この街に住んでいたんだけどね。家庭の都合ってもんで隣町に引っ越して、それからその教会でシスターとして子供の面倒を見ているらしい。あいつは昔から、過度な位に優しいやつでね。特に子供が好きで、シスターは天職だなんて言ってたよ」
彼女がふわりと目を細め、今迄で1番優しい笑顔を見せた。そして照れ隠しでもする様に、カップに口を付け勢い良く紅茶を呷る。
だが、ふとそんな彼女の顔に影が落ちた。
「でもあいつ、数年前から悩んでるみたいでさ。時々手紙が来るんだけど、もう何年もその悩みばかり書かれていて……心配なんだ」
「……悩み?」
「……あぁごめんよ、ペンダントの話をしていたのに……」
「いいのよ。私はこうして、話を聞く事しか出来ないけれど……。ライリーさんさえ良ければ、そのお話聞かせて頂けないかしら」
初めて見た彼女の暗い顔。今迄彼女から元気を貰っていた分、彼女に少しでも不安があるのなら力になりたい。
そう思い、揺らぐライリーの瞳を見つめると、彼女は悲しげに笑った。
「……じゃあ、お言葉に甘えて少し話させてもらおうかな」
彼女が空になったのであろうカップをテーブルに起き、小さく咳払いをした。そして少し言い淀む様に「何処から話そうか」なんて言いながら、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始める。
「……あいつ、教会ではシスターセシリアなんて周りから呼ばれて、孤児院の子供からも大層好かれてたみたいなんだ。だけど。8年位前……になるかな。身元不明の女から、赤子を預かって欲しいって言われたらしくって。あいつお人好しだからさ、そのままその赤子を預かったんだよ。でも、その女が子供を迎えに来ることは無かったんだ……」
「――そう……」
世の中には、生活苦が原因で子供を育てられない親が多くいるらしい。それがきっかけで、子供を孤児院の前に捨ててしまう親も、少なくないのだとか。
ライリーの友人、シスターセシリアに赤子を預けた女性も、そのような親の1人だったのだろうか。その女性を知らないだけに断定をする事は出来ないが、シスターセシリアが慕われていた人物なら、子供の幸せを少しでも願い彼女に預けようとしたのかもしれない。
「……でも、その赤子はどうやら普通じゃなかった様で、聞くに左右の瞳の色が違ったそうだ」
「瞳の色が……?」
「あぁ、普通じゃ考えられないだろう。左右の瞳の色が違うだなんて、不気味だよ。だが、医者が言うには生まれつきの疾患だそうで、左右の瞳の色が違う事は決しておかしな事では無いらしい。でも周りが、それを受け入れなかった様でね。その赤子が大きくなって、孤児院の子供達と対面させた時、子供達はその赤子を“悪魔の子”、“呪われた子”だと言って忌み嫌ったそうだ。病気だと言っても、誰も聞く耳を持たなかったらしい」
「そんな……!」
確かに、左右の瞳の色が違う人間など見た事が無い。幾ら医者の言う事であっても、気味が悪く感じてしまう事もあるかもしれない。
だがそれを、悪魔の子と罵るなんてあんまりだ。素直故の言葉なのだろうが、子供は良くも悪くも物事とはっきりと口にする為、時に人を深く傷つける。
それまでその赤子を見ていたシスターセシリアにとっては、きっと自分に向けられた物の様につらく感じただろう。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定

初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる