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XX ライリー-IV
しおりを挟む「シスターの御友人がいるなんて、素敵ね」
「あぁ、元々この街に住んでいたんだけどね。家庭の都合ってもんで隣町に引っ越して、それからその教会でシスターとして子供の面倒を見ているらしい。あいつは昔から、過度な位に優しいやつでね。特に子供が好きで、シスターは天職だなんて言ってたよ」
彼女がふわりと目を細め、今迄で1番優しい笑顔を見せた。そして照れ隠しでもする様に、カップに口を付け勢い良く紅茶を呷る。
だが、ふとそんな彼女の顔に影が落ちた。
「でもあいつ、数年前から悩んでるみたいでさ。時々手紙が来るんだけど、もう何年もその悩みばかり書かれていて……心配なんだ」
「……悩み?」
「……あぁごめんよ、ペンダントの話をしていたのに……」
「いいのよ。私はこうして、話を聞く事しか出来ないけれど……。ライリーさんさえ良ければ、そのお話聞かせて頂けないかしら」
初めて見た彼女の暗い顔。今迄彼女から元気を貰っていた分、彼女に少しでも不安があるのなら力になりたい。
そう思い、揺らぐライリーの瞳を見つめると、彼女は悲しげに笑った。
「……じゃあ、お言葉に甘えて少し話させてもらおうかな」
彼女が空になったのであろうカップをテーブルに起き、小さく咳払いをした。そして少し言い淀む様に「何処から話そうか」なんて言いながら、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始める。
「……あいつ、教会ではシスターセシリアなんて周りから呼ばれて、孤児院の子供からも大層好かれてたみたいなんだ。だけど。8年位前……になるかな。身元不明の女から、赤子を預かって欲しいって言われたらしくって。あいつお人好しだからさ、そのままその赤子を預かったんだよ。でも、その女が子供を迎えに来ることは無かったんだ……」
「――そう……」
世の中には、生活苦が原因で子供を育てられない親が多くいるらしい。それがきっかけで、子供を孤児院の前に捨ててしまう親も、少なくないのだとか。
ライリーの友人、シスターセシリアに赤子を預けた女性も、そのような親の1人だったのだろうか。その女性を知らないだけに断定をする事は出来ないが、シスターセシリアが慕われていた人物なら、子供の幸せを少しでも願い彼女に預けようとしたのかもしれない。
「……でも、その赤子はどうやら普通じゃなかった様で、聞くに左右の瞳の色が違ったそうだ」
「瞳の色が……?」
「あぁ、普通じゃ考えられないだろう。左右の瞳の色が違うだなんて、不気味だよ。だが、医者が言うには生まれつきの疾患だそうで、左右の瞳の色が違う事は決しておかしな事では無いらしい。でも周りが、それを受け入れなかった様でね。その赤子が大きくなって、孤児院の子供達と対面させた時、子供達はその赤子を“悪魔の子”、“呪われた子”だと言って忌み嫌ったそうだ。病気だと言っても、誰も聞く耳を持たなかったらしい」
「そんな……!」
確かに、左右の瞳の色が違う人間など見た事が無い。幾ら医者の言う事であっても、気味が悪く感じてしまう事もあるかもしれない。
だがそれを、悪魔の子と罵るなんてあんまりだ。素直故の言葉なのだろうが、子供は良くも悪くも物事とはっきりと口にする為、時に人を深く傷つける。
それまでその赤子を見ていたシスターセシリアにとっては、きっと自分に向けられた物の様につらく感じただろう。
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