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XX ライリー-III
しおりを挟む「エルちゃん、彫刻に興味は?」
「――えっと、無い訳では無いのだけど、知識は全く……」
「そうかい、じゃあ今度暇な時にでも、旦那のアトリエ見に来てくれよ。旦那は……そうだね、その、人付き合いが得意なタイプでは無いけど、きっと歓迎してくれる筈だ。私達の階級じゃ、彫刻を見る機会なんて殆ど無いだろう。大半が失敗作だけど、きっと楽しめると思うよ」
「……そうね。では、今度お邪魔させて頂こうかしら」
彼女の言葉に、ちくりと胸が痛む。
私は屋敷暮らしの元お嬢様であり、様々な彫刻や石膏像を目にしてきた。故に、彫刻は見慣れている。
その所為か、なんだか彼女を騙している様な気分に陥り、思わず彼女の顔から視線を逸らした。
「あぁ、そうだ。ロケットペンダントの話だったね。ごめんよ、つい脱線してしまって」
「大丈夫よ。彫刻は見る機会が少ないから……、こうしてお話を聞けるのは嬉しいわ」
自然と、声が震える。
嘘を吐くのは苦手だ。特に、この様な場所では。
社交界では、罪悪感を感じる暇など無い位にお世辞を口にしていたというのに。
「ペンダントのお話、聞かせて貰えるかしら」
罪悪感に堪えられず、早く話題を変えてしまおうと話の先を促した。
彼女も私と同じ様に近くの椅子に腰掛け、ゆったりと足を組み紅茶を啜る。
こうしてみると、彼女はとても美しい女性だ。背も高く、スタイルも良く、ついつい見惚れてしまう。それに加えて、常に笑顔で明るい人だ。街での知名度が高く、彼女の名を出せば誰しもが笑顔になるというのも納得がいく。
それに比べて私は、一般的に見ても背は低い方で、更には細身というだけでスタイルが良い訳では無い。私ももう少し背が高く、胸も大きい魅力的な女性だったら、セドリックとの関係も少しは進展したのだろうか。
そんな事をぼんやりと考えながらライリーを見つめていると、彼女が徐に口を開いた。
「期待する程面白い話では無いんだがね、まぁその、私の暇潰しに付き合う位の感覚で聞いてくれよ」
苦笑いを浮かべるライリ-に、思わずふふ、と笑みを零し頷く。
「構わないわ。どんな話でも、あのペンダントに興味がある事には変わらないから」
「そうかい、半ば無理矢理家に入れちゃったけど、そういって貰えて良かったよ。じゃあ、遠慮なく」
足を組み替え小さく息を吐いた彼女が、ゆっくりと優しい笑みを浮かべながら話し始めた。
「隣街に、大きな教会があるんだ。孤児院と並立してる、聖グロリアスガーディアン教会、知ってるかい?」
彼女の問いに、黙って首を振る。
私は屋敷からあまり出た事が無かった為、近隣の街の事であったとしても殆ど知識は無い。教会だって、本では読んだことがあるが、実際出向いた事は無かった。
「そうかそうか、隣街っていっても田舎に近く、人口も少ない街だからね。幾ら大きい教会と言えど、知らないのも無理は無い。あのロケットペンダントはね、その教会で作られた物なんだよ。孤児院の他に、金属アクセサリーを作ってるアトリエもあるらしく、そこで作った物に、教会で特別な祈りを込めているらしい」
「そうだったのね。とても興味深いわ」
「ふふ、エルちゃんならそう言ってくれると思ってたよ。私の古い友人がその教会でシスターをやっていて、その伝手で私の店に、祈りを込めたアクセサリーを置いてやってるんだ」
ライリーの顔に、笑みが浮かぶ。楽しげに話す今の彼女を見ていると、その友人と教会の事を大切にしているのだという事が伝わってきた。
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