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XX ライリー-II
しおりを挟む「……ロケットの、話?」
不意に投げられた言葉に、思わず鸚鵡返しに尋ね返す。
「あぁ、そのロケットが作られた教会の話だ。エルちゃんなら興味示してくれるんじゃないかと思ってたんだが、どうだい?聞いてくか?」
初めてこの店に来た時、彼女はこの店で売られているアクセサリーを「手作りの物もあれば、仕入れている物もある」と言っていた。
それからずっと、このロケットペンダントが何処でどの様に作られた物なのかが気になっていたのだが、どうやら彼女は相当暇だったらしい。私が返事をする前に、商品台の上に大きな布を掛けた。
「少し長くなるからね。碌な物出してやれないけど、中で聞いていきな」
私に、拒否をする選択肢は無い様だ。
彼女が背後の壁に埋め込まれていた木製の扉を開き、私を中へと手招いた。
ライリーに促されるまま足を踏み入れた先は、彼女の居住スペースであろう場所。だが、私とセドリックが共に暮らす家よりも内装は殺風景で、あまり裕福では無い事が伺える。
こうして見ていると、改めて自分達は恵まれた暮らしをしているのだと実感した。セドリックが階級に見合った暮らしをしていない事は分かっていたが、いざ労働者階級の暮らしを目の当たりにすると心が痛む。
「そこら辺、空いてる所に適当に座っといてくれ。今お茶淹れるから」
「あ、あの、本当に御構い無く…」
キッチンコンロの前でお茶の用意をするライリーを尻目に、こっそりと家の中を見渡す。
綺麗に掃除こそされている物の、窓に掛けられているカーテンは古びた物で、木を組んだだけの塗装のされていないテーブルは立て付けが悪く、触れる度にガタガタと揺れていた。
そんな中目に留まったのは、木の棚に並べられた小さな彫刻の数々。動物や天使、子供等を象ったそれ等の物は、決して拙劣では無く、貴族の家に置かれていてもおかしくは無い出来栄えの物ばかりだ。彼女のコレクションだろうか。
棚に近づき、前屈みになって彫刻を見つめる。
「――あぁそれ、うちの旦那が作ったんだ」
私が棚を見ている事に気付いたライリーが、沸いた湯をポットに注ぎながら告げた。
「本職が彫刻家でね。お偉い貴族様にも高く買われてる、ちょっと凄い人なんだよ」
「そうなの…、凄いわね…」
屋敷にも、美しい彫刻は沢山あった。今迄考えた事は無かったが、屋敷にあった彫刻像達も彼女達の様な人が作っていたのだろうか。
大変興味深い話ではあるが、当然屋敷の話題を出す事は出来ず、そのまま口を噤み手近な場所にあった木の椅子に腰掛けた。
「私も、旦那から色々教えてもらってはいるんだけど、本職にするにはまだまだでね。それで、時々作った物をアクセサリーにして売ったりしてるんだよ」
椅子に腰を掛けたのとほぼ同時に、彼女が熱い紅茶の注がれたカップを私に手渡した。それを落とさない様に慎重に受け取り、カップに視線を落とす。
欠けや罅こそ無い物の、そのカップも随分と古びた物だ。長年使い込んだ物なのだという事が見て取れる。
ついうっかり割ってしまわぬ様しっかりとカップを握り、そっと紅茶に口を付けた。
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