DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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XV この目に映る物-VI

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「ま、待って!違うの!」

 ――辺りに響き渡る、自身の声。
 その指先が値札へ届く前に、と思った迄は良かった。彼の迷惑にならない様に生きる、それが私の願いであり、強い決意だ。
 そんな中、生活する上で無くたって困らないアクセサリーを買ってもらうなんてもっての外。故に、彼がそのペンダントの値段を知る必要も無い。
 出来る事なら、私がこのペンダントに心惹かれたという事すらも彼の耳には入れたくなったのだが、ライリーが伝えてしまったのだから仕方が無い。今はとにかく、彼の意識をペンダントから逸らさなければ。

 そう思った結果が、これだ。
 自身の口から発せられた声は想像より遥かに大きく、最早叫び声である。周囲の人達の視線が自身に集まるのを感じながら、熱を帯びる顔を隠す様に手で顔を覆った。

「……綺麗だと思ったのは事実よ。でも、決して欲しいと思った訳じゃないの。ごめんなさいね、忘れて頂戴」

 顔を覆いながらゆっくり息を吐き、なるべく落ち着いた声で告げる。
 彼への印象を、悪くする事だけは避けたかった。色々と手遅れの様な気もするが、彼に煩わしい女だと思われる位なら彼の記憶に残らない方がまだ幾分マシだろう。
 止まらない自己嫌悪の中顔を上げると、視界に写ったライリーは俯いて顔を隠し、肩を震わせて笑っていた。彼女には何処か、マーシャと近しい何かを感じる。
 決して笑い事では無いのだが、今はそれを咎める事も出来ず、こっそりと上目遣いにセドリックの表情を伺った。

「……まぁ、お前がそれでいいなら良いけど」

 そう告げた彼は相変わらず無表情で、感情が全くと言っていい程読めない。台にペンダントを戻す彼の横顔を見つめながら、小さな溜息を吐いた。

「…あ、」

 ペンダントが彼の手から離れた瞬間。
 彼が何かを思い出したかの様に、小さく声を上げた。
 そして何を思ったのか私の腕を勢い良く掴み、半ば引き摺る様に街の方へと大股で歩き出す。

「ちょ、ちょっと待って、どうしたのセドリック…」

 なんとか人にぶつからない様必死に彼の後に続き、彼の背中に問い掛ける。だが私の声が聞こえていないのか、それとも返事をする必要が無いとでも思っているのか、彼は振り返る事無く街中を進んでいく。
 背後で聞こえるライリーの怒鳴り声。周囲の雑音で聞き取る事が出来ず、聞き返そうと振り返るが、彼の手がそれを許す事なく私の腕を強く引っ張った。

 人の少なくなった街路の隅で、漸く彼が足を止める。それに合わせて自身も足を止め、彼の顔を覗き込んだ。

「……今日は、街の人間と接触する為に此処に来たんじゃない」

 ぽつりと呟くような彼のその言葉に、本来の目的を思い出す。いつまでも家に籠っている訳にはいかないから、今日は試しに少し街へ出てみようと、彼はそう言っていた筈だ。まだ安全だと決まった訳じゃないから、街の人間とは安易に接触しないように、とも。
 本来の目的を見失ってしまったのは、完全に私の落ち度だ。謝らなければと、咄嗟に口を開く。
 だがそれを遮る様に、彼が先に口を開いた。
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