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LXIV エピローグ-II
しおりを挟む「もし仮に私の物語を書くとしたら、先生の事は謎多き人って事にしておきたいかも」
「自伝でも書くつもりか?」
「いいねそれ! 書いてみようかな、私の人生色々あったし」
「何処に需要あるんだか」
「意外とね、思わぬ所で需要ってあるもんなんだよ! 私も小さい頃、エンパスの自伝読んだなぁ。これから生まれてくるエンパスの子達に、こういう生き方があるんだよって残してあげたいなって、思ったりはするんだよね」
「じゃ、書いてみれば」
突き放す様な彼の言葉に、「冷たいなぁ」と言葉を漏らす。しかし、子供達の言い争う声に私の声は掻き消された。
「シスター! シスターご本読んで!」
「駄目よ! シスターはこの前のお話の続きをするの!」
「違うよ、シスターは僕と遊ぶんだ、さっき約束したもん!」
中庭に、まだ幼い子供達の元気な声が飛び交う。
そんな子供達の言い争いを収めるのは、修道着に身を包んだ、誰もが振り返る程美しいシスター。
「喧嘩をしては駄目よ。順番に遊びましょうね」
その美しいシスターが窘めるや否や、先程まで言い争っていた子供達が素直に口を噤む。そんな光景を見て、思わず感嘆の溜息を漏らした。
「まさに、聖女って感じ」
そう呟きつつ隣のセドリックに視線を向けると、珍しくも彼が素直に頷いた。
子供達に囲まれているのは、他でも無いセドリックの妻、そして私の大切な友人のエルである。此処へ来て早くも1ヵ月が経過し、エルは次第に元気を取り戻していった。今では、儚くとも時々笑顔を見せてくれる。
そんなエルの胸に掛けられたロザリオが、陽の光に当たってきらりと光った。そのロザリオは、私とセドリックの胸にも掛けられている、この教会で作られた神聖なるものだ。セドリックが言うには、エルは毎晩このロザリオを胸に礼拝堂で祈りを捧げているらしい。
それを毎晩見ているであろうセドリックは、聖職者でありながらも無神論者であり、義務的にロザリオを着用している様だった。そんな罰当たりなセドリックだが、シスター・セシリア曰く孤児院にも無神論者の子供が居たらしく、「それも一つの考え方ですから」と朗らかに言っていた。
かくいう私も、神の存在は信じていない。幾ら神に祈った所で、ルイとレイが帰ってくる事は無いのだ。しかしそれでも、この教会に居る間は神を信じているふりだけはしていた。全ては、孤児院の子供達の為だ。
“god bless you《神の御加護があらんことを》”
そう囁くだけで、子供達は安堵の笑みを浮かべる。私達はあくまで子供達を保護し、良い大人にさせる事が仕事だ。自分達の意志は関係ない。
しかし、セドリックはあまりそうは思っていない様だった。
「いい加減、神は居ないなんて言ってたらシスター・セシリアに怒られるよ」
「別に、怒られたって構わない。神は存在しないんだからな」
「そう思うのは勝手だけど、エルちゃんが悲しむんじゃない?」
「あいつの前ではこんな事は言わない」
セドリックの言葉に肩を竦めると、彼が小さく溜息を吐いた。
「あいつは、エルは変わったよ。此処に来てから、『神の御加護があるから生きていられる』『神の御加護があるから貴方と居られる』そんな事ばかり言う様になった」
「それは、悪い事なの?」
「悪い事だとは思わないが、洗脳されている様で良い気はしないな」
「まぁ、宗教は一種の洗脳だから。でもその洗脳で心が回復しているならいいんじゃないの?」
「本当に“回復”しているなら良いんだがな。――あぁでも、エルの回復はあまり関係無いのか」
彼の含みのある言葉に、首を傾げる。「どういう事?」と問うと、彼が曖昧に笑った。
「娘の事だ。俺は、娘2人の居場所を知ってる」
「……はぁ? そりゃそうでしょ、スタインフェルド家に居るんだから」
「違う。娘はもうスタインフェルド家には居ない」
彼がちらりと、此方を一瞥した。そして私に何も問わせない様に、
「エルには言うなよ」
と強い口調でそう告げた。
神は居ない。そう思い始めたのはいつからだったか。
私は“天使”だと言われ続けていた。神から力を授かったのだと、そう信じて疑わなかった。
しかし不思議な物で、“神を信じるか”と問われれば透かさずNoと答える。
この世の中は、全て人間の手で回っているのだ。愛も、罪も、全て。
だが私は、聖職者の道を選んだが故に今日も呪文の様に唱える。
――この世界の人々に、神の御加護があらん事を。
to be continued....
next 4th story -strawberry-
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