DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

文字の大きさ
上 下
190 / 222

LV 思案-II

しおりを挟む

「私がブローカーってのは、カルテを見てるだろうし、知ってるよね?」

「勿論、存じ上げていますよ」

「セディの事は?」

「……」

 彼が不自然に私から視線を逸らし、「まぁ、そうですね」と誤魔化す様に言葉を漏らした。私がこの仕事を始めた当時、エリオット先生にどこまでの事を話したかは覚えていない。その為、セドリックが何を扱っているブローカーなのか、という事がカルテに書かれているかを把握していなかった。
 しかし、彼の反応を見て直ぐに察しがつく。

「知ってるんだね」

「……ある程度の事は」

 彼も、セドリックが“良くない物”を扱っている、という事を把握している様だ。故に、声高に知っているとは言えないのだろう。わざとらしく咳払いをして、彼が私に続きを話すよう促した。

「その子の家族……、多分母親かな。職場の屋敷に来たんだよね、今日」

「……ご家族の方は、その子を返せ、と?」

「うぅん。その人、エルちゃんを探してる感じでは無かった……」

「…………エル」

 彼がぽつりと零した名前に、自身がついうっかり名前を出してしまった事に気付いた。あっと声を漏らし、自身の口元に手を遣る。

「ち、違くて、えっと」

 言い訳をした所でもう遅い。まさか自分自身が、こんなにも簡単にボロを出してしまうとは思わなかった。深い溜息を吐いて、自身の顔を両手で覆う。

「――まぁ、彼女の事だろうとは思っていましたが」

「先生、何かに気付いてるっぽかったもんね」

「彼女――エルさんの育ちが良い事は、会話していれば直ぐに分かりますよ。あれ程綺麗なクイーンズイングリッシュを話す人は街にそうそう居ません。貴女や幼馴染さんも発音は綺麗な方ですが、多少訛りがあるでしょう」

 英語の発音など今迄気にした事が無かったが、彼に言われてはたと気付く。確かに、私もセドリックも街の人間よりかは訛りが少ない方ではあるが、完璧かと言われればそうでは無い。勿論、目の前の彼もだ。

「姐さんも、昔同じ事言ってたなぁ……」

「この街は上流階級の人間を嫌う人が多い。ですが、そんな場所から逃げ出してきた人を弾き出す程薄情な訳でもない。でしょう?」

「……うん」

「正直、今更エルさんが元上流階級の人間だった、と言われても驚きませんし、騒ぎ立てたりもしませんよ。それに、彼女は街でも慕われている様だ。エルさんの家の人間が無理に連れ戻そうとしたら、少なからずエルさんを守ろうと盾となる人間が出てくるのでは?」

「だといいなぁ……」

 嘆く様に漏らすと、彼が再び愛しむ様に私の頭をぽんと撫でた。

「私、先生と距離近くなってから口が軽くなった気がする……」

「ふふ、良い事じゃないですか。従順な証拠ですよ」

「全然いい事じゃないから! 私が口滑らせた事、絶対エルちゃんとかセディに言わないでよね!」

「勿論、言いませんよ」

 彼が心底楽しそうに、幸せそうに、顔を綻ばせる。
 私はエルの名前をうっかり口にしてしまった自分が許せず、自己嫌悪に陥り止まらないというのに、彼は今も笑顔のままだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...