DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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LII 堕落-II

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「――愛は、死と表裏一体だと思ってる」

 彼女の言葉に、僅かに心が揺れる。
 広場で聞いた、エルの言葉を彷彿とさせる発言だ。思わず息を飲み、彼女から一歩後退った。

「愛って言っても、様々な形があるだろう? 恋人は勿論、夫婦、親子、友人……など。その中でも、特に恋人や夫婦、親子関係の愛は、死に近しい。私はこの街で、色々な話を聞いて、色々な物を見て来た。1人の男を巡る女の殺し合い、恋人や配偶者に裏切られ自殺、殺人。危険な目に合った我が子を守り事故死……。“人を愛する”事は、“死を覚悟する”事と同義だと、私は思ってる」

「……」

「死ぬ覚悟が無いなら、人を愛するべきじゃない。反対に、死を覚悟出来ているのならどんな愛だって構わないだろう」

「……例えば?」

「暴力、支配、拘束……、それに、同性愛や近親愛もそうだ。暴力を受ける事で愛を感じる者も居れば、暴力を振るう事で愛を示す者も居る。愛しているが故にパートナーを支配下に置き、それで安心を得ている者も居れば、支配される事で愛を得る者もいる。拘束もそうだ。あんたは、パートナーに暴力を振るったり、支配下に置いている人間を見てどう思う?」

「……そりゃ、そんなの愛じゃないでしょって思うけど」

 彼女の言葉に感化されてしまったのか、はっきりと“それは愛ではない”と言葉にする事が出来ない。曖昧に言い淀んでいると、彼女が「愛ってそういう物だよ」と一言漏らし微笑んだ。

「一方的な暴力なら、一方的な支配なら、それは良い物だとは言えない。恐怖で逃げられない人間もいる。でも、もし仮に暴力でしか愛を得られないなら、支配される事でしか愛を得られないなら、本人がそうされる事で幸せを感じているのなら、それは間違っていると言えるかい? その幸せを奪ってまで、辞めさせる必要はあると思うかい?」

「……」

 彼女の言葉に反論出来ず、押し黙る。

「加虐被虐性愛が良い例だ。これはまぁ、愛というよりも性愛の話になってしまうが……。暴力を受けて快楽を得る人間、そして暴力を振るって快楽を得る人間、その2つの利害が一致して、愛になる。あんたが一体何に悩んで何を疑問に思っているかは知らんが、愛と死は表裏一体、そして愛の形は1つじゃないって事だ」

「死……か。エルちゃんにも前に、同じ様な事言われたな」

「あぁ、あの子はそういう気があるからね。男に依存して死を迎えるタイプの人間だよ。まぁ、愛した相手がセドリックだから大丈夫だとは思うが」

「裏切られたらセディの事殺しちゃうかも、とか言ってたけどね」

 私の言葉に、彼女が声を上げて笑う。そして、「あの子は強かな一面もあるからね」と言って再び笑った。

「まぁあんたは愛情や恋愛に疎そうだからね、きっと何かしらで悩んでるんだろう。でも、愛なんて綺麗な物じゃないんだよ。美しくもなんともない、唯の人間の欲の塊だ。あんたが男から得た快楽の形が、あんたの愛の形、とでも思っておけばいいんじゃないかい」

「男絡みなんて話はしてないんだけどなぁ」

「おっと、じゃあ女絡みか? あんたは特殊な子だと思ってたけどまさか同性愛者だったとはね」

「あは、同性愛でも無いよ。まぁ私の悩みについては、沈黙を貫かせてもらおうかな」

「これだけ私に自論語らせといて、そっちは沈黙かい」

 ライリーはそう言って、優しく笑った。口ではそう言っているものの、私の悩みを詮索する気はない様だ。
 彼女は何処までも優しい。きっと彼女に、マクファーデンの話をしたら親身になって聞いてくれるのだろう。しかし、今は彼の話をする必要はない。
 彼の話をしなくとも、彼女からは良い話が聞けたからだ。

「久しぶりに話せて良かった。また来るよ、気が向いたらね」

 少し軽くなった心で彼女に手を振り、店を後にした。


 ◇ ◇ ◇
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