164 / 222
XLVII 唯一無二-III
しおりを挟む「――猫を抱いたら引っ掛かれてしまって」
聞こえて来た、マクファーデンの声。ドキリと鼓動が跳ねるのを感じながらも、2人の会話に耳を傾ける。
「――……猫?」
そういえば、今朝彼の頬に酷い引っ掻き傷をつけてしまったのだった。あれ程見事な傷が出来ていれば、誰だって疑問に思う筈だ。
決して抱かれた故に引っ掻いた訳では無いのだが、自身を“猫”と表現された事に擽ったい様な腹立たしい様な複雑な感情が沸き上がる。
「――ええ、とても気が強くて乱暴で、警戒心の強い子ですが、馬鹿みたいに律義で、人の心に繊細で、天使の様に可愛い猫です」
「……!」
彼の優しい声音に、一気に顔に熱が上る。
馬鹿みたいに律義、は余計だ。なんて内心毒づきながらも、火照った顔を冷やす様にぱたぱたと手で扇いだ。
「――先生が、そんな顔をするだなんて珍しい」
エルが、呟く様に彼の言葉に返答する。顔を見なければその人物の感情を読む事は出来ないが、何故だかエルのその声からは哀愁が伝わってくる様な気がした。
「――先生にとって、余程可愛い“猫”なのでしょう」
穏やかであり、優しい声。なのに、何処か切なげに聞こえてしまうのは何故だろうか。
思い返して見れば、エルとは妊娠が発覚したあの日以降顔を合わせていない。2人きりで会話も出来ておらず、セドリックとの仲やお腹の子の事をどう思っているかも聞けていないままだった。
少しだけでも、エルの顔が見られたりしないか。そう思い、そっとカーテンの隙間から診察室の方を覗いた。
その瞬間、まるでタイミングを合わせたかの様に診察室の扉が開く。出てきたのは、胸に医学書らしき分厚い本を抱えたエルだった。きっと、マクファーデンがまた余計な医学書でも勧めたのだろう。彼女を気の毒に思いながらも、その顔をまじまじと見つめる。
「あっ……!」
ふいに、エルの顔が此方に向いた。彼女と目が合った様に感じ、カーテンから飛び退く。思わず漏れてしまった声に慌てて口を塞ぎ、何処か隠れられる場所が無いかと周囲を見渡した。
不自然に揺れたカーテンを、きっとエルは不思議に思う筈だ。彼女の性格上、あまり詮索をするとは思えないが、もし本当に目が合ってしまっていたのならカーテンを捲り此方側を覗いてしまう可能性も考えられる。
二階へ上がってしまえば、恐らく此方側を覗かれても気付かれないだろう。なるべく足音を立てぬ様に階段の方へ駆け、数段一気に駆け上がった。そして階段の中間辺りに、身を丸める様にして座り込む。
「――先生、お客様でも来ているんですか?」
カーテンの向こう側から聞こえる、エルの声。それに対してマクファーデンが何か返答をした様に聞こえたが、この位置からでは何を言っているのか迄は聞き取れなかった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる