上 下
157 / 222

XLVI 夜-II

しおりを挟む

 どれだけ思い返そうとしても、前回此処へ来た時の事が思い出せない。あるのは、部屋に運ばれるなりベッドに寝かされ、傷の痛みに耐えながらぐったりとしていた記憶だけ。いつ彼がベッドに入ったのか、どの様な体制で眠っていたのか、など細かい事は全く思い出す事が出来なかった。

「――あれ、これ、結構まずい状況なのでは……」

 ネグリジェに着替えながら、脱衣所で1人ぽつりと独言を漏らす。
 エルが前に、眠る時は下着を身に着けないと言っていた為、それを真似して踝丈のネグリジェ1枚のみで眠る様になったが、今日ばかりはドロワーズの1枚位身に着けておいた方が良いだろうか。流石に、恋仲でも無い男性と共にベッドに入るのに下着を身に着けないのは品が無いを通り越して粗陋そろうである。
 彼なら特に気にしない様な気もしてくるが、どれだけ彼が変態的な発言をする人間でも下品な行動だけはしたくなかった。
 しかし、下着を身に着けずに眠る開放感を知った今、それをする気にはあまりなれない。感覚的に言えば、私服のまま眠るのとそう大差ないからだ。
 だが考えてみれば、エルは人妻だ。当然セドリックとの夜の営みもある訳で、下着を身に着けないのはその様な行為をする時に邪魔になるから、という意味だったのかもしれない。そんな事も知らずに呑気に真似などしてしまったが、その時点で間違いだったのではないか?

 もし仮に、マクファーデンとその様な行為に発展してしまったら。彼だって男性だ。同じベッドで眠っていて、そんな気が全く起こらないという事は無いだろう。全ては私に魅力があればの話だが。
 では、下着は身に着けない方が良いだろうか。性行為の際、女性の下着を脱がすのに苦戦し、挙句興覚めしてしまう、なんて話を聞いた事がある。
 しかし、そこではたと気付く。これでは、私が彼との性行為を望んでいるみたいではないか。私はそこまで軽い女ではない筈だ。――多分。

「――マーシャ、随分と着替えに時間が掛かっている様ですが、本当にお手伝いしましょうか?」

 ドロワーズを手に悶々と考えていると、突如脱衣所の扉がノック無しで開いた。思わず、持っていたドロワーズをその場に落としてしまう。

「ちょっと! 着替え中だったらどうすんの!」

「それを期待して開けたんですがね。着替え、終わってるじゃないですか」

「色々考え事してたの! 察してよ!」

「僕の事考えてたんですか?」

「そうだけど違う!」

「どっちですか」

 床に落ちたドロワーズを彼に気付かれない様に棚の下に蹴り入れ、慌てて彼の背を押し脱衣所を出た。
 結局、下着は身に着けていない。このまま同じベッドに入って良いものだろうか、なんて思い悩むが、悩んだところでもう脱衣所に戻る事は出来ない。
 極力、彼とは距離を取って眠ろう。なんなら、床で眠っても良いかもしれない。しかしその考えは虚しく、ベッドに座って両手を広げた彼に断ち切られた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...