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XXXVII 束の間の休息-II

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「……あれ? もう帰るの?」

「お前が早く帰れって言ったんだろ」

「あぁ、そっか」

 彼の言葉に適当に返答し、ぼんやりと本を見つめる。
 玄関扉が開閉され、彼が去って行ったのを気配で感じながら再びカウチに寝そべった。
 酷い眠気と共に感じるのは、マクファーデンへの恋しさ。
 本はまだ、半分程しか読み進められていない。彼に会いに行く為にも、早くこの本を読み終えなければ。
 そう思い本を開くが、専門用語ばかり並んだ文章は読み進めるのにも時間が掛かる。大きく溜息を吐き、本を閉じた。

「……先生、会いたい」

 誰も居ないホールで1人呟き、睡魔に耐えられずその場で瞳を閉じた。


 ◇ ◇ ◇


 ――夢と現実の間。
 身体を動かす事は出来ないが、思考が働くと言う事は脳は動いているのだろう。
 計画は、想像以上に簡単に練る事が出来た。それも全ては、話を聞かせてくれたアリアと、私の案に頷いてくれたウォーレンの御陰だ。

 “ウォーレンがセドリックの罪を被り、遺書を残し自殺をする”
 それが、今回私が企てた殺人計画だ。
 所謂いわゆる、身代わり殺人である。アルフレッドから解放されたいウォーレンは、アルフレッドを殺してしまおうと思った。しかし、それは出来なかった。そんな彼の気持ちを汲み、同じくアルフレッドに殺意を抱いているセドリックがアルフレッドを殺す。
 そして自身が殺した事を書き記した遺書を残し、ウォーレンは自宅で自殺をする。
 小道具をしっかりと用意し、1つのミスさえ犯さなければ警察の目を欺く事は出来るだろう。それに、ウォーレンにはアルフレッドを殺す充分な動機がある。
 問題は、何も知らない妹――ステラの存在だが、彼女が騒ぎ立てたところで、要はセドリックや私に警察の目が向かなければ良いのだ。彼女の存在を、今は懸念する必要は無いだろう。
 簡単であり、やや稚拙な計画だ。しかし複雑な計画を組むよりも、簡単なものの方がミスも少ない。
 最も危惧しなければならないのは、犯行のミスだ。些細なミスでうっかり痕跡を残してしまい、セドリックに警察の目が向けばそれこそ最悪な結末を迎える。
 この計画で、上手くいく筈だ。上手く、いって貰わなければ困る。
 ウォーレンが本当に自殺をしてくれるのか、という懸念はあるが、彼の精神はもう限界を超えている。それに、罪の無い女性を傷つけた事を酷く悔いている様だった。仮に今回の計画にウォーレンを使わなかったとしても、事が終わればいずれ彼は死を選ぶ筈だ。

 ――この計画をウォーレンに提示した時。彼は本当に上手くいくのかと不安を漏らしていたが、彼からは深い安堵が伝わってきた。それは、アルフレッドを葬れる事よりも、苦しみから解放される事に対してだと感じられた。
 人の心の闇を、人の自殺願望を、この様な形で使用してしまう事には心が痛む。しかし、もうこうするしか無いのだ。他に方法が無い。

 私の魂は死後、地獄へ堕ちる。いつか、罰を受ける。それをしっかりと受け入れるから、どうかこの計画だけは。どうか、セドリックとエルだけは、最後まで守らせて欲しい。
 私らしくないそんな神への祈りは、落ちていく眠りと共に溶けていった。
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