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XXXVI 罪の意識-I

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 丁度、職場と貧民街の中間辺りだろうか。
 アリアから入手した、ウォーレン・バークレイの住所を元に歩いていると、やや廃れた住宅街に辿り着いた。
 自身の知らない街だからだろうか、どの家も同じ様な造りをしていて区別がつかない。1つ1つの家を確かめていけばいずれは辿り着くのだろうが、そんな事をしていたらウォーレンと出合う前に日が暮れてしまう。
 困ってしまった。呆然とその場に立ち尽くし、重い溜息を吐く。

「――お嬢ちゃん、見ない顔だね。迷子かい?」

 ふと突然聞こえてきたのは、しゃがれた女性の声。声の方向に視線を向けると、煙草を片手に持った40代程の女性が家の窓枠に肘を突いて此方を見つめていた。

「迷子って年齢でも無いんだけど、そうだね。迷子みたいなものかも」

 ふらりと女性に近付き、その顔を見上げる。

「ウォーレン・バークレイって人の家を探してるんだけど、お姉さん分かる?」

「あぁ、あんたウォーレンの知り合いだったのかい。分かるも何も、あの子はここらでは有名人だよ」

「有名人?」

「あぁ、正義感が強くて心優しくて、面倒な仕事でも何でも進んで引き受けてくれるんだ。皆あの子を慕ってる」

 女性が煙を吐き出し、笑って見せた。しかしそんな笑顔も束の間、直ぐに悲し気な表情に変わる。

「でも、あの子最近変わっちまってね。いつも笑顔だったのに、急に笑わなくなって、日に日に窶れていった。お嬢ちゃん、あの子の知り合いなんだろう? どうしてああなっちまったのか、知ってるなら教えてくんないか。今迄良くして貰った分、あたし等も力になってやりたいんだ」

「――……」

 女性の言葉に、嘘偽りがない事は分かっている。しかし、今は彼女に何も言う事が出来なかった。
 心を痛めながらも、彼女から視線を外し俯く。

「ごめん、私彼の事何も知らないんだ。今日は……えぇと、知り合いの代わりに彼に会いに来ただけなの」

「……そうかい。悪かったね、こんな事言って。この先に十字路がある。そこから見える、赤い花が植えられた花壇がある家が、ウォーレンの家だよ」

「ありがとう」

 彼女に手を振り、十字路の方向へと足を向ける。
 ウォーレンはこの街の人から慕われていた。アリアから聞いていた人物像と一致する。
 やはり彼は、アルフレッドに無理に従わされているだけなのだ。出来る限り早く、彼を解放してあげなければ。


 十字路で立ち止まり、周囲を見渡す。すると、あの女性が言っていた通り赤い花が植えられた花壇が見えた。その花壇を持つ家に駆け寄り、腐って今にも崩れそうな木の柵を通り抜ける。
 家の中から物音は聞こえないが、僅かに人の気配を感じた。彼が素直に出てきてくれるとは限らないが、あまり手荒な事はしたくない。
 玄関扉の前で深呼吸を繰り返し、ドアノッカーに手を掛けた。ゆっくりと、4度ノックする。

 ――待つ事、十数秒。玄関扉が解錠される音がした後、扉が開かれた。
 顔を見せたのは、目の下に濃い隈を作った若い男性。昨晩、あの橋のたもとで見た男で間違いない。目の前の彼が、紛れもないウォーレン・バークレイなのだろう。
 今は酷く窶れているが、顔立ちも悪く無く人懐っこそうな男だ。笑顔が良く似合う青年だった事が、易々と想像できる。故に、酷い窶れと目の下の隈が現実の重さを物語っている様で心が痛んだ。
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