DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

文字の大きさ
上 下
121 / 222

XXXV 傷痕-V

しおりを挟む
「まぐれだと、思った。最悪の再会をしてしまったんだって。でも違った。あの男は私を、わざわざこの街まで探しに来てたの……! それも、もう一度ヤりたくなった、なんて理由で!」

 彼女の、怒りに震える手にそっと自身の手を重ねる。

「あいつ、自分より立場の低い男2人を従わせてるみたいだった。どうせ、あの男の事だから弱みでも握ったんじゃないかな。その2人は私が暴れない様に押さえつけているだけで、回されたりはしなかったけど、多分あの2人はこんな事したくなかったんだと思う。私を押さえる手が、震えてた。凄く苦しそうな顔してた」

 アリアがまるで自分の事の様に、その顔を苦しそうに、悲しそうに歪めた。彼女から伝わってくるのは、怒りや恐怖などでは無く同情。アルフレッドに従っていた2人は、被害者であるアリアに同情を寄せられる程に怯えていたのだろう。

「その時、全部、全部分かった。ロンドンを脅かしてる婦女暴行は、フレッドが企てた事なんだって。私は、フレッドの素性を知ってる。住んでる場所だって分かる。だから、全部警察に話してやるって、そしたらお前の人生も終わりだって脅してやった。でも、フレッドは簡単に脅せる相手じゃなかった。私の言葉なんてあの男に取っては微塵も痛くなくて、寧ろ『お前の今の生活も、家族同然の酒場の嬢達も主人も、全部潰してやる』って言って笑って脅し返してきた。それで酷い暴力を受けて、それからの記憶は無い。目が覚めたら周りに警察が居て、ママも、此処の店の子達も居た」

「……酷い男」

「本当に、酷い男だよ。私ね、暴行された事なんてどうだって良かったの。確かにフレッドには会いたくなかったけど、身体を売って生きてきた私にとっては些細な事だった。でも、それを知ってる筈なのに、ママも店の子も、自分の事の様に泣いて怒ってくれた。だから私、皆の涙を見て、この場所を守らなきゃって思った。警察にも言わなかった。全部忘れようと思った」

「……」

「――でも」

 アリアが息を吐き、私の瞳を見つめた。

「貴女、あの男を止めるつもりなんでしょ? それも、非合法な手を使って」

「分かってたんだ」

「当たり前でしょ。事件について聞きたいって言われた時点で、ある程度の想像はついてたよ。私さっき、あの男を殺してでもとめてって言ったけど、貴女は最初からそうするつもりだった」

「……鋭いなぁ」

「私馬鹿だけど、そういうの分からない程鈍くないから」

 力強い彼女の言葉に、くすりと笑みを零す。
 正直、アリアから情報を得られる事は期待していなかった。しかし、アリアはとても有力な情報をくれた。
 だが、心の中に僅かに残る違和感。小さな疑問。彼女は、何かを誤魔化している。――いや、隠していると言った方が正しいだろうか。
 彼女から流れる感情と音を聞く限り、アリアはアルフレッドが従わせている男の片方を知っている筈だ。

「――あのさ」

 事件に関係の無い事であれば、聞く必要は無い。しかし、取り巻きの男の事だ。何かを知っているのなら、その情報を得る必要がある。

「アルフレッドが従わせていた男について、何か話してない事があるんじゃない?」

「――……」

 ゆらりと揺れる様に変わる空気。予想は、的中したらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...