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XXXIII 慎重に-III
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「――まぁ、そんな思い詰めなくてもなんとかなるって」
セドリックの背をぽんと叩き、漸く席に運ばれてきた酒を手に取る。
今は、とにかく彼を刺激してはいけない。少しでも彼の意識を別の物に向けなければ。
しかし、そんな思い虚しく彼がぽつりと「良いよな、お前は他人事で」と言葉を漏らした。それと同時に流れてくる、主犯格への憎悪と後悔。
セドリックの事だ。きっと、あの場で主犯格を殺しておかなかった事を憂いているのだろう。
「やっぱ、あんたは考え方がまだまだ子供だよねぇ……」
あの予言の手紙が無くとも、私はあの時セドリックを止めていただろう。
それは言わずもがな、あの場で出て行って殺してしまえば、確実にセドリックの未来は絶たれるからだ。幾ら正義を主張したとしても、殺人を犯した者の言葉など誰も聞いてはくれない。
人を殺す為には、緻密な計画を組む必要がある。世の中に完全犯罪は無いと警察は主張しているが、そんな物幾らだって偽装出来るのだ。
今セドリックに必要なのは殺意じゃない。エルとセドリックの未来を守る為の完璧な殺人計画だ。
彼のジャケットの内ポケットに手を差し込み、シガレットケースとマッチを抜き取った。マクファーデンがしていた様にマッチに火を付け、咥えた煙草の先にそれを移す。
マクファーデンが吸えるものが、自身は吸えない。その事実が何だか腹立たしく、悔しく感じ、あれから1人、隠れて煙草を吸う様になっていた。最初こそ咽てしまい肺に煙を入れる事すらままならなかったが、今では大分吸えるようになった。
「……お前、煙草吸えたっけ」
彼の問い掛けに薄ら笑いで返し、煙を吸い込む。
「なんだろうね。あんたの考えが子供というよりも、私の考えが普通じゃないのかなぁ」
「……それは否定できねぇな」
自身に続く様に、セドリックが煙草を口に咥える。
「今回の件、他人事だなんて思ってないよ。セディは大事な弟みたいなもので、そんな弟が連れて来た可愛い奥さんを、邪険になんてする訳無いでしょ。エルちゃんを守りたいって思うのは、私も同じ」
「……あっそ」
「反応薄いなぁ」
指の間に挟んだ煙草には、薄っすらと紅が付いていた。それは、あの時マクファーデンが褒めてくれた紅では無い、ずっと昔から使っていた古い紅。金にもならない安物だ。
今此処で、マクファーデンを思い出す必要は無かった。しかし無意識的に煙草を取ってしまったのは、今回の計画に不安があるからなのだろう。
私に完璧な殺人計画を練る事は出来るのか。2人を、守る事は出来るのか。じわじわと広がっていく不安に、もうだいぶ長い間会っていないマクファーデンに縋りたくなってしまった。きっと彼なら、殺人などやめなさいと言う筈なのに。
「苛立ちは誤った選択の引き金になりかねない。冷静で居れば、選択肢は他にある事や、その選択をすればどうなるか、理想の結果にするにはどの選択をすればいいか、自ずと見えてくる。だから、あの時セディを止めたの」
「……殺す以外に、方法はあるってか?」
「いや別に? そうは言ってないよ」
「……なんだそれ。さっきは殺人は犯罪だとか道徳的な事ほざいてたじゃねぇか」
「あれはセディを止める為の出任せ」
やはり、煙草に慣れたといっても決して美味しいと感じるものでは無い。それに、マクファーデンを殺人計画に巻き込んでしまっている様な気がして、罪悪感に胸が痛んだ。半分程残った煙草をアッシュトレイに押し付け、息を吐く。
セドリックの背をぽんと叩き、漸く席に運ばれてきた酒を手に取る。
今は、とにかく彼を刺激してはいけない。少しでも彼の意識を別の物に向けなければ。
しかし、そんな思い虚しく彼がぽつりと「良いよな、お前は他人事で」と言葉を漏らした。それと同時に流れてくる、主犯格への憎悪と後悔。
セドリックの事だ。きっと、あの場で主犯格を殺しておかなかった事を憂いているのだろう。
「やっぱ、あんたは考え方がまだまだ子供だよねぇ……」
あの予言の手紙が無くとも、私はあの時セドリックを止めていただろう。
それは言わずもがな、あの場で出て行って殺してしまえば、確実にセドリックの未来は絶たれるからだ。幾ら正義を主張したとしても、殺人を犯した者の言葉など誰も聞いてはくれない。
人を殺す為には、緻密な計画を組む必要がある。世の中に完全犯罪は無いと警察は主張しているが、そんな物幾らだって偽装出来るのだ。
今セドリックに必要なのは殺意じゃない。エルとセドリックの未来を守る為の完璧な殺人計画だ。
彼のジャケットの内ポケットに手を差し込み、シガレットケースとマッチを抜き取った。マクファーデンがしていた様にマッチに火を付け、咥えた煙草の先にそれを移す。
マクファーデンが吸えるものが、自身は吸えない。その事実が何だか腹立たしく、悔しく感じ、あれから1人、隠れて煙草を吸う様になっていた。最初こそ咽てしまい肺に煙を入れる事すらままならなかったが、今では大分吸えるようになった。
「……お前、煙草吸えたっけ」
彼の問い掛けに薄ら笑いで返し、煙を吸い込む。
「なんだろうね。あんたの考えが子供というよりも、私の考えが普通じゃないのかなぁ」
「……それは否定できねぇな」
自身に続く様に、セドリックが煙草を口に咥える。
「今回の件、他人事だなんて思ってないよ。セディは大事な弟みたいなもので、そんな弟が連れて来た可愛い奥さんを、邪険になんてする訳無いでしょ。エルちゃんを守りたいって思うのは、私も同じ」
「……あっそ」
「反応薄いなぁ」
指の間に挟んだ煙草には、薄っすらと紅が付いていた。それは、あの時マクファーデンが褒めてくれた紅では無い、ずっと昔から使っていた古い紅。金にもならない安物だ。
今此処で、マクファーデンを思い出す必要は無かった。しかし無意識的に煙草を取ってしまったのは、今回の計画に不安があるからなのだろう。
私に完璧な殺人計画を練る事は出来るのか。2人を、守る事は出来るのか。じわじわと広がっていく不安に、もうだいぶ長い間会っていないマクファーデンに縋りたくなってしまった。きっと彼なら、殺人などやめなさいと言う筈なのに。
「苛立ちは誤った選択の引き金になりかねない。冷静で居れば、選択肢は他にある事や、その選択をすればどうなるか、理想の結果にするにはどの選択をすればいいか、自ずと見えてくる。だから、あの時セディを止めたの」
「……殺す以外に、方法はあるってか?」
「いや別に? そうは言ってないよ」
「……なんだそれ。さっきは殺人は犯罪だとか道徳的な事ほざいてたじゃねぇか」
「あれはセディを止める為の出任せ」
やはり、煙草に慣れたといっても決して美味しいと感じるものでは無い。それに、マクファーデンを殺人計画に巻き込んでしまっている様な気がして、罪悪感に胸が痛んだ。半分程残った煙草をアッシュトレイに押し付け、息を吐く。
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