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XXXII 忠告と犯意-VI
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「止めるな」
その声は、能力を使わずとも怒りに満ちているのが分かる程に低く、私の手を拒む様に腕に力が籠るのを感じた。
――あぁ、やっと全てに気付けた。
あの黒の手紙は、本物の予言の手紙だ。“彼”とはセドリックの事であり、殺人計画はあの主犯格の男を殺すまでの過程を指している。
今彼が出ていったら、全てが壊れてしまう。あの手紙通り、セドリックを止めなければならない。
「……冷静になって」
冷静になど、なれる筈が無い。私だって、エルを大切にしているのだ。冷静になれないのは私だって同じである。しかし、もっと先を、未来を見据えて行動しなければならない。“殺人”なら猶更だ。
セドリックの殺意が強くなっていくのを感じながら、必死にセドリックを止めようと腕を掴む手に力を籠める。
「目先に囚われないで。ちゃんと正しい判断を……」
「これが俺にとっての“正しい判断”だ」
「待って、考え直して……」
「黙れ」
――しまった。
そう思った時には既に遅く、自身の首元には鋭いナイフの先端が突き付けられていた。
先端が首の皮膚を破り、焼ける様な痛みと共に血液が零れ出す。
セドリックの殺意は、最早頂点に達していた。このままでは、私まで殺されてしまう。
「お前の事まで殺したくない」
そう呟いたセドリックの感情は、今までにない程黒い。不快な耳鳴りは幾度となく音を変え、脳を刺激する様に響く。
「此処で出ていくのはあまりに無謀すぎる」
幾らお互いに護身術を身に着けていたとしても、そんな物では誤魔化しきれないのは男女の体格差。自身と同じ様に護身術――いや、戦闘術を身に着けているセドリックに、勝てる訳が無い。本気で掛かられたら、自身は呆気なく殺されてしまう。
「殺人は犯罪だよ」
「あいつ等がやってる事も犯罪だ」
「道徳的な話をしてるの」
「こんな仕事をしてる俺に、道徳の話をすんのか」
ナイフを握る手に、力が籠められる。
どの言葉を選んでも、セドリックの感情は昂ったままだ。このままでは埒が明かない。
「……ごめん」
瞳を閉じ、小さく呟いた。
「……悪く、思わないで」
ゆらりと持ち上げた手に勢いを付け、彼の頬へと振るう。
パシン、と響く乾いた音。それと同時に掌に走る痛み。
ナイフが石畳の上に落ち、彼の中の黒い感情が僅かに途切れる。
「――あれ、盗み聞きですか」
物音で自分達の存在に気付いたのか、主犯格の男が不気味な笑みを浮かべ此方に歩み寄って来た。
「悪趣味ですね」
悪趣味なのはどっちか。主犯格のその全てを知った様な顔は、私とセドリックの神経を逆撫でするには充分すぎるものだった。
その声は、能力を使わずとも怒りに満ちているのが分かる程に低く、私の手を拒む様に腕に力が籠るのを感じた。
――あぁ、やっと全てに気付けた。
あの黒の手紙は、本物の予言の手紙だ。“彼”とはセドリックの事であり、殺人計画はあの主犯格の男を殺すまでの過程を指している。
今彼が出ていったら、全てが壊れてしまう。あの手紙通り、セドリックを止めなければならない。
「……冷静になって」
冷静になど、なれる筈が無い。私だって、エルを大切にしているのだ。冷静になれないのは私だって同じである。しかし、もっと先を、未来を見据えて行動しなければならない。“殺人”なら猶更だ。
セドリックの殺意が強くなっていくのを感じながら、必死にセドリックを止めようと腕を掴む手に力を籠める。
「目先に囚われないで。ちゃんと正しい判断を……」
「これが俺にとっての“正しい判断”だ」
「待って、考え直して……」
「黙れ」
――しまった。
そう思った時には既に遅く、自身の首元には鋭いナイフの先端が突き付けられていた。
先端が首の皮膚を破り、焼ける様な痛みと共に血液が零れ出す。
セドリックの殺意は、最早頂点に達していた。このままでは、私まで殺されてしまう。
「お前の事まで殺したくない」
そう呟いたセドリックの感情は、今までにない程黒い。不快な耳鳴りは幾度となく音を変え、脳を刺激する様に響く。
「此処で出ていくのはあまりに無謀すぎる」
幾らお互いに護身術を身に着けていたとしても、そんな物では誤魔化しきれないのは男女の体格差。自身と同じ様に護身術――いや、戦闘術を身に着けているセドリックに、勝てる訳が無い。本気で掛かられたら、自身は呆気なく殺されてしまう。
「殺人は犯罪だよ」
「あいつ等がやってる事も犯罪だ」
「道徳的な話をしてるの」
「こんな仕事をしてる俺に、道徳の話をすんのか」
ナイフを握る手に、力が籠められる。
どの言葉を選んでも、セドリックの感情は昂ったままだ。このままでは埒が明かない。
「……ごめん」
瞳を閉じ、小さく呟いた。
「……悪く、思わないで」
ゆらりと持ち上げた手に勢いを付け、彼の頬へと振るう。
パシン、と響く乾いた音。それと同時に掌に走る痛み。
ナイフが石畳の上に落ち、彼の中の黒い感情が僅かに途切れる。
「――あれ、盗み聞きですか」
物音で自分達の存在に気付いたのか、主犯格の男が不気味な笑みを浮かべ此方に歩み寄って来た。
「悪趣味ですね」
悪趣味なのはどっちか。主犯格のその全てを知った様な顔は、私とセドリックの神経を逆撫でするには充分すぎるものだった。
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